マリアンヌヌヌ?
パイ生地は、伸ばして重ねる。伸ばして重ねるを何度も繰り返す事によって
焼き上がる際に空気の層が沢山増えてバターの風味をより感じる美味しいパイになるのです。
「パイを割ってサンドイッチの具を入れたのか。手軽でいいなコレ」
「うまいっす!」
「何個でも食えちゃいますね!」
庭のテーブルを囲んで
ムシャムシャと野菜タップリのサンドイッチを頬張るのは門番のフィリップさんとお仲間さん計4名。
「あら産まれたのね?じゃぁもう戻ってくるの?」
「収穫祭までは町に滞在して寄り合い馬車で帰るって。それまで畑は好きにしていいってさ!」
「あぁうん。ダニエル、収穫はしてあげてもいいと思うけど、畑を拡張したり新種を植えるのはどうかしら?」
「好きにしていいの内でしょ?」
厨房ではレイラさんがうちの長男に野菜愛を語られており、
「門番さん達、お仕事お疲れ様です!卵が茹であがりましたー!」
「おぉー天使だ!」
「天使が我々に卵を!」
給仕の度に門番さん達に愛されるうちの次男。
「カカオ、バニラ。いい加減降りなさい。兄兄さん達が立てないだろう。あとちょっとは三回使えません」
兄兄の膝で撫でられておへそを空に向け至福の表情の猫、カカオ&バニラさん。
猫とスムーズに無自覚に会話するエメリヒさんの片手はサンドイッチを握っているけど、もう片手は犬のチャロさんの耳下の毛を掻いてやってます。
楽しそうな朝の庭ですこと。
「あぁマリアンヌ、私は君の輝く髪に惹かれて絡み取られた哀れな虫にすぎないが、だからといってこんな扱いはあんまりだ。
ただひざまずき、愛を請いに来ただけなのに」
「お好きなだけ跪き、ひれ伏すがよいのではなくて?」
「美しい人よ私は膝を土につけるのは厭わないが
望み叶うのならば顔はできれば土にから離したひ」
「あら怪我をしておいでなのでしょう?ご無理はなさらないで身体を休めるべきだわ」
皆がわいわいと朝食を囲む庭から外れた木々の影で
うにうにと悶える蓑虫?いいえ縄で肩から足先までぐるぐるに巻かれ、目隠しされた人らしき何かがタイラーさんに後頭部を踏まれながら
先ほどから気持ち悪い単語を吐いてますが、一体何がどうしたものなのか。
えっと、まずはですね。
タイラーさん、マリアンヌって名前でしたっけ?
私は今、宿の二階にある客室の窓から朝の光景を見下ろしております。
庭にはご近所さん達が集まり、和やかに朝食を囲みつつ、「美味しいよ、メリー」と昨夜の練り重ねたパイ生地パンの感想を言ってくれているのですが、
窓辺にかじりついている私ではなく、何故か庭にいたタイラーさんに皆が揃って「メリー」と呼んでいます。
あぁ、うん。
多分あの蓑虫装備の方が、運ばれた怪我人でしょうね。
夕べ聞いた時より怪我が増えたような気がしますがきっと遠目だからでしょう。
遠目だから、背中あたりにレイラさんの木靴の跡が見えるような錯覚もしてしまいます。
村人達が拘束された蓑虫を無視する中、
何故か豪奢な衣装を纏い、
何故か見覚えのある金髪のカツラをかぶり、
皆からメリーだのマリアンヌだの呼ばれてニコニコと微笑みつつ蓑虫を踏みつけていらっしゃるのは
タイラーさん。
我が宿の、従業員さん一家の長です。
農家のジェイムズさんの奥さんを町に馬車で送りがてら、改修工事中は休暇を取ってもらっていました。
37歳4児の父親、女装がとってもお似合いです。




