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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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第29話 避難所開設作戦

初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。

王都の南区へ向かう街道は、人で埋め尽くされていた。


荷物を抱えた家族連れ。


不安そうな表情の老人。


泣きじゃくる子供。


騎士たちの誘導に従いながら、人々は避難所へ向かっている。


悠人はその光景を見ながら足を止めた。


「多いな……」


思わず漏れた言葉だった。


王都に住む人間がこれほど多かったのかと改めて実感する。


普段は当たり前のように見ていた街並みも、こうして避難する人々で埋まると別の場所に見えた。


隣を歩くガルが鼻を鳴らす。


「当たり前だ」


「いや、そうなんだけどな」


「王都だけで何十万人住んでると思ってる」


言われてみればその通りだった。


不動産屋として物件は見てきた。


住民数も把握している。


それでも実際に全員が動き出した光景を見ると圧倒される。


「見ろ」


ガルが前を指差す。


旧商業ギルド本部。


かつて王都最大級の商業組織が使っていた建物だ。


五階建て。


石造り。


敷地も広い。


移転してから数年空き物件になっていたが、建物自体はしっかり管理されていた。


「やっぱりでかいな」


悠人が呟く。


営業時代にも何度か案内したことがある。


家賃が高すぎて契約には繋がらなかったが。


「今は助かる」


ガルは短く言った。


その通りだった。


建物の前には既に騎士たちが集まり始めている。


避難民も続々と到着していた。


「責任者は?」


ガルが聞く。


若い騎士が駆け寄ってくる。


「こちらです!」


建物入口へ案内される。


中へ入った瞬間、悠人はほっとした。


予想以上に状態が良い。


床も抜けていない。


窓も生きている。


水道設備も使えそうだった。


「使えるな」


「余裕で使える」


悠人は即答する。


「二千人は入れる」


騎士が目を見開く。


「そんなに?」


「詰めればもっといける」


元々大規模商業施設だった。


人を収容する能力は高い。


「食料庫は?」


ガルが聞く。


「地下です」


「案内しろ」


全員で建物内を回る。


地下倉庫。


会議室。


事務室。


休憩所。


次々確認していく。


不思議な感覚だった。


いつもなら物件案内をする側である。


今日は避難所の設営だ。


だがやっていることは似ている。


建物の状態を確認し、人が生活できるか判断する。


結局、不動産屋の仕事だった。


その時だった。


二階から怒鳴り声が聞こえる。


「だから嫌だって言ってるだろ!」


全員が顔を上げる。


騎士が慌てて階段を駆け上がった。


悠人たちも後を追う。


二階の大広間。


そこで揉め事が起きていた。


中年の男が騎士へ詰め寄っている。


「俺は北区に家があるんだ!」


「落ち着いてください!」


「落ち着けるか!」


避難民らしい。


気持ちは分かる。


家を残して避難しろと言われても納得できないだろう。


男の隣には妻らしき女性と小さな子供もいた。


子供は怯えている。


その姿を見て悠人はため息を吐いた。


「俺が行く」


「任せた」


ガルは即答した。


こういう時の悠人は意外と強い。


営業という仕事柄、難しい客の相手には慣れているのだ。


悠人は男の前へ立った。


「話を聞こう」


男が睨む。


「誰だお前」


「不動産屋」


「は?」


当然の反応だった。


悠人自身もそう思う。


だが構わず続けた。


「北区のどこだ」


「第五通りだ」


悠人は少し考える。


頭の中の地図をめくる。


「あの辺なら石造住宅だな」


男が驚く。


「知ってるのか」


「仕事だから」


王都の物件情報は大体入っている。


それが営業担当としての強みだった。


「家は頑丈だ」


悠人は言った。


「少なくとも今すぐ潰れることはない」


男の表情が少し緩む。


「本当か」


「本当だ」


嘘ではない。


築年数も知っている。


構造も知っている。


立地も知っている。


だから言い切れる。


「でもな」


悠人は続けた。


「家はまた直せる」


男が黙る。


「家族は直せない」


静かな声だった。


大広間も静かになる。


悠人は男の隣にいる子供を見る。


まだ五歳くらいだろう。


怯えきっている。


「お前が守るのは家か?」


男は何も言わない。


「家族か?」


長い沈黙。


やがて男は肩を落とした。


「……家族だ」


「ならここにいろ」


男はゆっくり頷いた。


騎士たちが安堵する。


ガルが腕を組みながら笑った。


「さすが営業だな」


「褒めてるか?」


「たぶん」


全く信用できない返事だった。


だが空気は確実に和らいでいた。


避難所の設営はまだ始まったばかり。


しかし少なくとも、この建物には人を守る役目ができた。


空は相変わらず不気味なままだったが、それでも悠人は少しだけ手応えを感じていた。


不動産屋にできることは少ない。


だがゼロじゃない。


それを証明する仕事が、今始まろうとしていた。


旧商業ギルド本部は、夕方になる頃には完全に避難所として機能し始めていた。


大広間には毛布が並べられ、空いている会議室は高齢者や小さな子供連れの家族向けに開放されている。


地下倉庫からは保存食が運び出され、炊き出しの準備も進んでいた。


騎士団だけでは到底回らなかっただろう。


王都中で同じような混乱が起きているのだから。


そんな中、異世界不動産の面々は自然と自分たちの役割を見つけていた。


「次の家族はこちらへ!」


リリが大きな声を上げる。


最初は緊張で声も震えていたのに、今では避難民の案内役として走り回っていた。


年齢が近い子供たちからは意外と人気がある。


怯えて泣いていた子供が、リリに手を引かれて少しだけ笑顔を見せる場面もあった。


「こっちの部屋は空いてるぞ!」


レオンは大広間の反対側で動いていた。


営業担当らしく人当たりがいい。


適当そうに見えるのに不思議と人を安心させる才能がある。


「兄ちゃん、どこに行けばいいんだ?」


「三人家族か?」


「ああ」


「なら二階だな。静かだし子供も寝やすい」


迷いがない。


案内する姿は普段の物件営業そのものだった。


ガルは全体を見ている。


騎士団との連携。


避難民の受け入れ。


物資管理。


いつの間にか現場責任者のようになっていた。


「店長」


悠人が近付く。


「収容人数は?」


「千八百を超えた」


「早いな」


「まだ増える」


ガルは窓の外を見る。


そこには避難民の列が続いていた。


終わりが見えない。


王都の状況がそれだけ悪いということだ。


悠人も窓へ近付く。


遠くで煙が上がっている。


異形との戦闘はまだ続いているらしい。


騎士団も冒険者たちも総動員されているはずだ。


それでも押し返しきれていない。


嫌な状況だった。


「北の光は?」


悠人が聞く。


ガルは首を振る。


「情報が来ない」


「王城も?」


「ああ」


北方に現れた巨大な光柱。


あれ以降、まともな報告が届いていない。


通信手段が遮断されているのか。


それとも別の理由か。


どちらにしても良い話ではなかった。


その時だった。


建物の入口が騒がしくなる。


怒鳴り声。


ざわめき。


人々が何かを見ている。


「何だ?」


レオンが顔を出した。


悠人たちも入口へ向かう。


そして全員が足を止めた。


そこに立っていたのは見覚えのある男だった。


黒い外套。


大剣。


傷だらけの姿。


カイルだった。


だが様子がおかしい。


服は裂け、肩には深い傷がある。


血も流れていた。


いつもなら平然としている男が、今は明らかに消耗している。


「おい」


ガルが目を細める。


「何があった」


カイルは答えない。


数秒ほど沈黙した後、ゆっくりと建物へ入ってくる。


避難民たちが道を開けた。


圧倒されているのだ。


ただならぬ雰囲気に。


悠人も嫌な予感しかしなかった。


北方へ向かった男が、この状態で戻ってきた。


それだけで十分だ。


良い知らせではない。


「カイル」


悠人が呼ぶ。


男はようやく顔を上げた。


その表情を見て全員が息を呑む。


恐怖だった。


あのカイルが。


今までどんな相手を前にしても平然としていた男が。


はっきりと恐怖を浮かべていた。


「北で何を見た」


ガルが聞く。


カイルは乾いた笑みを浮かべる。


そして。


「封印は壊れてた」


それは知っている。


以前聞いた話だ。


問題はその先だった。


「中も空だった」


「それも聞いた」


ガルが言う。


カイルは首を振った。


「違う」


低い声だった。


建物の空気が重くなる。


避難民たちも静まり返っていた。


「空じゃなかった」


誰も口を挟まない。


カイルはゆっくりと言った。


「もう出てた」


その瞬間。


悠人の胸の紋様が激しく熱を持った。


今までで一番強く。


呼応するように。


まるでその言葉を待っていたかのように。


そして同時に。


王都の空から再び鐘の音が響く。


ゴォォォォォン――。


誰もが反射的に空を見上げた。


黒い亀裂が脈打っている。


生き物の心臓のように。


そしてその中心から、ゆっくりと巨大な影が姿を現し始めた。


異形ではない。


もっと大きい。


もっと禍々しい。


もっと圧倒的な存在。


それを見た瞬間、ノアの顔から血の気が引いた。


「ありえない……」


初めて聞く声だった。


震えている。


そして彼女は呟く。


「なんで今いるの……」


その視線の先。


空の向こうから現れた巨大な影は、まるで王都全体を見下ろすように静かに目を開いた。


黄金色の瞳が。


真っ直ぐ悠人を見つめていた。

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