㉔ フィメール
恐らくアポピスの言葉は、ただの強がりや、ハッタリでは無かろう。ガジェットを利用しなくとも、自らの内なるチカラで、結界を張り巡らせる事は、容易いように見えた。
それでも彼が、ガジェットを使用していたのは、単に自らのチカラの、省エネが目的だったのだろう。
雪子はそう思った。
「ねえ、伯爵。」
彼女はおもむろに、後ろに居るサン・ジェルマンに話し掛ける。
「何です?雪子さん。」
返事をする伯爵。
「今日も何時ものように、"こんな事もあろうかと"とか言いながら、奥の手を出すのよねえ?」
「いや、特にコレと言って、奥の手らしきモノは有りませんね。」
「え〜、コレ、勝てそうな気がしないんだけど。」
「天下の真田雪子さんが、そんな弱気でどうするんですか。貴女は、超時空の魔女なんでしょ?」
「おい、おい。後ろで、ナニをゴチャゴチャ喋って居るのかな?大人しく降参して、この地下世界を、私の一派に明け渡すと言うなら、悪いようにはしないぞ。」
勝ち誇ったようにアポピスが言った。
そこへ、ウアジェト女王がやって来た。
「ココは私の国です。ですから最後は、私がお相手致しましょう。」
「おお、ウアジェトか。キサマもフィメールとは言え、多少はデキるのだろう?……せいぜい楽しませてくれよ。」
今やすっかり、ニンゲンの擬装を取り払った彼女のその姿は、緑色の頭をした、身長2mほどのコブラ女だった。
彼女は槍を手に取ると、一直線にアポピスに向かって行く。それは誰の目にも、余りにも無謀な戦術に見えた。
アポピスは槍を難なく避け、すかさずクロスカウンターパンチの要領で、自らの剣を容赦なく、彼女の左胸に突き刺した。
「キサマは、我が爬虫類族の裏切り者だ。従って、この場で息の根を、止めておくとしよう。」
彼はそう言ってほくそ笑んだ。
女王の心臓から流れ出た血が、剣を伝ってアポピスの手まで滴る。しかし彼女は、自らの心臓を刺されたまま、勝ち誇る彼を抱き寄せて、その耳に静かに囁いた。
「私の血に触れましたね?」
「な……に!?」
「あなたは今、私の血を通じて、私の毒に触れました。あなたはもう、おしまいです。」
やがてアポピスのカラダが、ビクビクと痙攣し始めた。
神経が麻痺し、呼吸困難になり始めたのだ。
それを見届けたウアジェト女王は、ゆっくりと彼から離れる。彼女の心臓のキズは、もう塞がり始めている。
「確かに私たち爬虫類族は、不老不死です。けれど、流石に呼吸が出来なければ、生きてはいられないものね……。」
そう言う彼女の笑顔にも、毒が有るようだった。




