㉕ しぶとい男
「……ああ、不本意だ。」
痙攣しながら、アポピスが呟いた。
「まさか、こんなモノに頼る羽目になるとはな……。」
そう言いながら彼は、右の腰のアーマーの下から、何やら青白い、マジックペンのようなモノを取り出し、自らの首筋に突き立てた。
恐らくソレは、解毒剤か血清のようなモノだろう。
彼の状態は、見る見る回復して行った。
「さて、第2ラウンドと行こうか?女王。」
アポピスが不敵に笑った。
万事窮すだ。
しかしまさに、その時だった。
彼等の頭上に、突如円盤型宇宙船が現れたのだ。
ソレはオレンジ色でソロバンの珠の形をした…ご存じミケーネ王子の船だったのだ!
円盤は、アポピスとウアジェト女王の間に、割って入るような場所に着陸し、中からミケーネ王子、カグヤ・イシュタル、成雪の順に出て来た。
「あれっ?ひょっとして、お取り込み中でしたか?」
ミケーネが出て来るなり、緊張感の無い事を言う。
「なんか、どうしても成雪君が行きたいって……ねえ、カグヤさん?」
「そうなんです。皆さん、お邪魔してごめんなさい。」
カグヤもそんな風に謝る。
しかし成雪だけは、真剣な表情だ。そして何かを捜しているようだった。
そんな成雪とアポピスの、視線が絡み合う。
「あっ、貴様は……セト!?」
アポピスが叫んだ。
「そう言うお前は、アポピスか!?」
何故か成雪も、初見のはずの相手の事を、認識出来ているようだった。
因みにウアジェト女王も、成雪の事を認識出来ているようだった。
「伯爵、どういう事ですか?コレは!」
カグヤが、サン・ジェルマンに詰め寄る。
「……多分、成雪君が出来たてホヤホヤの頃に、中身がまだブランク状態で…そこに何処かの時空から、セト神の精神体のようなモノが、紛れ込んだのでは?或いは四次元からかも…?」
それが伯爵なりの、精一杯の推察だった。
「キサマまで、何だ?そんなニンゲンの皮を被りおって!」
アポピスが、セト神の成雪を叱責する。
「ああ、これかい?今はこの姿で、恋人に愛されているのだが……キミにはコチラの方が馴染み深いよね?」
そう言うと成雪は、自分の姿を瞬時に変化させた。
ソレは不思議な生き物の姿だった。
顔の色は黒く、垂れた鼻先はキツネのように長い。
細く長い耳は、何故か先端が四角い。
細い尻尾も生えており、先端が枝分かれしている。
そしてカラダはニンゲンだ。
そして同時に、右腕に持った、まるで鍬のように先の曲がった細い杖も、出現した。
「いやあ、以前、無理やり兄を、アチラの世界に連れ帰ったからねえ……コチラへの時空干渉を、太陽神ラーに赦されるまでに、千年もかかってしまったよ。待たせたねえ。」
笑顔の彼は、アポピスにそんな事を言うのであった。




