⑫ 穴のヌシ
だが、そうはならなかった。
穴の先は、急に広い空間になっていたのだ。
そしてそこには、天井から壁にかけて、たくさんの土ボタルが張り付いていた。
そのおかげで、部屋全体が青白い光に照らされて、ほどほどに明るかった。
青白い部屋の突き当たり中央に、恐らくはこの部屋の…いや、むしろこの穴のヌシと思われる、巨大なモノが居た。
ソレは、通常の100倍ほどのサイズの、大きなハエトリグモだった。
グレーの剛毛がたくさん生えた、全長2mあろうかと思われるソレは、八つ有る眼のうちの、正面を向いた一番大きな二つで、鷹志と由理子の事を、じっと見つめていた。
鷹志はうっかり、"キレイな眼だなあ"などと思ってしまった。実際ソレは、メタリックブルーに輝いていて、まるで宝石のようだった。
由理子はハエトリグモと、テレパシーで会話しているようだった。彼女はついに、脊椎動物の壁を越えてしまうのか?鷹志にとってそれは、いよいよ驚異的な能力に思えた。
やがて彼女は、鷹志に説明した。
「彼女はね…ああ、この蜘蛛は女の子なんだけど…ここで長い間サソリたちとともに、外界からの訪問者たちを、排除しているそうよ。」
「…へえ、そうなんだ。」
鷹志は気の効いた返事が出来なかった。
「だから今後も、誰一人ここから先には通さないからご心配無くと、ウアジェト女王に伝えてくれって。」
「そうだね…そうしよう。それで…僕たちは、ここから無事に返してもらえそうかな?」
「ええ。最初の入り口まで、またサソリさんたちがエスコートしてくれるそうよ。」
「なるほど。背中から毒針をズブリなんて事には…ならないよね?」
「ええ。そんな事にはならないそうよ。今、ちょうど食後で、お腹いっぱいらしいから。」
「えっ、…空腹なら、ヤバかったの?」
「ううん。蜘蛛ジョークらしいわよ。」
「笑えないなあ…。」
鷹志はそう言いながらも、苦笑いした。
やがて二人は、無事に穴の入り口に出た。
それを見届けると、シンガリのサソリが、じっと由理子の顔を見つめた後、去って行った。
「最後のサソリは、何かユリちゃんに伝えたの?」
「…ええ。彼等にとって、ニンゲンはただの食料らしいわ。だからいつもなら、問答無用で殺して食べちゃうって…"ケツァルコアトルスが、お前の友だちで良かったな"って言われたわ。」
それを聞いた鷹志は、亜熱帯気候の環境に居るのに、背筋が寒くなったのだった。




