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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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23/48

第23話 営業再開初日

初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。

「次の方どうぞー!」


リリの元気な声が店内へ響く。


異世界不動産営業再開から三時間後。


悠人はすでに後悔していた。


「広い倉庫を探してまして」


「予算は?」


「金貨八十枚ほどで」


「候補あります」


「本当ですか!?」


ある。


問題なくある。


だが。


「店長!」


リリが叫ぶ。


「次のお客様です!」


「はいはい!」


休む暇がない。


次から次へと客が来る。


四十三日分の案件が溜まっているのだから当然だった。


机の上には書類の山。


右にも山。


左にも山。


もはや景色である。


「頑張れ」


ノアが紅茶を飲みながら言った。


完全に他人事だった。


「お前も働け」


「私は客」


「違うだろ」


店員だったはずだ。


だがノアは聞こえないふりをする。


最近どんどん図太くなっている気がする。


その隣ではレオンが菓子を食べていた。


「平和だな」


「働け」


「勇者に不動産の知識はない」


正論だった。


腹立たしいことに。


ガルは書類整理を手伝ってくれている。


ミリアも契約書の確認中だ。


アリシアは古い地図を調べている。


戦力差が激しい。


「店長ー!」


リリが再び呼ぶ。


「今度は店舗希望のお客様です!」


「行く!」


悠人は立ち上がる。


もはや反射だった。


その時。


入口の扉が開いた。


鈴の音が鳴る。


新しい客かと思った。


だが違った。


入ってきたのは老人だった。


背は低い。


白髪。


杖を持っている。


どこにでもいそうな老人。


なのに。


店内の空気が変わる。


ノアが顔を上げた。


ガルも動きを止める。


ミリアの表情も僅かに変わる。


「……どうした?」


悠人が小声で聞く。


ガルは老人を見たまま答える。


「強い」


短い一言だった。


悠人も改めて老人を見る。


確かに妙だった。


普通の老人に見える。


だが視線を向けると違和感がある。


まるで底が見えない。


そんな感覚だった。


老人は店内を見回す。


そして。


悠人を見つけた。


「おお」


嬉しそうに笑う。


「やっとおったか」


初対面のはずだった。


だが老人は昔から知っている相手を見るような顔をしている。


「どちら様で?」


悠人が聞く。


老人は杖を鳴らした。


コツン。


小さな音だった。


「客じゃよ」


そう言って笑う。


「家を探しに来た」


不動産屋としては正しい来店理由だった。


だから悠人も仕事モードへ切り替える。


「ご予算は?」


「予算はある」


「ご希望の条件は?」


老人は少し考える。


そして。


「静かな場所」


「はい」


「日当たりが良い」


「はい」


「庭が広い」


「はい」


ここまでは普通だった。


だが。


老人は最後にこう言った。


「封印が効く場所がいい」


店内が静まり返った。


リリだけが意味が分からず首を傾げている。


ガルがゆっくり立ち上がる。


ノアは老人を見つめる。


そして。


老人もまたノアを見る。


数秒。


沈黙。


その後。


老人は困ったように笑った。


「そんなに警戒せんでくれ」


誰も気を緩めない。


老人は肩をすくめる。


そして悠人へ視線を戻した。


「安心せい」


穏やかな声だった。


「今日は本当に家を探しに来ただけじゃ」


その言葉を。


なぜか誰も信じられなかった。


店内が静まり返る。


老人は相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。


だが誰も油断していない。


ガルは立ったまま老人を見ている。


ノアも視線を外さない。


ミリアとアリシアも警戒していた。


そんな空気の中。


リリだけが首を傾げる。


「封印付きの家ってありますか?」


「ない」


悠人が即答した。


「ですよね」


リリも納得する。


あるわけがない。


不動産屋である。


封印師ではない。


老人は楽しそうに笑った。


「そうかそうか」


そして店内を見回す。


まるで何かを確認するように。


「ずいぶん賑やかになったのう」


「おかげさまで」


悠人は一応接客を続ける。


強そうだろうが怪しかろうが客は客だ。


少なくとも今のところは。


老人はゆっくり椅子へ腰掛けた。


「なら条件を変えよう」


「お願いします」


「静かな場所」


「はい」


「広い庭」


「はい」


「近所に厄介な奴がおらん場所」


「それは大事ですね」


「じゃろう?」


妙に話しやすい老人だった。


だから余計に怖い。


ガルたちの反応を見る限り、間違いなく普通ではない。


すると老人が不意に言った。


「最近、地下へ行ったそうじゃな」


悠人の手が止まる。


店内の空気も変わった。


「どこで聞いたんです?」


「噂じゃよ」


老人は笑う。


「王都中が騒いでおる」


それは事実だった。


行方不明になった勇者。


騎士団長。


不動産屋。


そして終焉の魔女。


騒ぎにならない方がおかしい。


「大変じゃったろう」


老人は紅茶を一口飲む。


いつの間にかリリが出していた。


「まあ」


悠人は曖昧に答えた。


地下都市の話をここで説明する気はない。


老人も深く聞くつもりはないようだった。


ただ。


次の言葉で全員の動きが止まる。


「久しぶりに目覚めたか」


静かな声だった。


だが。


その場にいた全員が理解した。


何の話か。


「誰のことです?」


悠人が聞く。


老人は紅茶を見つめたまま答える。


「赤い目をした退屈そうな男じゃ」


店内が沈黙する。


リリだけがついていけていない。


ノアの目が細くなる。


「知ってるの?」


老人は肩をすくめた。


「昔からな」


その答えだけで十分だった。


地下都市のことを知っている。


いや。


初代のことを知っている。


それもかなり昔から。


ガルが低い声を出した。


「何者だ」


老人は少し考える。


そして。


「隠居老人」


「嘘ですね」


ミリアが即答した。


老人は大笑いした。


本当に楽しそうだった。


「最近の若い子は厳しいのう」


「最近じゃない人ですよね?」


ノアが言う。


老人の笑顔が少しだけ深くなる。


数秒。


静寂。


そして。


「鋭いのう」


認めた。


あっさりと。


店内の緊張が一段上がる。


悠人は思わずため息を吐いた。


まただ。


また面倒な人物が増えた。


地下都市から帰ってきてまだ一日も経っていないのに。


「名前くらい教えてくれません?」


悠人が聞く。


老人は頷く。


「そうじゃな」


そして。


杖を握ったまま笑った。


「ゼノスじゃ」


その瞬間。


ノアの表情が固まった。


珍しく。


本当に珍しく。


言葉を失っている。


ガルも驚いていた。


レオンでさえ笑顔が消える。


悠人は周囲を見回した。


どうやら。


今度の客も普通ではないらしい。


そしてゼノスは。


そんな反応を見て満足そうに笑うのだった。

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