㉛ 憑依
「だいたい、最初にウアジェト女王の名を聞いた時に、この展開は予想するべきだったのだ。」
狼王ウルフィがまた不規則発言をした。
しかし、議長が再び彼を注意しようと、睨みつけた次の瞬間、狼王に異変が起きた。
「うっ、がっ!?」
カラダに痙攣を走らせる狼王。
「どうした、ウルフィ?」
隣に座っていた犬王が、心配そうな声を掛ける。
すると見る見るうちに、彼の頭の形が変化した。
鼻先は長くなり、耳も上に向かって伸びて行く。そして尻尾も細く長くなり、先が枝分かれした。
そう、その姿はまるで……。
「皆様、初めまして。私がセト神です。」
……声色まで、スッカリ変わってしまっていた。
狼王は憑依されてしまったのだ。
余りの事に、議場は水を打ったように静まり返った。
「話題にしていただいた通り、私は四次元の住人です。コチラの三次元の皆様と、意志の疎通がはかりやすいように、彼のカラダを借りています。」
「そんな事をして……彼は大丈夫なのか?」
議長は、それだけのセリフをやっと言う。
「ああ、ご安心下さい。見た目の変化は、一種の光学迷彩みたいなモノですから。実際にメタモルフォーゼした訳では、ないんですよ。」
「そうか、それは良かった。それで……今日は何の用かね?」
「なあに、要らぬ疑念や心配は、この際、晴らしておきたくなりましてね?」
そう言いながら、セト神の狼王は、隣の犬王を見た。
「まずは犬王アヌビス君。私はもう昔のように、キミをつけ狙ったりしないから、安心してイイですよ。」
「……ああ、そりゃあ、どうも。助かります。」
「次にココにお集まりの、犬族・猫族の皆様。」
「……。」皆、黙り込んでいる。
「私は今後、あなた方三次元の住人に、決して迷惑をかけないと、約束しましょう。」
議場は、少しだけザワついた。
「ただし、この世界に一人だけ、気になる人物が居るのです。その人物にいずれ接触する事だけは、お赦し願いたい。」
「ソレは……誰かね?」議長が、恐る恐るたずねた。
「真田雪村という者です。」
その名が告げられると、議場がどよめいた。
「……何故か?という問いは愚問だろうな。」
議長は言った。
「理由は皆様と同じです。彼はどこの世界の基準に照らしても、要注意人物なのですから。」
「分かった。我々はその件に関しては、不問にしよう。皆、それで構わないな?」
議長の言葉に異議をとなえる者は、誰一人居なかった。
「ありがとう。では要件は済んだので、これで失礼しますよ……ああ、そうそう、もしも今後、そちらから私に用が有る時は、成雪・イシュタルに連絡を取ると良いですよ。」
その言葉を最後に、セト神の気配が消えた。
そして狼王のカラダは、元の姿に戻った。
「あれっ?今までオレは何を?」
彼は狼なのに、すっかり狐につままれた様な顔をしていたのである。




