⑥ カグヤと成雪
翌日の木曜日は、カグヤ・イシュタルと成雪の担当日だった。二人は、徒歩での見廻りをしていた。
彼等は護身用に、色々とガジェットの詰まったブリーフケースと、黒いブレスレット、それにオリハルコンの剣をひと振り持っていた。
「昨日はナチス軍がやって来て、大変だったみたいよ?」
歩きながら、カグヤが成雪に話し掛ける。
「そうらしいですね。でも上手い具合に、帰って貰えたとか?」
「流石は、サン・ジェルマン伯爵よねえ。」
「そうですねえ。僕なんか、何のチカラも無いから……。」
「……そんなモノ、無い方が幸せかもしれないわよ。」
「でもせめて、カグヤや自分自身の事ぐらいは、守れるようになりたいなあ。」
「うふふ、ありがとう。」
そんな話をしながら、カグヤはふと周りの風景に目をやる。それは、見れば見る程不思議な光景だった。
マスター・ウアジェトの城をほぼ中心にして、半径10km程の遠方の周りを、壁がすっかり取り囲んでいる。
そしてその壁という壁には、大小様々なサイズの穴が、無数に開いていた。
その穴のほぼ全てが、ポータルとして稼働しているというから驚きだ。今まで犬王と黒猫だけで、よく管理出来ていたものだと思う。
一番不思議なのは、壁から上に視線を移すと、シームレスに空に繋がっている事だった。ソレはまるで…プラネタリウムのようであった。
空の天頂部には、例の人工太陽が輝いている。
長時間その光を浴び続けると、皮膚が赤くなるというアレだ。
まるでクリスタルで出来ているような城といい、ニンゲンから見れば、爬虫類族の造り出したモノ全ては、オーバーテクノロジーであった。
その時、何となく一緒に空を見上げていた成雪が、異変に気がついた。
「カグヤさん、アレは……何でしょうか?」
彼が指差す先を、彼女も見つめる。
ソレは、小さな帆船のようなシルエットだった。
人工太陽の向こう側から、プラネタリウムのような空に、逆さまに張り付いた状態でこちらへ降りて来る。アレは空であり、海でもあるのだ!
ソレが近づくにつれて、二人の人物が乗って居るのが見えて来た。つまり、空のてっぺんにも、ポータルとなる穴が開いているらしい。
カグヤは早速、腕のブレスレットで、城内に常駐している女王の部下に連絡をとった。
彼等は直ぐに葉巻き型の船で飛んで来ると、牽引ビームを使って、件の帆船……多分漁船だろう……を城に曳航して行った。
これは後で聞いた話だが、その船には、ノルウェー人の、オラフ・ヤンセンとその父親の二名が、乗っていたという事だ。好人物であり、衰弱も著しい様子だったため、女王は彼等を、二年程城内に滞在させたらしい。
もちろんその際には、金髪高身長の、北欧人の変装をして、謁見したという。賢明な判断である。ヘビのような顔でナニを言われても、我々のように人外の存在に慣れた者とは違って、一般市民には説得力が無いであろう。
しかし、マスターも気まぐれな事をするものである。
カグヤは、そう思った。
彼女は未だに、爬虫類族の事が信用出来ない。
長年の間、故郷で代々敵対関係にあったのだから、それは仕方のない事なのである。




