第四夜
陽が落ちかけている。
俺は手際良く準備を済ませ、小屋を後にする。
今週は夜勤だから、この時間から詰所に向かう。
見渡す限りの雪の中。
エリナは小屋に残してきた。
一晩二人で過ごすほど、信頼できるわけではない。
詰所の軋むドアを開け、昼の担当をしている若い兵士と引き継ぎをする。
何もなかった。
ただそれだけの引き継ぎだが。
若い兵士は、厚いコートをしっかりと羽織り帰路を急ぐ。
その姿を見送りながら、エリナのことを思い出す。
…不思議な女だ。
「厄介だな。」
一人呟く声は、風にかき消される。
風は強いが、雪は降りやんでいる。
念のため装備を確認し、決まったルートを警戒しながら巡回する。
異常なし。
いつまでもこのままだといいのに。
俺は凍える指を詰所のドアに伸ばす。
「お主、置いていくとは酷いな。」
振り向くとエリナがいた。
寒さで凍える声。
俺はため息をつきながら詰所の中へ、エリナとともに入る。
「寒かっただろ。コーヒーを入れるから少し待て。」
エリナは頷き、古ぼけた椅子に腰を下ろす。
沈黙の中、ストーブのヤカンがコトコトと音をたてる。
俺は無言でコーヒーを入れる。
詰所の中に広がるコーヒーの香り。
湯気を立てるカップをエリナに押し付ける様に渡す。
「毎日こんな生活をしているのか?」
俺は頷く。
「退屈ではないのか?」
俺はコーヒーを一口飲み、エリナの顔を見る。
白い肌が徐々に血の気を取り戻していく。
風が詰所を揺らす音だけが聞こえる。
「俺は傭兵だ。与えられた命令だけを考える。他のことは考えない。」
「つまらなくはないのか?」
「それが俺の生き方だ。」
沈黙に耐えられなくなった俺は立ち上がる。
「腹、減ってるだろ。」
言いながら、干し肉に手を伸ばす。
「血が滴る肉を食べたい。」
振り返った俺は、エリナの瞳が赤く光った様に感じた。




