㉙ 村田京子
「なあに?二人きりで楽しそうにして……アヤシイわね?」
ちょうどそのタイミングで、エレベーターから村田京子が現れた。
「まさかアタシのサン・ジェルマンが、"知恵の神トート"かもしれない、なんて話をしているんじゃないでしょうね?」
「ええっ?」
これには流石の雪子も驚いた。
「なによ。私だって、古代エジプトの神々について、少なからず勉強しているのよ。それに伯爵がアヤシイほど有能なのは、昔からじゃなくて?別にイイのよ、彼が何者でも…何しろアタシなんか、雪女なんだから。」
京子は、当たり前のように、そう言って笑った。
「それにしても、シュメールのアヌンナキの次は、古代エジプトの神々だなんて、流石の雪子さんも、手に負えないわよねえ?」
コレには、雪子も反論出来ないが……苦し紛れに、ついこんな事を言ってしまう。
「……まあ、イザとなったら、私たちには雪村が居るけどね?」
「雪村君に頼り切るのは……感心しないわね。貴女らしくもない。」
「そうね……今のは失言だったわ。忘れてちょうだい。」
それっきり、三人は黙り込んでしまった。
すると、そのタイミングでまた、エレベーターの扉が開き、地下のゲストルームから、ジャンヌ・ダルクがやって来た。
「ああ、雪子さん、京子さん、こんにちは。先日はお疲れ様でした。」
彼女の日本語も、ずいぶん流暢なモノになっていた。
「それと……ろくに戦力にならなくて、申し訳有りませんでした!」
彼女はそう言って、深々と頭を下げた。
「そんな……とんでもない。その点に関しては、私たちはみんな、大差無かったのよ。」
京子も、ジャンヌには優しく言った。
「そうよ。今回は、相手が神様なんだもの。負けたって、恥ずかしくは無いわ。」
雪子も慰める。
「でも私……早々に気を失ってしまって……その間に決着が着いていたから。」
「アレはね、成雪君に憑依していた、セトという名の神様が片付けたんだよ。」
伯爵がそう言った。
「だから残念ながら、誰の手柄でもないんだよ。」
「そう……なんですね?」
「そうよ。落ち込む事は何もないのよ。」
京子がもう一度、ソレを強調して言った。
「分かりました…じゃあ私、今から地下の武道場に行って、もう一度鍛え直して来ます!」
「おお、前向きでイイじゃない。そういう事なら、私も付き合うわ。」
雪子がティーカップを置いて、腰を上げた。
「ハイ!是非お手合わせをお願いします。」
そして早速二人は、張り切って地下に降りて行ったのだった。
「やっぱり彼女たちは、ああじゃなけゃね?」
「そうですな。」
少しオトナのカップルは、ソレを見送るのであった。




