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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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第16話 初代魔王

初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。

地下都市アークは静まり返っていた。


つい先ほどまで崩壊の轟音に包まれていたとは思えないほどの静寂だった。


奈落の巨人が消えたからではない。


もっと根本的な理由がある。


誰もが理解してしまったのだ。


本当に危険だった存在は、あの巨人ではなかったと。


崩れた広場の中央で、悠人は奈落を見下ろしていた。


闇は相変わらず底が見えない。


だが先ほどまで感じていた圧迫感は消えている。


初代魔王が再び眠りについたからだろう。


それでも妙な違和感が残っていた。


まるで誰かに見られているような感覚だ。


「気にするだけ無駄だよ」


隣でノアが言った。


いつの間にか隣へ来ていたらしい。


「顔に出てる?」


「かなり」


悠人はため息を吐いた。


「見られてる気がする」


「見てると思う」


「やっぱりか」


否定してほしかった。


ノアは苦笑する。


「たぶん完全には寝てない」


「嫌な情報をありがとう」


「どういたしまして」


全然ありがたくなかった。


少し離れた場所ではガルたちが脱出経路を確認していた。


地下都市の崩壊は止まっていない。


奈落の巨人は消えた。


初代魔王も沈黙した。


それでも都市そのものは限界を迎えている。


長居できる状況ではなかった。


「転移装置は?」


ガルが尋ねる。


アリシアは古びた石板を調べながら首を振った。


「半分壊れてる」


「半分なら動くか?」


「動くかもしれない」


「どっちだ」


「分からない」


全員が頭を抱えたくなった。


地下都市に来てからずっとこんな調子だった。


ミリアが魔法陣を展開する。


青白い光が石板の上を走った。


「術式は生きてる」


「本当か?」


レオンが身を乗り出す。


ミリアは頷いた。


「ただし出力不足」


「つまり?」


「五人なら危ない」


「六人なら?」


「もっと危ない」


意味が分からない。


しかしミリア本人も真面目だった。


冗談ではないらしい。


「要するに賭けですね」


そう言って肩をすくめる。


ガルが空を見上げた。


いや、正確には地下都市の天井を。


巨大な岩盤には無数の亀裂が広がっている。


場所によっては既に崩落が始まっていた。


「賭けでも何でもいい」


低い声だった。


「ここよりはマシだ」


それには誰も反論できなかった。


悠人も同感だった。


もう地下都市は十分である。


一生分の遺跡探索をした気分だ。


不動産屋になったはずなのに、なぜこんな場所で世界の危機と戦っているのか。


本気で分からなくなっていた。


するとレオンが肩を叩いてくる。


「諦めろ」


「何を?」


「俺も分からん」


同じことを考えていたらしい。


その時だった。


アリシアが急に動きを止める。


石板へ触れていた手が震えていた。


「どうした?」


ミリアが尋ねる。


アリシアは返事をしない。


代わりに石板の文字を見つめている。


顔色が悪かった。


まるで見てはいけないものを見たように。


「アリシア?」


悠人も声を掛ける。


数秒後。


彼女はゆっくり顔を上げた。


「残ってる」


小さな声だった。


「何が?」


ガルが聞く。


アリシアは奈落を見た。


そして答える。


「記録」


空気が変わる。


「第六封印の?」


ミリアが尋ねる。


アリシアは頷いた。


「最後の記録」


ノアの表情が僅かに動く。


地下都市に残された記録。


しかも第六封印のもの。


今まで誰も知らなかった情報だ。


「読めるか?」


ガルが聞く。


アリシアは再び石板を見る。


古代文字が淡く光っていた。


三千年の時を越えて残った最後の言葉。


彼女は慎重に読み上げた。


「第六封印管理記録」


声が震える。


「対象名――」


そこまで読んだ瞬間だった。


奈落の底から微かな笑い声が聞こえた。


誰にも聞こえないほど小さい。


だが悠人だけは聞いた。


確かに。


はっきりと。


そして背筋が冷たくなる。


その声は初代魔王のものだった。


眠っているはずなのに。


まるで続きを楽しみにしているような笑い声だった。


アリシアは続きを読む。


そして。


その場にいた全員が言葉を失った。


「対象名――悠人」


広場から音が消えた。


風も。


崩落音も。


何も聞こえない。


ただその名前だけが耳に残った。


「対象名――悠人」


アリシアの声が広場に響く。


誰も反応できなかった。


悠人本人ですら理解が追い付かない。


「待て」


最初に口を開いたのはガルだった。


「聞き間違いじゃないな?」


「間違いない」


アリシアは石板を見つめたまま答える。


「確かにそう書いてある」


レオンが頭を抱えた。


「新人、お前三千年前から封印されてたのか?」


「俺が聞きたい」


悠人も即座に返した。


つい最近まで普通に日本で働いていたのだ。


少なくとも本人の記憶では。


三千年前の古代文明に名前が残っている理由など一つもない。


ノアだけが黙っていた。


石板と悠人を交互に見ている。


何かを考えているようだった。


「続きは?」


ミリアが促す。


アリシアは頷き、再び古代文字へ視線を落とした。


「対象名――悠人」


「分類――原初個体」


悠人の頭が痛くなる。


また知らない単語だった。


しかも聞き覚えがある。


奈落の巨人。


初代魔王。


どちらも似たようなことを言っていた。


「まだある」


アリシアの顔色が悪い。


読むのを躊躇っているようだった。


「読んでくれ」


ガルが言う。


ここで止めても仕方ない。


アリシアは小さく息を吸った。


「封印理由――」


そこまで読んだ瞬間。


石板全体が強く発光した。


青白い光が広場を照らす。


全員が反射的に目を細めた。


「何だ!?」


レオンが叫ぶ。


だが答える者はいない。


石板の文字が次々と浮かび上がる。


古代文字が空中へ広がり、巨大な魔法陣を形成していく。


ミリアが顔色を変えた。


「記録再生!」


「何?」


「映像記録です!」


その瞬間。


広場の景色が消えた。


正確には上書きされた。


目の前に巨大な都市が現れる。


崩壊前の地下都市アークだった。


空には無数の飛行船。


巨大な魔導塔。


行き交う人々。


今とはまるで別世界だった。


「これが……三千年前」


アリシアが呆然と呟く。


映像の中で人々が慌ただしく動いている。


誰もが焦っていた。


避難している。


逃げている。


まるで災害が迫っているように。


そして映像が移り変わる。


巨大な神殿。


何百人もの魔術師。


中央に存在する巨大な門。


悠人は思わず息を呑んだ。


見覚えがあった。


記憶の中で見た白い門。


あの門だった。


「嘘だろ……」


映像の中で誰かが叫ぶ。


古代語だ。


だが不思議と意味が理解できた。


『封印準備完了!』


『急げ!』


『時間がない!』


神殿全体が揺れている。


何かと戦っているらしい。


だが敵の姿は映らない。


代わりに。


一人の青年が映った。


広場が静まり返る。


黒髪。


黒い瞳。


見慣れた顔。


悠人だった。


正確には違う。


年齢は少し上だ。


雰囲気も違う。


だが間違いなく自分と同じ顔だった。


「おいおい……」


レオンが引きつった笑みを浮かべる。


「もう驚かんぞ」


「俺は驚く」


悠人は即答した。


映像の青年は神殿の中央へ歩いていく。


周囲の人々が道を開ける。


敬意ではない。


恐怖だった。


明らかに。


「これ……」


ノアの表情が険しくなる。


映像の中の青年は巨大な門の前で立ち止まった。


そして振り返る。


その顔に浮かんでいたのは笑顔だった。


穏やかな。


どこか優しい笑顔。


今の悠人とよく似ている。


だが次の言葉で全員が凍り付いた。


『失敗したな』


青年はそう言った。


そして空を見上げる。


映像の空は割れていた。


無数の亀裂が走り、黒い何かが侵食している。


世界そのものが壊れかけていた。


『だから閉じる』


青年は門へ手を置く。


膨大な光が溢れ出す。


神殿が揺れる。


都市が震える。


そして。


青年は最後に笑った。


『後は頼む』


その瞬間。


映像が途切れた。


広場へ静寂が戻る。


誰も言葉を発しない。


石板は再び沈黙している。


最後まで記録は再生されなかった。


だが十分だった。


全員が見てしまった。


三千年前の記録。


そして。


そこにいた悠人と同じ顔の青年を。


長い沈黙の後。


ノアがぽつりと言った。


「なるほど」


その声は妙に静かだった。


「そういうことだったんだ」


悠人が振り返る。


ノアはどこか納得したような顔をしていた。


しかしその目には警戒も残っている。


「何が分かったんだ?」


問い掛ける。


だがノアはすぐに答えなかった。


代わりに奈落の底を見た。


暗闇の奥。


初代魔王が眠る場所を。


そして小さく呟く。


「初代が探してた理由」


その言葉に全員が反応した。


ノアは悠人を見る。


真っ直ぐに。


そして。


「たぶん私たち、最初から勘違いしてた」


地下都市が大きく揺れた。


天井の一部が崩れ落ちる。


もう時間は残されていない。


それでも。


今聞かなければならない。


そんな予感が全員にあった。

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