第25話 北から来た男
初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。
翌日。
異世界不動産は朝から騒がしかった。
「店長!」
リリが走ってくる。
「契約書終わりました!」
「こっちは?」
「あと三件です!」
「早いな」
「頑張りました!」
胸を張るリリ。
四十三日間の営業停止を乗り越えただけあって、以前よりずっと頼もしくなっていた。
悠人は少し感心する。
本当に成長したものだ。
その横ではゼノスがのんびり紅茶を飲んでいた。
昨日からずっといる。
家を探しに来た客のはずなのに帰らない。
「お前まだいたのか」
「客じゃからな」
当然のように答える。
確かに客だった。
だが普通の客は開店から閉店まで居座らない。
ノアがぼそりと言う。
「もう住んでる」
「言うな」
ゼノスは笑っていた。
その時。
店の扉が開く。
カラン。
鈴の音が響く。
新しい客だろう。
悠人は反射的に顔を上げた。
そして。
違和感を覚える。
入ってきた男は背が高かった。
黒い外套。
無精髭。
肩には大剣。
冒険者のようにも見える。
だが。
店内へ入った瞬間。
空気が変わった。
ガルが立ち上がる。
レオンも笑顔を消した。
ミリアが無言で魔力を練る。
明らかに普通ではない。
男は店内を見回す。
そして。
悠人を見る。
「やっと見つけた」
どこかで聞いた台詞だった。
最近多い。
本当に多い。
「またか」
思わず口から漏れる。
男は眉をひそめた。
「また?」
「気にするな」
悠人は頭を押さえる。
王女にも言われた。
知らない老人にも会った。
今度は知らない男である。
男は近付いてくる。
重い足音。
ただ歩いているだけなのに妙な威圧感があった。
「お前が悠人か」
「そうだけど」
「なるほど」
男は何かを確かめるように頷く。
その様子を見ていたゼノスが小さく笑った。
「遅かったのう」
男の足が止まる。
初めてゼノスへ視線を向けた。
そして。
珍しく表情が変わる。
「生きてたのか」
「勝手に殺すな」
「三千年も経てば普通は死ぬ」
「わしは普通ではない」
「知ってる」
二人の会話を聞いていた全員が黙る。
知り合いだった。
しかもかなり昔からの。
ノアが目を細める。
「誰?」
男はしばらく沈黙した。
そして。
「カイル」
短く名乗る。
その瞬間。
ゼノスが嫌そうな顔をした。
珍しい反応だった。
「面倒なのが来たのう」
「お前にだけは言われたくない」
即答だった。
どうやら相性は悪いらしい。
悠人は嫌な予感しかしなかった。
最近現れる新キャラが全員危険人物なのである。
するとカイルは腰の剣へ手を置く。
店内の空気が張り詰める。
ガルが前へ出る。
レオンも構えた。
リリは完全に固まっている。
だが。
カイルは剣を抜かなかった。
代わりに。
腰の袋から紙を取り出す。
そしてカウンターへ置いた。
「依頼だ」
全員が固まる。
「……依頼?」
「そうだ」
カイルは真顔だった。
「家を探してほしい」
店内が静まり返る。
数秒後。
レオンが吹き出した。
「お前もか!」
「家を探してほしい」
店内が静まり返る。
数秒後。
レオンが腹を抱えて笑い始めた。
「ははははっ!」
「何がおかしい」
カイルは真顔だった。
本気で分かっていないらしい。
「いや」
レオンは笑いながら言う。
「お前まで家探しかよ」
「不動産屋だろう」
正論だった。
ぐうの音も出ないほど。
悠人は深いため息を吐く。
最近の客はどうしてこうなんだろう。
普通の依頼のはずなのに、全員が規格外である。
「条件は?」
仕事なので聞く。
カイルは少し考えた。
「静かな場所」
「はい」
「近くに人が少ない」
「はい」
「剣を振れる」
「なるほど」
ゼノスが横から口を挟む。
「お前さん、人里で暮らす気ないじゃろ」
「ある」
「嘘じゃな」
即答だった。
カイルも否定しない。
どうやら事実らしい。
リリがせっせとメモを書いている。
以前ならこういう空気に飲まれていたはずだ。
今では普通に受付をしている。
成長したものである。
「予算は?」
悠人が聞く。
カイルは無造作に袋を置いた。
ガシャン。
重い音が響く。
嫌な予感がした。
中を見る。
金貨だった。
大量に。
本当に大量に。
「……いくらだ」
「知らん」
「知らん?」
「数えてない」
店内が静かになる。
レオンが袋を覗き込む。
「おい」
「何だ」
「小さい家なら十軒くらい買えるぞ」
リリのペンが止まった。
ミリアも驚いている。
普通の感覚ではない。
カイル本人だけが不思議そうだった。
「足りないか?」
「十分すぎる」
むしろお釣りで豪邸が建つ。
その時だった。
ゼノスがカイルを見ながら呟く。
「北の封印はどうした」
店内の空気が変わる。
カイルの目が僅かに細くなった。
「壊れた」
全員が固まる。
「壊れた?」
ガルが聞く。
「半年前にな」
さらっととんでもないことを言った。
ノアが椅子から立ち上がる。
珍しく表情が険しい。
「何が出た?」
カイルは少しだけ考える。
そして。
「何も」
「何も?」
「中は空だった」
沈黙。
それはそれでおかしい。
封印があるなら何かを閉じ込めているはずだ。
空ということはない。
ゼノスも難しい顔をしていた。
「誰かが先に開けたか」
「たぶんな」
短いやり取りだった。
だが重い。
悠人には詳しく分からない。
それでも重要な話だということだけは理解できた。
その時。
店の奥でアリシアが立ち上がる。
古代地図を調べていた彼女だ。
「これ」
全員が振り向く。
アリシアは地図の裏側を見せた。
昨日まで気付かなかった文字が浮かんでいる。
古代文字だった。
「何て書いてある?」
セレスが聞く。
アリシアはゆっくり読み上げた。
「終末観測計画」
店内が静まる。
また嫌な単語が出てきた。
最近そういうのばかりである。
アリシアは続ける。
「保険対象」
「第一観測者」
「悠人」
全員の視線が集まる。
悠人はもう慣れていた。
慣れたくなかったが。
完全に慣れていた。
「また俺か」
思わず呟く。
すると。
カイルが初めて驚いた顔をした。
「待て」
低い声だった。
「今何と言った」
アリシアが文字を指差す。
カイルの表情が変わる。
ゼノスも珍しく真顔だった。
ノアは無言。
セレスは息を呑む。
そしてカイルはゆっくり言った。
「それを知っているのは」
誰も口を挟まない。
「本来なら三人だけのはずだ」
その言葉と同時に。
店の窓が突然震えた。
ビリッ。
空気が揺れる。
魔力。
異常なほど巨大な魔力だった。
全員が反射的に外を見る。
王都の遥か上空。
青空の中に。
黒い亀裂が浮かんでいた。
地下都市で見たものと。
よく似た亀裂が。
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