第22話 探していた人
初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。
「ようやく会えた」
店内が静まり返る。
銀髪の少女は悠人を見つめたまま立っていた。
その瞳には迷いがない。
間違いなく悠人を目当てに来たらしい。
だが当の本人には心当たりがなかった。
「えっと」
悠人は慎重に口を開く。
「どちら様で?」
少女の表情が固まった。
数秒。
本当に数秒。
綺麗に固まった。
「覚えてないの?」
「初対面だと思う」
「本当に?」
「本当に」
少女は額を押さえた。
何故かショックを受けている。
こちらの方が困惑していた。
「店長」
リリが小声で話しかける。
「知り合いじゃないんですか?」
「知らん」
「本当に?」
「だから知らん」
会話がさっきと同じだった。
レオンが面白そうに眺めている。
絶対楽しんでいる。
助ける気はない。
銀髪の少女は深呼吸した。
気持ちを落ち着けているらしい。
そして改めて名乗る。
「セレス」
綺麗な声だった。
「セレス・アルヴェイン」
聞き覚えのない名前だ。
だが。
その瞬間。
周囲の反応がおかしくなった。
騎士の女性が目を見開く。
リリも固まる。
店内の空気が変わった。
「どうした?」
悠人が聞く。
レオンが小さく答える。
「新人」
「何だ」
「王族だ」
「は?」
意味が分からない。
「王族」
「いや聞こえてる」
聞こえてはいる。
理解が追い付いていないだけだ。
セレスは少しだけ気まずそうな顔をした。
「一応」
「一応で済む話か?」
レオンが呆れる。
ガルも珍しく驚いていた。
「第二王女だったな」
「はい」
さらっと肯定された。
悠人は天井を見上げた。
何故だろう。
地下都市を出てから問題の規模が大きくなっている気がする。
「王女様が何でうちに?」
当然の疑問だった。
セレスは迷いなく答える。
「探してたから」
話が戻った。
そこなのだ。
問題は。
「だから何で?」
セレスは持っていた古びた地図を広げる。
机の上に置く。
かなり古い。
端が擦り切れている。
紙質も見たことがないものだった。
アリシアの表情が変わる。
「それ」
「知ってるの?」
セレスが聞く。
アリシアは地図を覗き込んだ。
そして小さく呟く。
「古代文明時代の紙」
店内が静まる。
またか。
悠人は頭が痛くなってきた。
最近ずっとこれである。
平和な不動産屋はどこへ行ったのか。
セレスは地図の中央を指差す。
そこには古代文字が記されていた。
アリシアがゆっくり読み上げる。
「観測対象」
その下。
さらに小さな文字が続いている。
アリシアの顔色が変わった。
「悠人」
まただった。
店内の全員が黙る。
最近その名前を古代遺跡で見過ぎている。
当人はもう驚く気力もない。
「説明してくれ」
ガルが言う。
セレスは頷いた。
そして。
「私の家系は三千年前から、この人を探してる」
さらっと爆弾を投下した。
全員が沈黙する。
悠人だけが天井を見上げた。
帰ってきたら仕事が待っていると思っていた。
違った。
仕事も待っていた。
謎も待っていた。
しかも増えていた。
「私の家系は三千年前から、この人を探してる」
セレスの言葉に店内が静まり返った。
誰もすぐには反応できない。
悠人はもう驚くのを諦め始めていた。
最近は何を聞いても「またか」で済ませられる気がする。
「待て」
レオンが手を上げる。
「三千年前?」
「はい」
「家系が?」
「はい」
「ずっと?」
「ずっとです」
レオンは黙った。
理解を放棄したらしい。
ガルも額を押さえる。
「説明できるか」
「できます」
セレスは真面目な顔で頷いた。
そして地図の端を指差す。
そこには王家の紋章とよく似た印が描かれていた。
ただし少し違う。
もっと古い形だ。
「これは王国ができる前の印です」
アリシアが目を細める。
「古代王家」
「そう」
セレスは頷いた。
「今の王家はその分家」
また新しい情報だった。
「私たちの家には代々伝わる使命があります」
静かな声だった。
「ある人物を見つけること」
そして。
「その人物の名前が悠人」
店内が再び静かになる。
リリなど完全に話についていけていない。
口を半開きにしている。
「俺を探してた理由は?」
悠人が聞く。
それが一番重要だった。
セレスは少しだけ困った顔になる。
「それが分からないの」
「は?」
「本当に」
彼女は肩を落とした。
「記録の大半が失われてる」
それは妙に現実的な話だった。
三千年も経てば失われるものもある。
「残っているのは」
セレスは古い地図をなぞる。
「探せ」
「見つけろ」
「必ず会え」
それだけだった。
「命令だけ残った」
悠人はため息を吐く。
最近そんな話ばかりだ。
重要な部分だけ綺麗に消えている。
ノアが地図を覗き込む。
珍しく真剣な顔だった。
「これ誰が作ったか分かる?」
セレスは首を振る。
「分からない」
「そう」
ノアはそれ以上何も言わない。
だが何か引っ掛かっているようだった。
その時だった。
コンコン。
店の扉が叩かれる。
全員が振り返る。
「営業中ですかー!」
外から声が聞こえる。
沈黙。
もう一度。
「物件の相談したいんですけどー!」
さらに別の声。
「店主帰ってきたって聞いたぞー!」
現実が戻ってきた。
悠人は頭を抱える。
完全に忘れていた。
外には大量の客が並んでいる。
ガルが笑いを堪えている。
「新人」
「何だ」
「本業だ」
その言葉で全員が吹き出した。
確かにそうだった。
地下都市。
古代文明。
初代魔王。
全部大事だ。
だが。
今の悠人は不動産屋なのである。
リリが慌てて立ち上がる。
「店長!」
「うん」
「どうします!?」
悠人は店内を見回した。
ガル。
レオン。
ノア。
ミリア。
アリシア。
そしてセレス。
全員がこちらを見ている。
その中で悠人は立ち上がった。
「営業する」
リリの顔が明るくなる。
「はい!」
「ただし」
悠人はセレスを見る。
「お前の話も聞く」
セレスは少しだけ笑った。
初めて見せる自然な笑顔だった。
「分かった」
こうして。
異世界不動産は四十三日ぶりに営業を再開する。
しかし誰も知らなかった。
セレスが持ち込んだ地図の裏側に、まだ誰も気付いていない文字が残されていたことを。
そしてその文字が、地下都市で見つけた記録以上の秘密へ繋がっていることを。
店の外では客たちの声が響く。
店の中では新たな謎が待っている。
悠人の忙しい日々は、まだ始まったばかりだった。
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