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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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第42話 新しい管理人

三日後。


異世界不動産の店内は朝から慌ただしかった。


「営業。」


ガルが一枚の書類を悠人へ渡す。


「報告書だ。」


「王都ギルドへ提出してこい。」


「はい。」


悠人は書類へ目を通す。


第六管理区画 応急修繕完了。


結界維持率 三十二%。


早急な大規模修繕が必要。


最後には店長の署名が入っていた。


「これで終わりですか?」


悠人が尋ねる。


ガルは首を横へ振る。


「いや。」


「管理人がいない。」


その一言で悠人も思い出す。


第六管理区画を何十年も守ってきた老人。


命は助かったが、高齢のため現場へ戻ることは難しい。


つまり。


あの施設は無人になってしまう。


「新しい人を探すんですか?」


「それも仕事だ。」


ガルは当然のように答えた。


「管理物件には管理人が必要だ。」


悠人は苦笑する。


事故物件を売るだけではない。


管理人の採用まで不動産屋の仕事らしい。


その時だった。


店の扉が開く。


カラン。


入ってきたのは、第六管理区画の老人だった。


杖を突いているが、顔色はずいぶん良くなっている。


「お世話になりました。」


老人は深く頭を下げた。


「助けてもらった命じゃ。」


「礼を言わせてほしい。」


「お気になさらず。」


悠人も頭を下げる。


「仕事ですから。」


老人は嬉しそうに笑った。


「本当にいい店じゃ。」


しばらく談笑した後。


老人は懐から一枚の古い鍵を取り出した。


銀色の鍵だった。


見たこともない紋章が刻まれている。


「ガル。」


「これを。」


ガルは静かに受け取る。


「管理小屋の鍵だ。」


老人はゆっくり頷いた。


「今日から、お前さんたちへ預ける。」


店内が静まり返る。


「わしは引退する。」


「もう山は守れん。」


その言葉に、誰も返事ができなかった。


何十年も管理物件を守り続けてきた人が、仕事を終える。


それは寂しいことだった。


ガルは鍵を見つめる。


そして短く答えた。


「預かる。」


老人は安心したように笑った。


「これで心残りはない。」


しかし。


悠人は一つだけ気になった。


「店長。」


「新しい管理人は?」


ガルは静かに鍵を机へ置く。


「まだ決まってない。」


「だから探す。」


異世界不動産の仕事は、まだ終わっていなかった。


今度は"住む人"ではなく、"守る人"を探す仕事が始まる。


店内には静かな空気が流れていた。


机の上には、第六管理区画の鍵が置かれている。


銀色に輝くその鍵は、思っていた以上に重かった。


「管理人募集か。」


レオンが椅子にもたれる。


「そんな仕事、応募するやついるのか?」


「普通はいません。」


ミリアが苦笑する。


「山奥で一人暮らしですから。」


「しかも管理物件付き。」


悠人も思わず頷いた。


「求人を出しても集まらなさそうですね。」


「だから工夫する。」


ガルは即答した。


「営業。」


「はい。」


「求人票を作れ。」


「え?」


悠人は目を丸くする。


「俺がですか?」


「営業の仕事だ。」


反論できない。


確かに募集も営業活動の一つだ。


悠人は机へ向かい、紙へ書き始める。


管理人募集


勤務地:第六管理区画 管理小屋


仕事内容:施設点検・設備確認・巡回


住居支給


食料支給


危険手当あり


経験不問


「店長。」


「最後の一行だけ気になります。」


「何だ。」


「危険手当だけで応募来ます?」


レオンが吹き出した。


「来ねえだろ。」


「俺でも嫌だ。」


ミリアも苦笑する。


「もう少し魅力を書きましょう。」


「自然が豊かとか。」


「景色が綺麗とか。」


クロが静かに付け加えた。


「星も綺麗です。」


「夜は静かです。」


悠人は書き足していく。


自然豊か。


家具付き。


管理小屋完備。


星空が綺麗。


すると。


リリが元気よく手を挙げた。


「家庭菜園もできます!」


「できますか?」


悠人が聞く。


クロが小さく頷いた。


「畑があります。」


「じゃあ書きます。」


店内で求人票を作るという、何とも不思議な時間が流れていた。


その時だった。


カラン。


店のベルが鳴る。


「いらっしゃいませ!」


リリが笑顔で迎える。


入ってきたのは、一人の若い女性だった。


二十代半ばほど。


旅装束を着て、大きな荷物を背負っている。


「すみません。」


女性は店内を見回す。


「求人を見たんですが。」


全員の動きが止まった。


「え?」


悠人は思わず求人票を見る。


まだ店の外にも貼っていない。


「……どこで見たんですか?」


女性は首をかしげる。


「入口に貼ってありましたよ?」


悠人たちは一斉に入口を見る。


さっきまで机の上にあったはずの求人票が――


いつの間にか店の扉に貼られていた。


風で飛んだような位置ではない。


誰かが丁寧に貼ったように。


店内に、不思議な沈黙が流れた。


店内が静まり返る。


悠人は入口へ歩いていき、貼られた求人票を手に取った。


間違いない。


さっきまで机の上で書いていたものだ。


「誰が貼ったんだ……?」


リリが首をかしげる。


「私じゃないです。」


ミリアも静かに首を振る。


「私も見ていません。」


クロも同じだった。


レオンが笑う。


「新人。」


「また事故物件かと思ったか?」


「少しだけ。」


悠人は苦笑した。


ガルは求人票を一度見ただけで言う。


「風だ。」


「たぶん。」


「店長。」


「その『たぶん』で片付けるんですか。」


店内に小さな笑いが広がる。


異世界不動産では、不思議な出来事にも少し慣れてきていた。



悠人は改めて女性を応接スペースへ案内した。


「失礼しました。」


「求人のお話でしたね。」


「はい。」


女性は丁寧に頭を下げる。


「私はノエルといいます。」


「旅をしながら各地で仕事をしてきました。」


「山暮らしの経験はありますか?」


「あります。」


「薬草採取や山小屋の管理を三年ほど。」


悠人は思わず顔を上げた。


条件にぴったりだった。


「一人暮らしは?」


「慣れています。」


「建物の修理は?」


「簡単なものなら。」


レオンが小さく口笛を吹く。


「思ったより適任だな。」


ミリアも頷く。


「読み書きも問題ありませんね。」


ガルは静かに尋ねる。


「危険な仕事だ。」


「それでもやるか。」


ノエルは少しだけ微笑んだ。


「誰かがやらなければいけない仕事ですよね。」


「だったら。」


「私がやります。」


その言葉に、店内は静まり返った。


悠人はふと、先代管理人の言葉を思い出す。


『管理物件には管理人が必要じゃ。』


その役目を、今度はこの人が引き継ぐのかもしれない。



ガルは立ち上がった。


「営業。」


「はい。」


「現地案内だ。」


「まず管理小屋を見てもらう。」


「気に入れば契約。」


「分かりました。」


悠人は笑顔で頷く。


「ノエルさん。」


「一緒に現地を見に行きましょう。」


「お願いします。」


ノエルも笑顔で答えた。


こうして、第六管理区画には新しい管理人候補が現れた。


事故物件を売るだけではない。


守る人を見つけ、未来へつないでいく。


それもまた、異世界不動産の大切な仕事だった。


店の外では春の風が静かに吹いていた。


机の上には、銀色の管理小屋の鍵が陽の光を受けて穏やかに輝いている。


新しい物語は、また一つ動き始めようとしていた。

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