第13話 覚醒
初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。
燃える空が広がっていた。
悠人は立っている。
どこなのか分からない。
地面は黒く焼け焦げ、遠くでは巨大な建造物が崩れ落ちている。
空そのものが割れていた。
裂け目の向こうに無数の光が見える。
星なのか。
世界なのか。
それすら判別できない。
そして。
自分が何人もいた。
いや、正確には違う。
同じ顔をした誰かが無数に立っている。
少年。
青年。
老人。
姿も服装も違う。
だが全員が悠人と同じ顔をしていた。
その中心に、一人だけ黒い衣を纏った男が立っている。
男は静かにこちらを見た。
そして口を開く。
『最後まで残ったか』
声が響いた瞬間、世界が軋む。
悠人は反射的に耳を塞ごうとした。
しかし身体が動かない。
夢なのか。
幻なのか。
それとも記憶なのか。
分からなかった。
『器は壊れ続けた』
男の背後で空間が崩れる。
同じ顔をした人々が次々と光へ溶けていった。
『だから作り直した』
『何度も』
『何度も』
『何度も』
声が重なる。
男一人の声だったはずなのに、無数の誰かが同時に喋っているようだった。
悠人は後ずさろうとする。
だが動けない。
男だけが近付いてくる。
『お前は違う』
黄金の瞳が目の前まで迫る。
その瞳の奥には狂気と執着が渦巻いていた。
『ようやく完成した』
男の手が悠人の胸へ伸びる。
触れられた瞬間――
世界が砕けた。
「――っ!」
悠人は息を呑んで現実へ戻る。
地下都市アーク。
崩壊する広場。
奈落から現れた巨人。
全てが目の前にあった。
だが胸の鼓動だけが異常に速い。
まるで身体の中で別の何かが目覚めているようだった。
「悠人!」
誰かの声が聞こえる。
ノアだった。
黒髪の少女がこちらへ手を伸ばしている。
その表情は今まで見たことがないほど切迫していた。
「そっちへ行っちゃ駄目!」
何のことか分からない。
だが次の瞬間、奈落の巨人が腕を振り上げる。
巨大な黒い手。
空を覆うほどの大きさ。
それが悠人へ向かって落ちてくる。
ガルが飛び出した。
魔王の剣が閃く。
レオンも同時に動く。
勇者の斬撃が巨人の腕へ叩き込まれた。
轟音。
地下都市が揺れる。
だが黒い腕は止まらない。
二人の攻撃を受けてもなお、悠人へ向かって振り下ろされる。
「くそっ!」
ガルが歯を食いしばる。
押し切られている。
魔王と勇者が二人掛かりで止めても、なお落ちてくる。
その事実に悠人は背筋が冷えた。
だが同時に、胸の奥が熱い。
先ほどの光だ。
金色の紋様がさらに広がっている。
腕から肩へ。
首筋へ。
皮膚の下を光が流れているようだった。
『返せ』
奈落の巨人が叫ぶ。
『それは私のものだ』
「誰がお前のだ!」
悠人は思わず叫び返した。
その瞬間だった。
胸の光が強く脈打つ。
ドクン――。
地下都市全体が震えた。
そして。
悠人の右手が無意識に持ち上がる。
黒い腕が止まった。
あと数メートルで届く距離。
それなのに動かない。
まるで見えない壁へぶつかったように。
「またかよ……」
悠人は頭を抱えたくなった。
天空神殿でも似たようなことがあった。
今回も無意識だ。
本当に何もしていない。
ただ「危ない」と思っただけだった。
しかし結果は同じだった。
奈落の巨人の攻撃が止まっている。
しかも今回は規模が違う。
封印の番人どころではない。
地下都市を崩壊させる怪物の一撃が、片手で止められている。
レオンが呆然と呟く。
「新人……お前、本当に何なんだ?」
それを聞きたいのは悠人の方だった。
ノアだけは違う反応をしていた。
彼女は震えるように息を吐く。
そして小さく呟いた。
「やっぱり……」
その声には確信が混じっていた。
奈落の巨人も動きを止めている。
巨大な黄金の瞳が細められた。
まるで観察するように。
確かめるように。
『完成』
その声と同時に、悠人の胸の紋様がさらに輝きを増す。
嫌な予感しかしなかった。
本当に。
心の底から。
『完成』
奈落の巨人の声が地下都市へ響く。
その言葉を聞いた瞬間、ノアの表情が険しくなった。
「違う」
低い声だった。
今まで聞いたことがないほど強い否定だった。
「完成なんかじゃない」
黒い瞳が奈落の巨人を睨み付ける。
終焉の魔女と呼ばれた少女の魔力が溢れ出す。
空気が震える。
崩壊を続けていた地下都市がさらに軋む。
だが奈落の巨人は意に介さない。
黄金の瞳は悠人だけを見ていた。
『見付けた』
『見付けた』
『ようやく』
執着。
狂気。
歓喜。
様々な感情が混ざり合った声が響く。
そのたびに悠人の胸の紋様が脈打つ。
まるで共鳴しているようだった。
「やめろ……」
悠人は胸を押さえる。
苦しいわけではない。
痛みもない。
だが妙な感覚だった。
自分ではない誰かの記憶が流れ込んでくる。
知らない景色。
知らない人々。
知らない世界。
そして何度も繰り返される言葉。
器。
器。
器。
その単語ばかりが頭の中へ流れ込んでくる。
「新人!」
ガルの声が飛ぶ。
悠人は我に返った。
気付けば身体の周囲に金色の光が漂っている。
石畳が浮き上がる。
瓦礫が宙へ舞う。
まるで重力そのものが狂っているようだった。
「何だこれ……」
誰も答えられない。
ノアだけが知っている顔をしていた。
だがその表情は決して明るくない。
むしろ焦っている。
「悠人!」
再び呼ぶ。
「その声を聞いちゃ駄目!」
「声?」
『こちらへ来い』
奈落の巨人が囁く。
頭の中へ直接。
『お前は私だ』
『私はお前だ』
『帰って来い』
その言葉を聞いた瞬間。
視界が揺れた。
足元が消える。
広場が遠ざかる。
ガルたちの姿が霞む。
代わりに見えたのは巨大な門だった。
果てしなく大きな白い門。
空の彼方まで続くほど巨大な門。
そしてその前には無数の人影が立っている。
全員が同じ顔だった。
悠人と同じ顔を。
「またか……」
思わず呟く。
記憶なのか。
幻なのか。
分からない。
だが今度は違った。
その人影たちが一斉にこちらを見る。
何百人。
何千人。
いや、それ以上。
無数の自分が同時に微笑んだ。
『失敗』
誰かが言う。
『失敗』
別の誰かが続ける。
『失敗』
『失敗』
『失敗』
声が重なる。
増えていく。
そして最後に、一人だけ前へ出た。
黒い衣を纏った男だった。
他の者たちと同じ顔。
だが雰囲気だけが違う。
圧倒的だった。
『最後の器』
男が静かに言う。
『ようやく届いた』
その手が伸びる。
悠人へ。
あと少しで触れられる。
その瞬間だった。
「触るな」
冷たい声が響く。
黒い風が吹き荒れる。
世界が割れる。
男の腕が弾き飛ばされた。
そして視界の中へノアが現れる。
「本当にしつこいね」
彼女は奈落の存在を睨み付けていた。
「何回失敗したら諦めるの?」
男は無言だった。
だが黄金の瞳だけが揺れる。
怒り。
憎悪。
執着。
その全てが渦巻いていた。
次の瞬間。
世界が砕ける。
悠人の意識は再び現実へ引き戻された。
「っ!」
息を吐く。
地下都市。
崩壊する広場。
奈落の巨人。
全てがそこにあった。
だが状況はさらに悪化していた。
奈落の穴が広がっている。
地下都市そのものが崩れ落ち始めていた。
「限界だ!」
ミリアが叫ぶ。
「封印が完全に壊れる!」
ガルが舌打ちする。
レオンも顔をしかめた。
逃げるべきか。
戦うべきか。
誰も判断できない。
その時だった。
アリシアが突然顔を上げる。
「待って」
全員の視線が集まる。
彼女は震えていた。
だがその瞳は真っ直ぐ奈落を見ている。
「思い出した」
小さな声だった。
「第六封印」
その言葉にノアが反応した。
「まさか……」
アリシアは頷く。
顔色は真っ青だった。
「奈落層の下にもう一つある」
静寂が落ちる。
誰も知らなかった。
少なくともこの場にいる全員が。
だがアリシアだけは違った。
三千年前の記憶。
眠る前の記録。
その断片が蘇っていた。
「もし第六封印が開いたら……」
アリシアは唇を震わせる。
そして。
誰も聞きたくなかった言葉を口にした。
「本物が出てくる」
奈落の巨人が笑った。
初めて。
はっきりと。
歓喜するように。
そして地下都市最深部から、今までとは比較にならない巨大な鼓動が響いた。
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