羅城の思い
私達はレイト部隊の拠点内にある休憩スペースで待ち合わせをしている、『浮島連合』所属の雷美と合流するため、羅城に案内されるがまま、歩いて行った……。
羅城がここだと言いながら、扉を開けて中の部屋へと進んだ……メイキョウ部隊の内装と比べると、やや明るめな内装になっている。そんな中で、手を挙げながら大きく振っている若き女性二人の姿が、目に映っていた……。
「羅城さん、皆さん……! 朝早くに押しかけて、す……すみません……! 知り合った人を連れてきました……!」
「ああ、私は平気だ……それより、例の知り合いさんはそちらの女性だね……?」
「はい……私は『松浦 理亜』と申します……専業主婦をしてはります……」
雷美の知り合いの女性、『松浦 理亜』はレイト地方出身の専業主婦であり、娘がいるって言っていたな……羅城は転売屋の事件について知っていることはないかと話した……。
「昨日、こちらの浮島連合所属の若き戦士さんが、今この辺りで頭を悩ませている、転売屋について聞かれたと思いますが、何か知っている情報がありますでしょうか……」
「いえ……特には……」
理亜は、ため息をつきながら、何だか元気のない声で羅城に話した……すると、羅城は疑問に思い、どうしたのかと問を掛ける……。
「どうなさいましたか……?」
「はい……実は……6歳の娘である亜実が『スカウトを受けたからオーディションに行って来る』と言い残して、昨日から帰って来えへんのです……あの子、道に迷う子やないので……娘に何かあったんやないんかと、心配で……昨夜は眠れんくて……」
理亜は、顔を両手で隠しながら涙声で娘の亜実を心配していた……身近な存在が突然にしていなくなってしまった悲しみは……私はこの気持ちを理解している為、理亜の心の痛みを十分に捉えていた……。
不安と悲しみで一杯な理亜を、羅城が椅子から素早く立ち上がり、正々堂々な姿勢を魅せる……。
「わかりました……一刻でも早く、あなたの娘さんを見つけ出してみせましょう!」
「はわぁ~~カッコイイ……じゃなかった……! アタシも亜実ちゃんを探すの手伝うよ!」
「ありがとうございます……皆さん……」
羅城と雷美の亜実を探す情熱が伝わったのか、理亜は目を輝かせながら、お辞儀をした……。
その後、セナから着信音が鳴りだした……。
「あら……? こんな時に通信……? ごめん、失礼するわ……」
「構わないぞ……」
私はセナの前に浮かび上がる、モニター画面をタッチして通信に応答した……すると、メイキョウ地方から知り合いである狼獣人の姿が映し出されたのだ……。
「イリル……? もう、レイト地方に着いてるか……?」
「……? ウルから連絡なんて珍しいね……」
「ああ……李徴さんに報告を任されたんだ……レイト地方に無事に辿り着いた後、すぐにトラブルに巻き込まれたそうじゃねぇか……さらに、ラッキーがこっそりと旅に出たって事を知る前は、AIアシストロボット達は大騒ぎになってたんだぞ……桃さんの部下の癖に、あんな大胆な事しやがって……」
「お前にだけは言われたくねぇよ!! それに、何度も言うが俺様はあいつのロボットじゃねぇよ!!」
羅城はセナが映し出しているモニターの方をじっと見つめていた……そして、ウルに向かって明るめな声で話しかけていた……。
「……? イリル殿、ウルともう仲良くなってたのか……? ウル、あれだけ照れ屋な君が合流関係を繋ぐなんてな……兄弟子が聞いたらなんて反応するだろうか……」
羅城とウルはどうやら知り合いだったようだ……ウルは頬を赤くしながら、羅城に向かってこう返答する……。
「ん……? この喋り方は……姉弟子……? っつーか俺はもうガキじゃねぇんで、そういうからかい方やめてください……!」
「……え? 今なんて……? あ……姉弟子……? 兄弟子じゃなくて……?」
「……ん? 今の声は誰だが知らねぇが、俺は普通に呼んだだけだぞ?」
「ああ……雷美殿……なんていうか……すまない……騙すつもりはなかったんだ……」
雷美はウルの羅城に対しての呼び方を聞いて、ガラスが割れたかのような表情で涙を流していた……。
それとは引き換えに、雷美の前にいたラッキーは目を見開いたような感じで――
「雷オオカミに姉弟子が居るってことも師匠がいるって事も初耳なんだが?! んで、師匠は誰だよ!!」
「ああ……イリル達には話していなかったな……李徴さんはフューチャーファイターズ、メイキョウ部隊の隊長に就く前は、俺と姉弟子ともう一つ上の兄弟子と共に剣術を教えてくれたんだ……キッカケは俺の親父のある言葉だったらしい……」
「なるほどね……」
「おっと、悪りぃ……こっちも出かけねぇと行けなかったんだ……報告はこれで済んだからそろそろ切るぞ。最後にイリル……ちょっと耳を貸してくれ……」
「何……?」
ウルはこっそりと私の耳に囁くように話しかけた……私はセナの映し出すモニターに耳を傾ける……。
「イリル……お前さえ良ければ……姉弟子を支えてやってくれねぇか? この通り、姉弟子は俺と出会う前の時から、責任を一人で抱え込みやすいんだ……」
「……うん」
私はウルの言ったことに対して、軽く首を縦に振った後、ウルとの通信を終了した……。
そして、私達は休憩スペースを後にして、拠点のロビーに向かって行った……雷美は元気がない様子で先行で歩いて行った……羅城は錆びたコンパクトのような物を片手に持ち、取り出した後、じっと見つめていた……。
「……やはりあの時、家族連れを装った転売屋がAIスキャナーを突破されてしまったようだな……利益を追求して他人の命を犠牲にしようとする行為……許すわけにはいかない……どうにかして、あの人の娘を救い出さなければな……姉と同じ道を歩ませる訳には……」
「あんた……姉がいるの……? それに、姉の身に何が……?」
「私は8兄妹の次女として生まれてきた……私の家は昔から集落からかなり離れた小屋で暮らすほどの貧しい家庭で育った……唯一の姉は『お金持ちになって親孝行して来る』と言い残して、実家を去ったまま、行方知らずとなってしまった……」
私は大変だったかと、羅城の手を優しく握った……。
「……悲しかったでしょ……?」
「ああ……でもこのキッカケが、戦士として師匠に弟子入りするきっかけとなったんだ……この言葉を母に持ち掛けると、母親にも背中を押されて、飾っていた兜を渡してきた。そして、こんな言葉を口にしたんだ……」
――「これは、家庭を着飾る道具ではない、誰かを守ることに対して力を発揮する。今はこの兜はお前を輝かしい目で見つめている……これは、『剣が剣士を選ぶこと』と同じような原理だ」
「そんな感じで、私は行方不明になった姉を探すために師匠の元へ行き、剣術を磨き上げ、この土地へとやって来た……ただ……現実と言うのはあまりにも残忍でな……」
「……えっ……?」
「未だに姉が見つかっていない……現在の手掛かりは、母の口座に振り込まれた大金の履歴とこのまだ動いている、錆びた懐中時計だ……厄介な事も含まれるが『ノック・ゼクス』が原因と言う者のチラホラいるんだ……」
羅城は未だに懐中時計を見つめながら、低い声で話していた……ラッキーは首をかしげながら、羅城に質問をする……。
「さっきからチラホラ出てくるが、『ノック・ゼクス』ってどんな企業なんだよ?」
「ああ、『ノック・ゼクス』はレイト地方アサガオ府を本社に設立している、主にエネルギー因子を扱う特殊開発企業でな、私達も彼らのお陰でエネルギー物質を『第二の地球』内に支給して、未来に貢献しているんだ。ただ……兄弟会社がブラック企業だと噂されていた『マネーイズタイム社』がある上で責任者と隊長がフィーア星人のことで反りが合わないのも噂され、ノック・ゼクスに悪いイメージがついてしまった……私はノック・ゼクスに感謝しているが、もう少し受け入れられる案件をしてくれたら、悪い噂をされなくてもいいだろうに……」
「そりゃあ、お前だけが思ってることじゃねぇと思うぜ! 俺様も昔、クソ上司がAIだからっつて俺様に仕事を押し付けたり、案件を無視したり、四六時中あったからな! その案件は何なのかさっぱりわからねぇが、お前の提案も受け入れられると、いざござが起こらなくなるかもな!」
「ラッキー殿……感謝する……まぁ、私が言うだけでは未来は変わらないな……それよりも、みかんがヒマワリ・ネオンシティ・南エリアの商店街の者達に聞き込みをしている……急いで、みかんの所へ急ごう」
私達は、ヒマワリ・ネオンシティ・南エリアへと急いで向かって、転売屋の手掛かりを調べている、みかんの元へ向かって行った……みかんは和菓子屋の店主らしき人と話している所を目に映る……。
「なぁ、和菓子屋のおじちゃん、今起こっている買い占め事件の事で調べておるんやけど、知ってることあるかいな?」
「あの例の『妖怪・転売豚男』のことかいな……内も被害に会ったことがあるんや……」
「妖怪……? 豚男……? どういうこっちゃ……?」
「あの野郎、うちの自慢の出来立てのおはぎを沢山買って大食いかいなと思ってはったんよ……その翌日に、うちのおはぎが食いもせずにフリマサイトに売られてたんや! しかもぼったくり価格で! 許さへん!!」
「店主……落ち着け……」
和菓子屋の店主は地面に足を強く踏み入れながら、大きな声で叫んだ……羅城は急いで、二人の元へ向かい、店主を落ち着かせようとしていた……。
「たった今、新たな情報が入った、どうやらその『妖怪・転売豚男』の元に誘拐されてる子供がいる。しかも、その子供がオーディションに受かったと事務所に向かっている最中に誘拐されたか、事務所を装った犯人の住処に向かったかのどちらかだ……」
落ち着きを取り戻した和菓子屋の店主は、事件の事で思い出した事があるそうだ……。
「あっそう言えば亜実ちゃん、一昨日の夕方にカフェに向かって行ったなぁ……なんや、聞いたことあらへん事務所で「昨日、特別合格もろてきた!」って言ってたしな」
「なら、後者の可能性がかなり上がったな……一般的なオーディションは結果を出すのに一週間や一ヶ月以内、大規模な場合は遅くて二ヶ月程度かかるのが基本だ……だが、主催側は容易く特別合格なんて出してもいいのだろうか……?」
「確かにおかしいわね……」
一方で雷美は、リサイクルショップに飾ってある女子高校生のキャラクターのフィギュアを涙目でじっと見つめながら――
「『魔女っ子☆佐藤さん』のヒロイン、佐藤さんはいいよね……自分が魔女だって事を隠して、人間界に降りるも、主人公の鈴木君にバレるんだよね……それでも鈴木君は佐藤さんと友達になりたくて、日が経つ内に二人の距離が縮まるんだね……ああ……アタシも佐藤さんみたいなメンタルがあればな~……」
独り言を呟きながら、人差し指で壁をなぞっていた……それを見たみかんは、心配そうに雷美の事を見ていた……。
「……雷美ちゃん……? どないしたん……?」
「ああ、落ち込んでしまったのは、私の説明不足により……憂鬱になってしまっている……」
「ひょっとして、羅城さん……自分が女やて言ってへんかったの?」
「うむ……彼女の輝かしい目と期待の声で、少し言いづらくなってしまってしまい……現在、リサイクルショップの窓辺にいるんだ……」
みかんは、雷美をどうにか励ましていき、私達の元へと連れて行った……何やら冷静ながらも慌ただしい声が、羅城の端末からしてきたのだ……。
「羅城……! イリル……! 皆はいるか……?!」
「祐郎……? そんなに慌ててどうしたの……?」
「たった今、買い占め事件の犯人の住処が特定されたぞ……それに、人の子までいるのだ……! 理亜に確認した所、彼女の娘、亜実だと証言している。恐らく、転売のみでは飽き足らず、身代金要求までしてくるだろう……!」
祐郎は、モニターに映像とマップの位置を共有した……! 映像には何だか不審に歩く男の姿と、女の子が隠れ家らしき入口へと向かって行っている姿が確認された……。
「な……?! それは、大変だ……急いでセナ殿のマップに共有をお願い致します! 必ずしも、私達が連れ戻してみせましょう!」
「みんな、近道はこっちよ!」
私達はセナを先頭に、祐郎に共有されたマップの位置へと走って向かって行った……!




