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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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第17話 勘違いしていたもの

初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。

地下都市が大きく揺れた。

天井の岩盤から無数の破片が落下し、広場のあちこちで砂煙が舞い上がる。

もう限界だった。

奈落の騒動が収まったとはいえ、都市そのものは崩壊を続けている。

それでも誰一人その場を動かなかった。

ノアの言葉が気になったからだ。

「最初から勘違いしてたってどういう意味だ?」

ガルが聞く。

ノアは少しだけ考えるように沈黙した。

そして悠人を見る。

「私たちはずっと、悠人が何かの器だと思ってた」

「俺もそう言われ続けてるな」

正直うんざりしている。

奈落の巨人もそうだった。

初代魔王も似たような反応だった。

地下都市の記録にも名前が残っていた。

もはや普通ではないことだけは理解している。

だが理解できないことの方が圧倒的に多かった。

「でも違った」

ノアは静かに言う。

「映像を見て確信した」

レオンが腕を組む。

「何が違う?」

「順番」

短い答えだった。

しかし誰も意味が分からない。

ミリアが眉をひそめる。

「順番?」

「うん」

ノアは頷く。

「私たちは器が先にあって、誰かが入ると思ってた」

そこで奈落の方を見る。

「初代もそう考えてる」

確かにそうだった。

奈落の巨人は悠人を器と呼んだ。

初代魔王も原初の器と言った。

つまり何かを入れるための存在。

それが今までの認識だ。

だがノアは首を振る。

「違う」

その声には確信があった。

「もし本当に器なら、三千年前の記録に本人が出てくるわけない」

広場が静まる。

悠人も少し考えた。

確かにおかしい。

器ならただの容れ物だ。

それなのに映像の中の青年は明確な意思を持っていた。

誰かに操られているようには見えなかった。

むしろ全てを理解した上で行動していた。

「じゃあ何なんだ」

ガルが聞く。

ノアは少しだけ笑った。

「逆」

その一言だった。

「器なんじゃなくて」

そこで言葉を切る。

地下都市が再び揺れた。

遠くで巨大な建造物が崩れる音が響く。

それでもノアは続きを口にした。

「器の元になった存在」

その場に沈黙が落ちた。

悠人は思わず頭を抱えそうになる。

また話が大きくなった。

本当に勘弁してほしい。

「つまり?」

レオンが聞く。

「簡単に言うと」

ノアは悠人を指差した。

「三千年前の人たちが真似しようとした本人」

「やめてくれ」

悠人は即答した。

「そんな話についていけない」

「私も言いながら信じられない」

ノアも肩をすくめる。

だが映像の内容を考えると辻褄が合う部分があった。

なぜ奈落の巨人が執着したのか。

なぜ初代魔王が興味を示したのか。

なぜ三千年前の記録に名前が残っていたのか。

全てが繋がり始めている。

そしてそれが一番嫌だった。

その時だった。

ミリアが突然顔を上げる。

「待って」

全員の視線が集まる。

彼女は石板を見ていた。

「まだ終わってない」

「何が?」

「記録」

石板が再び光り始めていた。

先ほど消えたはずの文字が浮かび上がる。

淡い青色の光。

まるで続きを再生しようとしているかのようだった。

アリシアも驚いた顔をしている。

「そんな……」

「まだ残ってるのか?」

ガルが聞く。

アリシアは小さく頷いた。

「でもおかしい」

「何がだ?」

「これは管理記録じゃない」

彼女の声が震える。

「個人記録」

その言葉に悠人は嫌な予感を覚えた。

地下都市の責任者か。

研究者か。

誰かが残した映像なのだろう。

そう思った。

だが次の瞬間。

石板へ表示された名前を見て全員が固まる。

記録者名。

そこに刻まれていた文字は――

『悠人』

だった。

広場を吹き抜ける風が止まったように感じた。

そして石板の光が強くなる。

三千年前に残された記録。

その持ち主が、自分と同じ名前だった。

いや。

もしかすると。

同じ名前ではなく――。

石板の光が広場を照らす。

誰も言葉を発しなかった。

記録者名――悠人。

その文字が消えることなく浮かび続けている。

「……冗談だろ」

レオンが呟く。

だが誰も笑わない。

笑える状況ではなかった。

悠人自身も石板を見つめていた。

頭が真っ白になる。

三千年前の記録。

そこに自分の名前が残されている。

偶然と言うには無理があった。

「再生されるみたいです」

ミリアが慎重に石板へ触れる。

術式を確認しているのだろう。

「映像ではなく音声記録ですね」

「本人の?」

ガルが聞く。

「たぶん」

その返事と同時に石板が脈打つように光った。

そして。

静かな男の声が響く。

『もしこの記録を聞いているなら』

広場の空気が凍り付く。

悠人は思わず息を呑んだ。

その声は自分によく似ていた。

年齢は少し上だろうか。

落ち着いていて、どこか疲れた声だった。

『まず謝っておく』

誰も口を挟まない。

全員が聞き入っている。

『多分かなり混乱しているはずだ』

その言葉に悠人は思わず苦笑した。

その通りだった。

むしろ混乱していない瞬間がない。

『だから簡潔に話す』

声は続く。

『時間がないからな』

地下都市が揺れる。

まるで記録に合わせるように。

『まず一つ』

『お前は俺じゃない』

悠人の表情が変わる。

ノアも僅かに目を細めた。

『記憶も違う』

『人生も違う』

『選択も違う』

静かな声だった。

『だから俺の代わりになる必要はない』

広場に沈黙が落ちる。

その言葉は妙に重かった。

まるで今まで誰かに言われ続けていたことへの答えのように。

『だが』

そこで少しだけ声が柔らかくなる。

『同じでもある』

「どっちだよ……」

悠人が思わず呟く。

レオンが横で深く頷いた。

全員同じ気持ちだった。

『説明すると長い』

『だから省略する』

勝手だった。

本当に勝手だった。

『俺は失敗した』

その一言で空気が変わる。

先ほどの映像でも聞いた言葉だった。

失敗した。

だから閉じる。

あの青年はそう言っていた。

『世界は救えた』

『でも全部は守れなかった』

声が僅かに沈む。

初めて感情が滲んだ。

後悔だった。

『だからやり直した』

ノアの顔色が変わる。

『何度も』

『何度も』

『何度も』

奈落の巨人が言っていた言葉と同じだった。

悠人の背筋に寒気が走る。

『ただし勘違いするな』

声が鋭くなる。

『やり直したのは俺じゃない』

その瞬間。

全員の表情が変わった。

「待て」

ガルが低く呟く。

「今のは」

ノアも石板を見つめている。

何かに気付いたようだった。

だが声は止まらない。

『あいつらだ』

『俺を再現しようとした連中』

『俺の選択を真似しようとした連中』

『そして失敗した』

奈落の巨人。

原初の器。

三千年前の文明。

点だった情報が少しずつ繋がっていく。

『お前はその結果じゃない』

『実験でもない』

『複製でもない』

悠人は拳を握った。

それは今まで聞きたかった言葉だった。

『だから好きに生きろ』

記録の声が少し笑う。

『不動産屋でも何でもいい』

「またそれかよ」

思わずツッコミが出た。

隣のノアが吹き出す。

こんな状況なのに。

少しだけ緊張が和らいだ。

『ただ一つだけ忠告する』

声が低くなる。

今までで一番真剣だった。

『初代には気を付けろ』

広場の空気が変わる。

『あいつは敵じゃない』

誰も動かない。

『味方でもない』

ノアの表情が固まる。

『あいつは退屈している』

その言葉の意味が分からない。

だが何故か嫌な予感しかしなかった。

『退屈したあいつほど面倒なものはない』

遠くで岩盤が崩れる音が響く。

地下都市の限界が近い。

『だから』

声が少しだけ笑った。

『適当に相手してやれ』

「無茶言うな」

悠人は即答した。

相手は世界最初の災厄だ。

適当に相手できる存在ではない。

『頑張れ』

最後の言葉だった。

『俺はもう疲れた』

石板の光が弱くなる。

『後は任せる』

そして。

記録は途切れた。

広場に静寂が戻る。

誰もすぐには話せなかった。

あまりにも情報量が多すぎたからだ。

長い沈黙の後。

ノアがぽつりと言う。

「なるほど」

またその言葉だった。

だが今度は全員が続きを待った。

ノアは石板を見つめる。

そして静かに言った。

「私たち、本当に勘違いしてた」

「何をだ?」

ガルが聞く。

ノアは悠人を見る。

真っ直ぐに。

そして。

「追い掛けていたのは未来じゃなかった」

地下都市が激しく揺れた。

天井の一部が崩落する。

もう時間は残されていない。

「逃げるよ」

ノアが言う。

「話は地上で続き」

その時だった。

奈落の底から、小さな笑い声が聞こえた。

誰にも聞こえないほど小さく。

だが悠人だけははっきり聞いてしまった。

『面白い』

初代魔王の声だった。

そして。

闇の奥で赤い瞳が一瞬だけ開いた。

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