第五夜
俺は思わずエリナの目を見つめる。
風が止まった湖の様な静かな黒。
その目が俺を興味深そうに見つめている。
「さっき、巡回している時に、ウサギの足跡を見つけた。」
俺の言葉にエリナは微笑む。
「今、食べたいのか?」
「そうじゃ。」
断る選択肢はない様だ。
俺はため息をつき、肩をすくめる。
「わかったよ。」
俺は厚手のコートを羽織る。
ボウガンを抱え、必要なものをバッグに詰めていく。
「お主、一人で行くのか?」
俺は当然だと言わんばかりに頷く。
肩をすくめ、エリナは腰を上げる。
詰所の外は死の世界。
一面が雪に覆われている。
風はいつのまにか止んだ様だ。
ランタンの光に煌めく雪を踏みしめながら、ウサギの足跡があった場所を目指す。
静寂の中、俺とエリナの雪を踏み締める音と息遣いだけが聞こえる。
足跡があったのはこの辺だった。
俺はランタンの灯りで、雪の上の足跡を探す。
「こっちじゃ。」
エリナが指差す方へランタンを向ける。
雪に標された、小さな足跡。
ウサギだ。
「良く気がついたな。」
俺の言葉にエリナは微笑む。
「夜目は効くほうじゃからな。」
二人で足跡を追跡する。
吐く息が白い。
手が悴んできた。
雪に埋もれた木立の中へ足跡は続いている。
俺は、ランタンをエリナへ預けて、ボウガンを構えながらゆっくりと歩を進める。
ウサギは二人の追跡者の気配を察知しているはずだ。
慎重に辺りに目を配る。
刹那の後、白い弾丸が視界を横切る。
狙いを定め、矢を放つ。
静寂の中、弦が低い音を立てる。
俺は駆け出し、血の痕跡を辿る
雪を染める赤。
獲物を仕留めた。
その白い身体を赤く染め、ウサギは絶命していた。
「苦しめずに済んだようじゃな。」
エリナの言葉に俺は頷く。
静寂の中、俺の荒い息だけが闇に飲み込まれていく。




