⑯ 猫姫と犬王
何だかんだで、一週間が過ぎた。
今日は二週目の月曜日だ。
「何だか、私たちだけ暇ねえ?」
黒猫のバステト嬢が、隣を歩く犬王アヌビスに話しかける。彼女は今日も、金の甲冑とオリハルコンの剣を、身に着けている。
「またナニか出て来ても、前みたいに無闇に始末しないで下さいよ?」
犬王が答える。彼の服装も、何時もの未来的なツナギだ。
「貴方、私を何だと思っているのよ?」
「天下無双の女剣士。」
「……悪くない通り名ね。」
どうやらお気に召したようである。
「この私が、貴方の命を何度も救った事も、お忘れなく!」
「ええ、それはもちろん、有り難いと思ってますとも。」
二人は、そんな無駄話をしながら歩きつづけて、池のほとりに差し掛かった。
「この池も、よく考えたら不思議よね。」
「えっ、ナニがですか?」
「だって池にしては大き過ぎるし、湖にしては小さ過ぎるわ。それに何より、水が海のように塩辛いのよ。知ってた?」
「……あの水を、舐めたんですか?」
「たまたまよ。何よ、その顔は!」
「いや、別に…。」
黒猫嬢め、いつも澄ました顔をして、お上品ぶっているのに……余程喉が渇いていたのかな?
犬王はそう思うと、つい笑ってしまいそうになった。
「……ねえ、知ってる?この池について、マコトシヤカに囁かれている、とある説。」
バステト嬢が、少し真面目な顔で、そんな事を言い始めた。
「何です?それ。」
アヌビスも一応興味有り気に返事をする。
「この池の底にも、ポータルになる穴が開いていて、その向こう側は、どうやらニンゲン界の海の底に、繋がっているらしいのよ。」
「えっ?」
「だからこの中から、ナニかがコチラの世界に、やって来る事もあり得るっていう話なの。」
「へえ……そりゃあ、あんまり愉快な話じゃありませんねえ?」
「……だから一応、備えは必要よね?」
「まあ…そうですよねって、ああっ!?」
「どうしたのよ。急にヘンな声を出したりして。」
「……だって、あれ、あれ!」
「え〜、どれよ?」
黒猫が、犬王の指差す方を見た。
すると、今まさに、池の中央辺りの水面が、丸く盛り上がり始めるところだった。
直径10m程の巨大な椎茸の、傘の部分のようなモノが、水面からすっかり出ると、それが徐々にコチラの岸に向かいながら、下の細い脚の部分を見せ始めた。金属の脚は、全部で8本有るようだった。
そんな、鈍い銀色に輝く、大きな金属のクラゲのような物体が、池の中央部分から次々に浮上して、どんどんコチラに向かって来るのだ。




