④ ドイツ語で交渉
空飛ぶ黒いワーゲンビートルは、ナチス兵を驚かせるのに、充分な効果が有ったようだった。
彼等の目の前にクルマを着陸させると、運転席から出たサン・ジェルマンは、ドイツ語を使って、大声で呼び掛けた。
「ここは既に、爬虫類族の領土です。貴方たちの入植する余地は、有りません。直ちに、元の場所へお帰り下さい。」
すると向こうの将校らしき者が、それに返答した。
「貴様は、ドイツ語を使っているではないか。それにそのクルマは、ワーゲンビートル。ならばここは、ドイツ領ではないのか?」
伯爵が良かれと思い、気を利かせたのがアダになったようだ。
「私は通訳なのです。どうかご理解下さい。」
「構わず押し通る、と言ったらどうするつもりか?」
「その場合は、不本意ながら、コチラも実力行使させていただきます。コチラの科学力は、ご覧の通りですよ。」
伯爵はそう言いながら、ビートルのルーフをポンポン叩いて見せた。
向こうは何やら、ボソボソ耳打ちし合っていたが、やがて再び進軍を開始した。
「ヤレヤレ、仕方が有りませんね?」
お手上げのゼスチャーを見せる伯爵に「私がやるわ。」と京子が前に出た。
「止まりなさい!」
彼女がもう一度声を掛けるが、進軍をやめる気配は無い。
京子は両手を前に突き出した。
すると、たちまち彼等の目の前に、分厚い氷の壁が出来上がった。
まるで亜熱帯気候のように、湿度高めのこの世界ならではのワザである。
ナチスの軍団は、機関銃を撃ち始めた。
それでも氷の壁は、なかなか崩れない。
京子は、攻撃の第二段階に入った。
今度は、両腕を天に向かって突き上げると、少しチカラを溜めてから、ソレを下に振り降ろした。
と、同時に、空から氷の槍が降り注ぐ。
ソレは正確に、兵隊たちの機関銃を撃ち落とした。
「ほう、実に正確なコントロールですねえ。」
コレには、流石のサン・ジェルマンも、舌を巻いた。
「私だって、日々鍛錬を続けて来たのよ。もう悪戯に、殺傷を重ねたりしないわ。」
京子は、少しドヤ顔をして言った。
ナチス兵は、慌てて穴の中に戻り始めた。
京子は彼等がこちらへ戻らないように、追撃の氷の槍を撃ち続けた。
「後はビートルに乗って追いましょう。」
伯爵が提案し、二人はクルマに乗り込む。
そのままドンドン奥まで追って行き、遂には"向こう側"に出てしまった。
やはりそこは南極点だった。
出口には、パッと見て、先程の10倍近い人数のナチス兵たちが、脚に据えた機銃を構えて、待って居たのである。




