⑬ 雪村と弓子と香子
日曜日になった。
今日は、イレギュラーな三人体制の日だ。
担当者は、真田雪村、酒井弓子、真田香子だった。
香子は公務員だから、報酬は受け取らず、ボランティアに徹するらしい。偉いなあ、律儀な事だと、それを聞いた雪村は思ったのだった。
実を言うと、このメンバーの組み合わせには、雪村のチカラの暴走を停める狙いも、含まれていたのだが…。
弓子のたっての希望で、今日は乗り物を使わず、のんびり歩いて見廻りをする事になった。
デート気分で、雪村と腕を組んで歩く彼女に気を遣って、妹の香子は、少し後方からついて行く形をとった。
今日のコースは、田園方面だ。赤っぽい色彩の麦や稲穂が風にそよぐ。このエリアは、比較的に温帯に近い気候だ。
実にのんびりした雰囲気の、理想のデートコースに思えた。兄の幸せそうな様子を見て、どこかホッとした気分になる香子であった。
日に日に、ニンゲン離れしたチカラを発揮するようになった兄の事を、これでも彼女は、いつも陰ながら心配していたのである。
しかしながら、まったりした幸せな時間は、そう長くは続かなかった。
腕を組んでウットリしていた弓子が、突然ビクッとして頭を抱えながら、その場にしゃがみ込んだのだ。
「とてもたくさんの…恐れや悲しみの感情が…空から降って来る!」
彼女がそんな事を言う。
雪村と香子は、思わず赤い空を見上げた。
果たして頭上では、今まさに、空に開いた大きな穴から、一機の旅客機が、この地下世界に突入して来るところだった。
ポータル…つまり時空のゲートとなる穴は、いつも都合良く、壁や地面に開いているとは限らない。
場所によっては、空や海の中にも開いているのだ。
尾翼のマークから、恐らくそれは、マレーシア航空のモノのようだった。
真っ逆さまに落ちて来る機体。翼やエンジンの一部が破損している。どうやら制御不能に陥っているようだ。
おもむろに、雪村が両手を上げる。
すると、見えないチカラが旅客機を捉え、機体を水平飛行に戻した。そしてそのまま、ゆっくりとウアジェト女王の城の前に、着陸させる。
「様子を見に行きましょう。」
雪村はそう言うと、右腕に香子、左腕に弓子を抱えて、パッと飛び上がった。そしてあっと言う間に、女王の城の前まで移動してしまった。
「……今のは、どうやったの?」
思わず尋ねる香子。
「うん?さあ?何となく出来た。」
そんな返事をする雪村。
もはや、理屈抜きのチカラの発現具合だった。




