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宿屋のメリー告白大作戦  作者: ミツキ
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弟会議


宿屋の幼い息子達は、改装されたばかりの部屋を親のいない間に駆け回って遊ぶ…こともなく。


「ベッドサイドの机には花瓶を置くべきだよ兄ちゃん!お洒落だろ!」

「うちの客は酒飲みが多いからこそ、水の入った瓶とカップだけでいいの。実用的でいいの」

「宿屋は憩いの場だろ?部屋に入ってまず花に癒されて欲しいじゃないか」

「ほとんどが男性客なのに意味は無い」

「一般の旅行客を増やしたいなら、女性客を重視すべきだってば」


おもてなし方法で喧嘩中。


「花って、庭の花だろ?見たければ窓を開ければいい」


と長男カルロが反論すれば、


「花壇だけでなく宿の廊下や室内に飾ることによって、他とは違うおもてなしを表したいんだよっ」


そう言いながら、机に次々と小物を並べる。

次男ダニエル特製の乾燥させた花弁を使ったポプリや花茶が可愛らしいレースに包まれていた。


「これを季節限定の商品として売るんだよ。旅の思い出やお土産にぴったりだと思わない?」


普段は弟に甘いカルロだが、可愛らしい商品にあまり乗り気ではないらしい。


「寝室は寝る為にあるんだから、変に飾りたてなくてもいいよ。それより、

この宿にして良かったと思えるように

今まで通り、預かった馬を綺麗にするとか、洗濯物のついでに服のつくろいをするとか、

細やかな気配りが大切なんだって」


うんうんと自分の言葉に頷く兄に、

弟は冷めた目である。

突拍子もない姉に隠れてはいるが、兄も少し変わっているのではないかとダニエルは思っていた。


宿で預かった馬を毛繕いするぐらいならいいが、

メリーは馬に直接希望を聞いてしまうので毛繕いの他に、水浴びだとか、小さな怪我の治療、はては歯に詰まった飼葉の掃除までする。


それはまぁいい。姉は馬が好きだし、勝手にいちゃいちゃすればいい。


だが兄カルロは、馬具の点検・修理をやりたがる。幼い頃から鍛冶屋で遊んでたからか、錆を見つけると磨きたくてたまらなくなるらしい。


あと靴。

長旅を終えた宿の客達の靴は、泥がこびりつき、破れている事が多い。


泥、錆、そしてボロボロの靴を見つけた時のカルロは宝物を見るような瞳で輝いている。

そして客が風呂に入っている間にピカピカに修繕してしまうのだ。


(地味、地味だよ兄ちゃん!)


動物に話しかける姉と、野菜に話しかける兄を持ち、

いつか自分も何か人間でないものと会話を成立してしまうのではないかと

危機感を持つ末っ子ダニエル。


上の姉兄二人はほぼ自分の趣味でしているからと、馬の手入れも靴の修理も料金を取らない。

宿の代金はそれでなくとも料理に力を入れている為、田舎の割には割高だからと滞在中の洗濯料金も取らない。


ただ洗って干して畳むだけならいいが、カルロはその上にシミ抜きからほつれの修繕までやってしまう。


(別料金を取ろうよ兄ちゃん!)


客の中には、気づかない者もいるし、母が繕いをしたと誤解したままの者もいるが、カルロは気にしない。


(寝ている間に靴を修理するとか、どこの妖精さんだよ!)


ダニエルは、きちんと料金表を作るべきだと主張するのだが、

子どもの小遣い稼ぎとは思われたくないと反対するカルロ。

大人顔負けの仕事をしておいて、子どもだからと謙遜する意味がわからない。


「ダニエル、お前はまだ子どもなんだから宿の儲けとか考えなくてもいいんだからね」

「無駄の無い経営方法を考えるのも勉強だよ兄ちゃん!」


まったく、うちは皆能天気だから僕ぐらいは真剣にならないと!

プリプリ怒るダニエルの手元に並んだレースに包まれたポプリの袋を見つめながら、カルロは思った。


(単純にそのレースを売ればいいんじゃないかなぁ)


メリーとダニエルの趣味であるレース作り。

雪の結晶をモチーフにした複雑な模様は、さぞかし女性受けも良いだろうに。

だがそれを言うと、

「売りたいのはポプリや薬効のある花の種なの!」と何故か機嫌を損ねるのだ。


カルロは全く興味がないのでわからないが、ダニエルは花壇の育成に幼児らしからぬ情熱を向けすぎのような気がする。

普通に花を愛でるメリーやカルロとは違い、ダニエルは葉や種の観察記録が楽しいらしい。


それにダニエルは姉のメリーに似たのか、絵が上手い。

毎日花を飾るぐらいなら、ダニエルの描いた絵を壁に飾ればいいのにと思うので言ってみると、


「子どもの絵を客室に飾るなんて、うちの両親が親バカだと思われる!」


図鑑よりも緻密に描かれた花々は子どもの絵には見えないし、うちは親バカだから何ら問題は無い。


「いいかい、ダニエル。うちはただでさえ外からの客が3食うちで飯を食うから、村の人達にあまり良くは思われてないんだぞ」


町へ向かう旅行者はともかく、

山を超える旅人達にとって村は物資の補給を行う最終地であるので

食糧や薬、武器防具の修理、野営で必要な小物類を村で買い求める。


村人としては出来るだけ旅人に自分の店で金を使って欲しいので、

宿内に長居をしてもらっては困るのだ。


だが。

鍛冶屋、小間物屋、それに医者が宿で毎晩飯を食っている為に常連の旅人達は飲み食いしながら注文が出来てしまう。

田舎でありがちな毛皮や肉も、村の猟師よりもメリーが数も質も上回ったものを持っているのは周知の事実だ。


村の婦人会なる団体から、婦人達の民芸品を宿で宣伝しろと口やかましく言われてもいる。


「はっ、あのダサい布切れが民芸品だなんて。馬の鼻水が散らばった柄なんて誰が欲しがるもんか」


「鼻水って」


否定はしないカルロ。婦人会曰く、冬の山でしか咲かない"幻の"釣鐘草を刺繍している。らしい。


うちの庭では年中咲いている釣鐘草とは似ても似つかないうねりのある模様は、花よりも鼻水がよほど近いのは確かなのだが、


「要するに自分達も儲けたいんだろうけどさ、宿の評判にあやかって便乗したい魂胆が見え見えなのが嫌だね。

僕はおばさん達のように小遣い稼ぎがしたいわけじゃない。

きちんと商売として成立させたいし、

ゆくゆくは宿の宣伝にもなる自信もある!」


「いやだから、うちは悪目立ちするわけにいかないんだって」


「今だけだよ。僕らが大人になるまでに世代交代される人達の言い分なんか聞く必要無いね」


熱く語る弟に、兄はどうすれば分かり合えるのかと頭を悩ます。

どうも弟は一部の大人に対して不信感を持ちすぎているような気がして心配なのだ。

姉や両親に心無い言葉を投げつけた大人達を尊重しろとは言わないが、


「村の中でデカイ顔をしていられるのもあと数年だね。ふふっ」


天使のように微笑む弟。

姉メリーを筆頭に周囲の大人達に舐めるように可愛いがられたはずのダニエル。


普段は大人達の前でニコニコと幼児らしく微笑み、カルロと共に姉の体力を挫く事を楽しんでいるが

二人きりになると、意外に熱く語る。

誰に似たのか時折辛辣な言葉を吐いたりもする。


兄としては、宿の経営について真剣に悩むより、駆けっこに夢中になって欲しい。

姉は今でこそ同世代の友人を得たが、ダニエルの年齢の頃は辛い経験をしていたのだ。

カルロは…親友が一人だけだがいる。

だが村の子では無い為、村で一緒に遊ぶような友人はいない。

姉と比べられたり、親世代が「宿の子と遊ぶな」と影で言われていたからだが、

ダニエルと同年の子は、移住組みが多く何の偏見も無いはずなのだ。


ダニエルも兄の心配は分からないわけではないが、本人は駆けっこよりも室内であれやこれやと研究するのが楽しいのだ。

それに…


「僕らがしっかりしないと、親世代の次はアレだよ?村が変人の集まりだと思われない為にも、真面目に育たないと!」


先ほどからダニエルが大きな声で語る理由…


兄弟の頭上で「ギャーッグワッ」と鳴きながらぐるぐる飛び回る鳥の群れと、

石を投げては確実に打ち落とし、「あっはっは!鈍臭いからモテないんだよザマァ!」と高らかに笑う姉の女友達。

仲間への仕返しに糞を落とす鳥達と、

「や~め~て~」洗濯物を守る姉メリー。


村一番の健脚の持ち主レイラ、

弓と鞭の腕前は誰にも負けないミリエラ、

三頭の犬を指笛で操る羊飼いのサリーは、季節限定鹿狩りの名人。

一見大人しそうなマリエラは、川を泳ぐ魚を石打ちで仕留める腕を持ち、

一番の年長カリラは…スカートを腰帯に挟んで木に登り、折った枝で空中から襲撃する鳥を打ち落としている。

メリーに木登りを伝授しただけあって、枝から枝へ片手で飛び移る身軽さは今も健在だ。


「…真面目な人もいるよ…」


鍛冶屋兄弟は真面目の代表だ。

だがそれ以外の姉と同世代の男達は…真面目は真面目だが、娘達に比べるとなんとも地味、いや普通。多分普通。

むしろ畑仕事以外は家に引きこもる率が高すぎて、普段はまったく見かけない。


ダニエル曰く、あの姉世代はとてもじゃないが村での嫁ぎ先は無い。

いずれ村を出てゆく。

その時に残った地味な男達に嫁のもらいてがあるとは思えず、少子化は避けられない。

このままでは村が過疎化してしまう!


「考えすぎだって…」


一応、一応言うカルロだがその声は鳥達の悲鳴のような鳴き声と、娘達の高笑いにかき消されてしまうのであった。



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