第26話 空の亀裂
初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。
王都の上空に黒い亀裂が浮かんでいた。
誰も動かない。
誰も喋らない。
店内だけではない。
外の人々も同じだった。
街中が空を見上げている。
「……おい」
レオンが最初に口を開く。
「見間違いじゃないよな」
「残念ながら」
ミリアが答える。
「私にも見えてます」
つまり本物だった。
悠人は窓の外を見る。
亀裂は地下都市で見たものに似ている。
だが少し違った。
あの時より小さい。
それでも十分異常だ。
青空の真ん中に黒い傷が走っているのだから。
「最悪じゃな」
ゼノスが呟く。
いつもの余裕が少しだけ消えていた。
「知ってるのか」
ガルが聞く。
老人は頷く。
「知っとる」
その一言で空気が重くなる。
カイルも窓の外を見ていた。
険しい顔だ。
「予想より早い」
「何がだ」
レオンが聞く。
しかし二人はすぐには答えない。
代わりにノアが立ち上がった。
珍しく表情が硬い。
「地下都市の影響」
全員が彼女を見る。
「完全には止められなかった」
静かな声だった。
誰も茶化さない。
「初代を止めた」
「封印も崩した」
「でも奈落は残った」
ノアは空を見上げる。
「だから繋がった」
悠人は嫌な予感しかしなかった。
「どこと?」
その質問に答えたのはゼノスだった。
「向こう側じゃ」
「だから分からん」
「世界の外」
店内が静まる。
世界の外。
また意味の分からない単語が出てきた。
最近は説明を聞くたびに謎が増える。
「三千年前」
ゼノスは続ける。
「空が割れた」
悠人たちは黙って聞く。
「そこから色々出てきた」
「色々って」
「色々じゃ」
老人の説明は雑だった。
だが今回は誰も突っ込まない。
表情を見れば分かる。
冗談ではない。
「まさか」
セレスが呟く。
「記録にあった侵入者……」
ゼノスが頷く。
「たぶんな」
侵入者。
地下都市の記録にもあった言葉だった。
世界を壊しかけた存在。
三千年前の戦争。
全ての始まり。
「じゃあ今のあれは」
ミリアが空を見る。
「入口?」
「まだ違う」
ノアが答える。
「傷」
その表現が一番近かった。
世界の表面にできた小さな傷。
だが。
傷は放置すれば広がる。
その意味を全員理解していた。
その時だった。
店の外から悲鳴が聞こえる。
「おい!」
誰かが叫ぶ。
「何か落ちてくるぞ!」
全員が窓へ駆け寄る。
空を見る。
黒い亀裂の近く。
そこから何かが落ちていた。
人影。
いや。
人に見えるだけだ。
落下しながら黒い煙を纏っている。
一つではない。
二つ。
三つ。
十。
二十。
次々と現れる。
王都中に悲鳴が広がる。
「最悪じゃ」
ゼノスが立ち上がる。
今度は完全に笑っていなかった。
カイルも剣へ手を掛ける。
ガルが窓を開ける。
強い風が吹き込んだ。
落下してくる影は王都の各地へ向かっている。
避ける時間はない。
そして。
最初の一体が地面へ激突した。
轟音。
石畳が砕ける。
悲鳴。
土煙。
その中心から立ち上がったのは――
人ではなかった。
轟音が王都へ響く。
石畳が砕ける。
建物の窓が震える。
土煙が舞い上がり、人々の悲鳴が重なった。
そして。
その中心から何かが立ち上がる。
人型だった。
だが人間ではない。
全身が黒い外殻で覆われている。
顔もない。
目もない。
ただ頭部に赤い光が一つ浮かんでいた。
まるで生物と鎧を無理やり混ぜ合わせたような異形。
「何だあれ」
悠人が呟く。
誰も答えない。
いや。
答えられなかった。
全員が初めて見る存在だったからだ。
異形はゆっくり周囲を見回す。
そして。
近くにいた人間へ向かって歩き出した。
「逃げろ!」
騎士の叫び声が響く。
しかし遅い。
異形が腕を振るう。
空気が裂けた。
次の瞬間。
石畳が数十メートルに渡って吹き飛ぶ。
轟音。
土煙。
人々の悲鳴。
その威力を見た瞬間、全員の顔色が変わった。
「一般人じゃ無理だ」
ガルが剣を抜く。
レオンも笑みを消していた。
「王都に二十体以上落ちたぞ」
「もっとじゃ」
ゼノスが窓の外を見る。
「まだ来る」
空の亀裂から黒い影が降り続いている。
終わりが見えない。
「店長!」
リリが震える声を出した。
悠人は振り返る。
少女の顔は真っ青だった。
当然だろう。
こんな光景を見れば誰でもそうなる。
「奥にいろ」
「でも」
「大丈夫だ」
根拠はなかった。
それでも言うしかない。
リリは唇を噛みながら頷いた。
その時。
ドンッ!!
すぐ近くで爆発音が響いた。
店全体が揺れる。
全員が窓を見る。
通りの向こう側。
異世界不動産から百メートルも離れていない場所へ、新たな異形が落下していた。
「近いな」
カイルが呟く。
その声は妙に落ち着いていた。
まるでようやく仕事が始まったと言わんばかりに。
異形が立ち上がる。
そして。
真っ直ぐ店の方を向いた。
赤い光が点滅する。
嫌な予感がした。
ものすごく。
次の瞬間。
異形が跳んだ。
地面が陥没するほどの踏み込み。
一直線。
異世界不動産へ向かってくる。
「来るぞ!」
ガルが叫ぶ。
窓ガラスが砕ける。
異形が店へ突っ込む――
その直前だった。
ゴン。
妙な音が響く。
異形の動きが止まる。
店の前。
いつの間にかゼノスが立っていた。
杖を片手に。
ただそれだけ。
異形の拳は老人の目の前で止まっている。
いや。
止められていた。
杖一本で。
「やれやれ」
ゼノスがため息を吐く。
「最近の若いのは元気じゃのう」
次の瞬間。
杖が軽く振られる。
それだけだった。
異形の身体が吹き飛ぶ。
建物を三つ突き破り、そのまま遥か彼方へ消えていった。
王都中が静まり返る。
悠人も。
レオンも。
ガルも。
言葉を失う。
カイルだけが腕を組んだ。
「相変わらずか」
「年寄りを働かせるな」
ゼノスは文句を言う。
しかしその顔に余裕はない。
老人は空の亀裂を見上げる。
そして小さく呟いた。
「まずいのう」
その声は。
今まで聞いた中で一番重かった。
「本当に始まったらしい」
誰に向けた言葉でもなかった。
だが全員が理解した。
地下都市で終わったと思っていた話は終わっていない。
むしろ。
今始まろうとしている。
そしてその瞬間。
悠人の胸の紋様が強く光った。
今までで一番強く。
まるで何かに反応するように。
空の向こう側へ。
ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。




