⑤ ポータル封印
サン・ジェルマンは咄嗟に、ビートルの電磁防壁を作動させた。
ナチスの機銃掃射が始まったが、全ての銃弾は跳ね返されてしまった。
そして自らの銃弾が、自分たちに当たり、倒れるナチス兵が多数現れた。
やがて誰か上官らしき者が「撃ち方、やめ!」と声を上げた。
ソレはアドルフ・ヒトラーその人であった。
銃撃の音が一斉に止み、辺りは静まり返った。
ヒトラーは、ナチス兵の前に出て来てこう言った。
「黒いビートルの運転席の者、折り入って話が有る。出て来なさい。」
サン・ジェルマンは、素直にドアを開けて外に出た。もちろん、右腕のガジェットで、個人用の電磁防壁は張ったままだった。
大胆にも、ヒトラー自らが、こちらに歩み寄って来る。恐らくは影武者だろうが、伯爵も礼を尽くすべく、歩み寄って行った。
ナチスの軍勢と京子の乗るビートルの、ちょうど中央辺りで、二人は顔を突き合わす形になり、何やらボソボソ話し合いをしていたが、やがて二人とも回れ右をすると、元の場所へ戻った。
そして、ナチスの軍勢は全てそこから引き揚げて行ったのだった。
「さて、この南極点の出入り口は、我々が電磁防壁で封鎖して、光学迷彩を掛けてから帰りましょうか?」
「……うん。でも彼と、どんな話をしたんの?」
京子は興味津々だ。
「私はまず、サン・ジェルマン伯爵だと名乗りました。」
「うん、うん。」
「簡単に言うと、ソレで充分でした。」
「えっ!?」
「どうやら、彼の世界線でも、少年時代に私の同位体が、関わっていたようです。」(第19巻 参照)
「……つまり?」
「つまり、私は彼の最初の理解者であり、恩人でもある訳なんです。そんな私が、このポータルにはもう関わらない方が良い。それより南米辺りの方が、潜伏しやすい旨、アドバイスをして差し上げたのです。」
「そう……なのね?」
「ですから、この世界線のヒトラーは、戦後は南米に行く事になるでしょうね。」
「……成る程。」
「もちろん、彼が影武者だった場合は、ホンモノに叱られて、また軍団を率いてがやって来るでしょうから、対策は必要ですがね?」
「……そうね。」
「地下世界に戻ったら、マスター・ウアジェトに相談しましょう。」
伯爵はそう言うと、直ちにビートルを穴の中に戻した。
南極のポータルは目立つので、地上の大国に狙われやすい。だから本音としては、直ぐにでも穴を潰したいところだ。
しかし、マスターの許可無しに勝手な事は、もうしない方が良かろう。サン・ジェルマンはそう思ったのだった。




