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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
その後
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CaseChocolate.乙女たちの聖戦

 ここはとあるアジト。ひっそりと建つ隠れ家である。

 誰にも見つからないように抜け道を辿って、三人の少女がここを訪れるのだ。


 彼女らにはとある目的があった。


 三人のうちひとり、くるくると巻いたツインテの少女が扉をやさしく叩いて、その向こうから聞こえてくる声に応えて合言葉をささやいた。


「スウィートorビター?」


「バトル・ロワイアル」


「よし、城華ちゃんだ」


 扉が開かれて、三人は内へ招かれる。

 入るや否や人間が対応できない速度ですぐさま施錠し、隠れ家には四人の少女のみが立っていた。


 ひとりは先ほど代表して合言葉を答えたくるくるツインテの少女、宿場城華。


 ふたりめは同じツインテでも翼に変化している幼女、オヴィラト。


 さんにんめは巫女服を引き裂いてムカデの脚がところどころに覗いている幼女、ウートレア。


 そして最後の四人目が、最初から隠れ家で待っていたスーパーアイドル・イドルレちゃんであった。


 四人は誰にも内緒でお出掛けしている。

 どこへ行くかと訊かれれば、我が心の向くままにと答えられるだろう。


 2月の中旬、具体的には14日は恋する乙女たちにとっては締切で本番で同人誌即売会であるほどに重要な日であった。


 極東の国日本にはその日、バレンタインデーとして日頃の感謝をチョコレートで渡すということを行うのだが。

 ふだん想い人に対して贈り物をしないこの四人はバレンタインデーが勝負であった。


 いつも渡してこない相手からのチョコレートこそ、より強い感謝を感じ取ってくれるというわけだ。


「よく集まってくれた諸君! 材料は用意したし、型とか道具もざっと揃えてレシピはこのわたしがまとめた!

 この隠れ家のキッチンは頑丈だしすごい最先端! ここで最高のチョコを……いや、本命チョコを作ろう!ね☆」


 イドルレの演説めいたあいさつにウートレアがひとりで反応して盛り上がる。

 一方で静かなほう、城華とオヴィラトも心の内ではイドルレの演説を受けて覚悟を決めていたし、渡すつもりのお相手のことを頭に思い浮かべていた。

 ふたりとも明確に定まっているのだ。日頃の感謝をぶつけたい本命の相手を想いながら、それぞれの作業が始まっていく。


「よし、みんな持ち場についたかな? それじゃ、レッツラクッキン!」


 イドルレの号令で、いっせいに材料チョコを手に取った。

 さすがに豆から作り上げたりはしない。いくつか用意されている中から自分で選ぶようにイドルレがしてくれていて、ウートレアやオヴィラトが直感で決めるなか城華は悩んでいた。


 いったいどのチョコレートで作れば喜んでくれるだろう。


 城華が考えた結果、渡す相手はそんなことは気にしないだろうから、よりエネルギーになれる甘めなチョコにしようと考えた。

 ミルクチョコを選んで開け、いざ作ろうと工程を移る。


 まずチョコレートを刻むところからで、城華はそれだけで3度ほど指先を切ったのだった。



「いっつ……」


「ふふん、タチバナのくせして包丁で指先切っちゃうんすねぇ」


「か、関係ないじゃないっ」


 オヴィラトはここぞとばかりに城華につっかかってくる。城華は実際オヴィラトには嫌われているほうかもしれない。

 城華の反応を面白がっているのもあるのだろうが。自慢気な顔をしながら、城華に視線を向けたままチョコを刻むオヴィラト。

 身長が足りず台に乗っているため見上げなくても城華の目線に届くのだが、そうやって調子に乗っていると痛い目にあうと彼女は忘れていた。


「あ、危ないのですよッ」


「へ……っていたぁっ!? めっちゃいたいっすねこれ!?」


 勢い余って手首へ盛大に切り込みが入る。和紙だったら変身しているかもしれないくらい深くまで切れている。

 血がチョコに混じってしまうが、彼女はすぐにあきらめてしまったようで、血ごとまとめてボウルにうつしていく。

 血液入りとはかなり重たい。かえってオヴィラトらしいとも言えるけれど。


「よし! じゃあ次の工程なのですよ!」


 ウートレアもチョコを刻み終わったらしく、次に移ろうとしていた。


 湯煎して溶かす工程、のはずが、ウートレアは大きなスピーカーを出してきて、そのスイッチを入れた。

 予想通り彼女の趣味である爆音ハードコアが流れだし、思わず城華は耳をふさぐがそれだけでは対処しきれない。

 イドルレがついに出動して強制的に止め、ウートレアはノっていたところを一発はたかれた。


「なのですッ」


「何してたの?」


「おいしくなぁれとおまじないをしようと思って……」


 目的はまだまともだったが、しかし手段がおかしい。

 イドルレが正しいおまじない、即ち「おいしくなぁれ♡」を伝授しており、オヴィラトも城華も手を止めてその様を眺めていた。


 自分でやるには恥ずかしすぎるが、さすがはイドルレだけあってメイドカフェの一番人気のような風格が感じられる。

 だんだん感化されてきたふたりは、こっそりと自分のチョコにおまじないをかけ、勝手に真っ赤になっているのだった。


 ◇


 そんなこんなでチョコレートは完成し、ついに本番の日がやってきた。


 いざバレンタインデーということで、イドルレ、城華、オヴィラト、ウートレアの四人で打ち合わせをする。

 衣装を頼んだ信頼できる助手に飾りを付けてもらい、ちゃんとメイクもばっちりだ。マイクのテストも本番前に終えていた。


 そして、四人は身内とイドルレのファンと見物人たちが待つステージへ上がっていった。


 そう。チョコを渡すつもりがいつの間にかライヴの練習になっており、イドルレに誘われるがまま四人でユニットを組むことになってしまったのだ。

 元々ノリノリだったウートレアはいいとしても、オヴィラトまでもがドSなキャラを受け入れたため城華だけ抜け出すわけにはいかなくなったのである。


 ライヴステージに上がった四人、ユニット『|You&I☆O'愛♡《ゆー・あい・おー・あい》』はそれぞれがいつもより可憐なコスチュームに着替えて並び、それだけで沸き立つ者も多く、歌う前から大盛況であった。


「はーい! お待たせ!

 イドルレのIはアイドルのアイ、アイドルのアイはみんなの愛! イドルレちゃん、到着! 今日はどうもよろしく、ね☆」


 この顔から火どころか噴煙と火砕流が出そうなほど恥ずかしい名乗りはとても練習させられた。

 案は全員で話し合って決まったが、そこに城華の意見はほとんどない。困惑して輪に入れなかったからだ。


「YOUの融点にみこみこノイジー! キューティーウートレア! なのですよッッ」


 やかましさの擬人化である彼女。テンションにつられる者は多い。

 ウートレアに関しては作品を間違えているのではないだろうか。


「さて、自分の番っすね。皆さん! 女の子にチョコもらいたいっすか!?」


「オーッ!」


「無駄に甘い堕落の塊でとろけたいっすか!?」


「オーッ!」


「そうっすかそうっすか……皆さん! 自分からは渡してやんないっすよ!

 代わりにオヴィラトちゃんのありがたいお言葉を受け取るっす!……ばーかっ!」


 とても楽しそうなオヴィラト。更なる大盛り上がりを見せる会場。

 なぜそれでこうなるのかがわからないが、とにかく城華の番だ。


 真っ赤になった顔を見られたくないのに、みんな注目してくる。緊張と照れで頭がオーバーヒートしそうだった。


「あ、え、えっと、あっ、愛のいばらは毒の味っ、きれいな華にはとげが、えっと、あったり、なかったり……うぅ、じょ、城華よっ!」


 なんとか言い切った。これだけで全体力を使いきった気がする。

 客席の最前列にある身内エリアからの視線が微笑ましいものを見守る目でちくちく刺さる。


 だがファンも進行担当のイドルレも城華ひとりのためには待ってくれない。

 そして始まる一曲目に向け城華が初期位置につき、マイクを両手でしっかり持って、いったん呼吸をととのえた。


「それじゃ、いっくよー! 聞いてください、一曲目『王者の果実』!」


 ◇


 チョコレートの彫像でもあれば溶けていたであろうほど熱いライヴも終わりを告げ、息も絶え絶えになりながら城華はステージから降りた。

 酸素を吸入して水をがぶ飲みし、イドルレに渡されたチョコレートを味わった。糖分が頭に染み渡る。


 イドルレはきっちり全員ぶん作っていたらしく、お疲れ様を言いに来たであろう身内にも次々と渡していて、逆に礼を言うという状況になっていた。


 そんな中、イドルレはさりげなく数人を別々の場所へ呼び出しており、城華たちにもその場所が伝えられ、今度こそバレンタインらしい本番が始まる。

 さっきまでの人前で歌って踊ることによる緊張と激しい運動のどきどきではなく、もっと激しくて胸がくるしくなるどきどきが城華の胸に現れるのだった。



 ☆ウートレアの場合☆


 ウートレアが感謝を伝える相手は上噛和紙であった。

 つまり、妹ということになる。数年ぶりに再会した姉妹が共に迎える久しぶりのバレンタインデーであり、血に穢れてからははじめてのことだった。


「ん、ここなお姉ちゃん?」


「やっほー、きりさ! ライヴ楽しんでもらえたのです?」


「うん、とっても楽しそうだった。ここなお姉ちゃんが」


「うちがなのですか。それは大当たりの名推理なのですよ! では、これを!」


 ウートレアから渡されたのは中身の見える簡素な包みに入れられた、シンプルなチョコレートだった。

 ここなだったころの彼女もそうだった。いろいろ気をひいてくれるようにがんばるくせに、いざこういう機会となるとひねり方がわからない。


 でもそれを、きりさは彼女らしいことだと知っていて、そうして過ごしてきた。

 だから、ほとんど覚えていない過去のことであっても、すこしだけ触れることができている気がして、和紙は嬉しかった。


「ありがとう、お姉ちゃん」


「どういたしましてなのですよ! 我が妹よ!」



 ☆イドルレの場合☆


 イドルレ本人が呼び出したには、むろん天世リノである。

 イドルレ自身はリノの近くにいるべきは自分などではないと理解しているけれど、せっかくの行事くらい自分に素直になろうと思い立ったのだ。


「あぁ、可恋じゃないか。どうしたんだい?」


「どうしたもこうしたも、こういうことに決まってるんだよっ」


「おっと、これはチョコレートだね。うん、ありがとう、可恋」


「……味わって食べてほしいな」


 イドルレの精一杯を込めているし、ハートだって自分が彼女に憧れ続けていることを表に出したつもりだった。

 けれど、リノには伝えられない。祷可恋は天世リノの隣で笑っているべき少女ではないのだから。


「あ、そうそう! お返しは3500倍でお願い!ね☆」


 明るく振る舞うことで、内にあるものを隠して抑え込む。


 乙女のバレンタインとは、そういうものだ。



 ☆オヴィラトの場合☆


 自分で味見してもちゃんとそこそこの味になっていたから大丈夫だと自分に何度も言い聞かせ、ふたりの大切な人に会いに行く。


 同年代の友達ふたりである。希も智夜も何が起きるかはだいたい察していたみたいで、すこし頬をゆるめながら待っていた。


「待たせたっすね、ふたりとも」


「いえいえ、ライヴ、とってもとってもよかったです!」


「ゆあちゃん、アイドルもできたんだね。可愛かったよ」


「あ、ありがとっす」


 タイミングを逃してはいけないと、あわてて例のものを取り出して渡す。

 目を輝かせる智夜と希の姿を見れば受け取ってもらえるかの不安はあっさりとどこかへ行ってしまう。


 バレンタインデーと縁のある生活を送ってこなかったオヴィラトには、好きな人のために作って渡すというのは新鮮な体験だった。

 クリスマスでサンタの格好をした思い出も色濃く残っていて、いっしょにチョコを作っている時間はとっても楽しかった。


 オヴィラトはきっと許されないけれど、受け入れてくれるみんながいるのはきっと幸運なことなのだろう。



 ☆城華の場合☆


 胸のどきどきを自分の手でずっと感じて、むしろ落ち着くためにひたすら数えて城華は不二のことを待っていた。

 彼女が来るのはそう遅くなくて、その空色の長い髪が見えたとたんに城華の表情は勝手に明るくなった。

 それからすぐに呼吸を整え、覚悟を決める。


「城華、話って」


「不二に渡したいものがあるの。どうか、受け取って」


 ちょっと不格好になってしまったが、ハートに見えなくもない、だろう。

 素直に受け取ってくれた不二が渡したものをじっと見ているから、城華のどきどきもこの日最高潮を迎える。


「もしかして、わざわざ作ってくれたの?」


「も、もちろんよっ」


「ありがとう、城華」


 短くて、不二らしくて、いまの城華が最も心待ちにしていた言葉であった。


 こぼれそうになる涙をぬぐって、城華もまた礼を返す。


「ううん。私のほうこそ、いままでずっとありがとう、不二」


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