第27話 始まりの鐘
初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。
王都の空に浮かぶ黒い亀裂。
その下では混乱が広がっていた。
悲鳴。
怒号。
鐘の音。
王城から非常事態を知らせる警鐘が鳴り響く。
異世界不動産の前には、ゼノスが吹き飛ばした異形の残骸だけが残っていた。
誰も口を開かない。
いや。
開けなかった。
「あれを杖で吹っ飛ばしたのか……」
レオンが呆然と呟く。
「偶然じゃ」
ゼノスが答える。
「絶対違う」
全員一致だった。
老人は肩をすくめる。
だがその視線は空から離れない。
「数が多すぎる」
珍しく真面目な声だった。
王都のあちこちで爆発音が響いている。
すでに戦闘が始まっているのだろう。
騎士団も動いているはずだ。
しかし。
空からはまだ異形が降り続いていた。
「どうする」
ガルが聞く。
ゼノスは即答した。
「迎撃じゃ」
「それしかないか」
ガルが剣を握る。
レオンも立ち上がった。
「久しぶりに勇者らしい仕事だな」
「最初からやれ」
悠人が言う。
「平和だったからな」
全く反省していなかった。
その時。
店の奥でセレスが地図を見つめていた。
表情が険しい。
「どうした?」
ミリアが声を掛ける。
「これ」
セレスは地図を広げる。
昨日見つかった古代地図だ。
そこに新しい文字が浮かんでいた。
誰も触っていないはずなのに。
「また増えたの?」
悠人が嫌そうな顔をする。
もう驚かない。
最近はそういうものだと思い始めている。
アリシアが文字を読む。
そして。
表情が固まった。
「何て書いてある」
ガルが聞く。
アリシアはゆっくり答えた。
「第一観測対象覚醒時」
店内が静まる。
嫌な予感しかしない。
「続きは」
レオンが促す。
アリシアは息を整えた。
そして。
「終末観測計画を開始する」
誰も喋らない。
数秒の沈黙。
その後。
悠人が天井を見上げた。
「俺関係ある?」
「あると思う」
ノアが即答した。
「だよな」
最近ずっとそうだ。
地下都市も。
古代文明も。
この地図も。
全部どこかで繋がっている。
その時だった。
胸の紋様が再び光る。
今度は強い。
熱い。
悠人は思わず胸を押さえた。
「おい」
ガルが振り返る。
「大丈夫か」
答えようとした。
だが。
声が出ない。
頭の中へ何かが流れ込んでくる。
知らない景色。
知らない空。
崩壊する世界。
巨大な光。
そして。
一人の男。
赤い瞳の男がこちらを見ていた。
『ようやく始まったか』
初代だった。
地下都市で消えたはずの男。
その声が頭の中に響く。
『悠人』
呼ばれる。
はっきりと。
『時間がない』
景色が揺れる。
世界が軋む。
そして。
初代は静かに言った。
『空の向こうにいる奴らは前座だ』
悠人の背筋に冷たいものが走る。
前座。
今王都を襲っている化け物が。
前座。
『本命はまだ来ていない』
その言葉と同時に。
空の亀裂がさらに大きく広がった。
王都中に響くような音を立てながら。
まるで。
何かが向こう側から扉を押し開けているように。
空の亀裂が広がる。
王都中に響く異音。
まるで空そのものが悲鳴を上げているようだった。
誰もが上空を見上げる。
騎士たちも。
冒険者たちも。
避難している市民たちも。
そして異世界不動産の面々も。
「おいおい……」
レオンが顔を引きつらせる。
「さすがに大きくなりすぎだろ」
つい先ほどまで細い傷だった。
今は違う。
黒い亀裂は空の一部を覆うほどに広がっている。
王都のどこからでも見える。
そんな規模になっていた。
「まずい」
ノアが呟く。
その声に全員が振り向く。
彼女が焦るのは珍しい。
本当に珍しい。
「何がまずい」
ガルが聞く。
ノアは空を見たまま答えた。
「向こうが気付いた」
その言葉だけで十分だった。
誰も楽観視しない。
地下都市で見た記録。
三千年前の戦争。
世界の崩壊。
全部が頭をよぎる。
その時だった。
ドォォォン!!
王都の中心部で巨大な爆発が起きる。
黒煙が立ち上る。
悲鳴が響く。
異形たちが暴れ始めたのだ。
「チッ」
ガルが剣を抜く。
「話してる場合じゃないな」
「じゃな」
ゼノスも頷く。
「まずは街を守る」
全員が同意した。
今は謎より現実だ。
目の前で人が死にかけている。
考察している暇などない。
「手分けするぞ」
ガルが指示を出す。
元騎士団長らしい素早さだった。
「レオンは西区」
「了解」
「ミリアとアリシアは避難誘導」
「分かりました」
「セレスは王城へ戻れ」
「でも」
「王族には王族の仕事がある」
セレスは悔しそうだったが頷いた。
正論だった。
王城が混乱している今、彼女が必要になる。
そして。
ガルの視線が悠人へ向く。
「新人」
「何だ」
「お前はノアと一緒に動け」
悠人は頷く。
たぶんそれが一番安全だ。
ノアは危険人物だが味方なら心強い。
その時。
ゼノスが笑った。
「ならわしは好きにやるかの」
誰も止めない。
止められない。
好きにやらせた方が被害が少ない気がした。
カイルも立ち上がる。
大剣を背負い直す。
「北区を見てくる」
「一人でか」
レオンが聞く。
「十分だ」
即答だった。
妙に説得力がある。
その時。
悠人の胸の紋様が再び光る。
今度は強烈だった。
全員が気付くほどに。
「おい」
ガルが振り返る。
「またか」
悠人自身も困惑していた。
熱い。
胸が焼けるように熱い。
そして。
空の亀裂の中心から何かが現れる。
巨大な影。
異形とは比べ物にならない。
王都中が静まり返る。
誰もが見上げる。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
黒い何かが姿を現していく。
その瞬間。
ノアの顔色が変わった。
初めて見るほど険しい表情だった。
「嘘」
小さな声。
誰にも聞こえないほどの。
だが悠人だけは聞いた。
「知ってるのか」
ノアは答えない。
ただ空を見ていた。
そして。
震える声で呟く。
「まだ生きてたんだ」
その言葉と同時に。
空の向こうから巨大な瞳が覗いた。
世界を見下ろすような黄金の瞳。
王都の誰もが息を呑む。
そして悠人は気付く。
その瞳が。
真っ直ぐ自分を見ていることに。
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