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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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第43話 管理人の内見

翌朝。


異世界不動産の馬車は再び東の山へ向かっていた。


御者席にはガル。


荷台には悠人、レオン、ミリア、クロ、リリ、そして管理人候補のノエルが座っている。


「管理人になる前に、実際に住む場所を見てもらう。」


ガルが手綱を握りながら言った。


「住めない場所を勧める気はない。」


「よろしくお願いします。」


ノエルは静かに頭を下げた。


悠人は思わず笑う。


「今回は完全に内見ですね。」


「本業だ。」


ガルが短く答える。


ようやく不動産屋らしい仕事だった。



昼前。


一行は第六管理区画の管理小屋へ到着した。


応急修繕を終えた小屋は、前回来た時よりずっと明るく見える。


崩れていた屋根は直され、窓も新しくなっていた。


「すごい……。」


ノエルが目を輝かせる。


「山小屋というより、一軒家ですね。」


「二部屋あります。」


悠人が案内する。


「台所はこちらです。」


「井戸は裏庭。」


「畑も使えます。」


リリが嬉しそうに庭を案内する。


「ここで野菜が育てられますよ!」


「春になると花も咲きます。」


クロが静かに付け加えた。


ノエルは庭を見回し、嬉しそうに笑う。


「思っていたより暮らしやすそうですね。」


悠人は安心した。


第一印象は悪くない。



続いて管理小屋の裏へ案内する。


石畳の道。


結界柱。


そして第六管理区画へ続く巨大な石門。


ノエルの表情が少し引き締まった。


「あれを管理するんですね。」


「毎日ではありません。」


ミリアが説明する。


「結界柱の点検は週に一度。」


「石門周辺の巡回は毎朝です。」


「異常があれば店へ報告。」


「なるほど。」


ノエルは真剣に頷く。


仕事の説明を受ける姿は、とても落ち着いていた。


その時。


ゴーレムが石門の前へ現れる。


重い足音を響かせながら近付いてきた。


『管理責任者、確認。』


『来訪者を認識。』


ノエルは少し驚いたものの、逃げることはなかった。


「この方は?」


『第六管理区画管理補助機構。』


ゴーレムは静かに頭を下げる。


『管理人候補へ挨拶します。』


その姿を見て、悠人は少し安心する。


少なくとも、この施設は管理人を受け入れる準備ができているようだった。


しかし、その直後だった。


ゴーレムの青い瞳が一瞬だけ赤く点滅する。


『警告。』


『結界外周に未確認反応。』


ガルの表情が変わる。


「場所は。」


『西側結界柱付近。』


『距離、約四百メートル。』


レオンが剣へ手を掛ける。


「また設備トラブルか?」


ゴーレムは数秒沈黙したあと、静かに答えた。


『不明。』


『反応は……人型です。』


その言葉に、一行の空気が再び張り詰めた。


「人型?」


悠人は思わず聞き返した。


ゴーレムは西側の森へ視線を向けたまま答える。


『はい。』


『生命反応を一件確認。』


『管理登録なし。』


「管理人じゃないのか?」


レオンが尋ねる。


『現在の管理人登録は空席です。』


『該当者なし。』


ガルは短く指示を出す。


「確認する。」


「営業。」


「はい。」


「ノエルさんを頼む。」


「分かりました。」


悠人はノエルの隣へ立つ。


リリとクロもその場へ残った。


ガル、レオン、ミリア、そしてゴーレムが森へ向かう。


静かな山に足音だけが響く。



十分ほど待った頃だった。


森の奥から話し声が聞こえてきた。


「……助かった。」


「危ないところだった。」


やがて木々の間から現れたのは、一人の青年だった。


二十代前半ほど。


服は泥だらけで、肩には大きな荷物を背負っている。


顔には疲れが浮かんでいた。


「大丈夫ですか?」


悠人が駆け寄る。


青年は安心したように座り込んだ。


「道に迷ってしまって。」


「山を越えようと思ったら、崖が崩れて。」


「旅人か。」


ガルが尋ねる。


「はい。」


青年は頷く。


「薬師です。」


「各地の村を回って薬を売っています。」


荷物の中には乾燥薬草や小瓶がぎっしり詰まっていた。


ミリアも中を確認する。


「本物ですね。」


「危険物はありません。」


青年は周囲を見回した。


「ここは……?」


悠人は少し笑う。


「異世界不動産の管理物件です。」


「一般の人は立ち入り禁止なんですよ。」


青年は慌てて頭を下げた。


「すみません!」


「知りませんでした!」


「まあ。」


レオンが笑う。


「普通は知らねえよ。」


場の空気が少し和らぐ。



その時。


ノエルが青年の荷物へ目を向けた。


「あの。」


「薬師さんなんですよね?」


「はい。」


「山で採れる薬草にも詳しいですか?」


「もちろんです。」


青年は笑顔で答えた。


「それが仕事ですから。」


ノエルも嬉しそうに笑う。


「実は管理小屋の周りにも薬草畑があるんです。」


「本当ですか?」


青年の目が輝く。


「見てもいいですか?」


悠人はガルを見る。


ガルは少し考えてから頷いた。


「構わん。」


「ただし。」


「管理区域から離れるな。」


「はい。」


青年は深く頭を下げた。


こうして、一行は思いがけない来訪者を迎えることになった。


だが誰もまだ知らない。


この偶然の出会いが、第六管理区画の未来を大きく変えることになるとは。


青年は管理小屋の裏庭を見回し、感心したように頷いた。


「いい畑ですね。」


「薬草もよく育っています。」


ノエルが少し照れくさそうに笑う。


「まだ管理人じゃありませんけど。」


「もし働くことになったら、大事に育てたいです。」


青年は薬草を一本手に取る。


葉の色。


茎の太さ。


香りを確かめる。


「管理が丁寧です。」


「このままなら十分育ちます。」


「本当ですか?」


「ええ。」


青年はにこりと笑った。


「少し手入れを続ければ、村へ卸せるくらいにはなりますよ。」


その言葉にノエルの表情が明るくなる。


山で暮らしながら薬草を育てる。


管理人として働きながら生活もできる。


少しずつ未来が見えてきた。



ガルは青年へ地図を渡した。


「街道はこっちだ。」


「この道を真っ直ぐ行けば王都へ戻れる。」


「ありがとうございます。」


青年は深く頭を下げた。


「助かりました。」


「今度お礼に薬を持ってきます。」


「気を付けて帰れ。」


レオンが軽く手を振る。


青年はもう一度礼を言うと、山道を下っていった。


やがて姿が見えなくなる。


悠人は小さく息を吐いた。


「無事でよかった。」


「迷子一人で済んだな。」


レオンが笑う。


「最近にしては平和だった。」


「それでいいんですよ。」


悠人も苦笑した。



帰る前に、ガルはノエルへ銀色の鍵を差し出した。


「持て。」


ノエルは驚いた顔になる。


「え……?」


「正式採用だ。」


短い一言だった。


ノエルは目を丸くする。


「本当に……私でいいんですか?」


「ああ。」


「ここを見て。」


「逃げなかった。」


「仕事も理解した。」


「十分だ。」


ノエルは両手で鍵を受け取る。


その目には涙が浮かんでいた。


「よろしくお願いします。」


深々と頭を下げる。


こうして、第六管理区画には新しい管理人が誕生した。


悠人は管理小屋を見上げる。


古い建物。


静かな山。


そして、新しい住人。


事故物件を売るだけではない。


守る人へ場所を託す。


それもまた、異世界不動産の大切な仕事だった。


帰り道。


悠人は少しだけ誇らしい気持ちになっていた。


今日は誰も戦わなかった。


誰も傷付かなかった。


それでも一件の依頼を無事に終えることができた。


そんな日があってもいい。

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