メリーとお友達
お洗濯、大好き!
雲ひとつない空は青く、風はゆるやかに駆けて
木々に繋いだロープに張ったシーツがお庭一面にはためき…
爽・快!
「…全客室のシーツはともかく、替えの分は今日じゃなくてもよかったわよね」
「ふくらはぎが痛い~」
「家まで裸足で帰ろうかしら」
「久しぶりに五番まで歌ったわ~」
みなさぁん!あとは掛け布だけですよ!
張り切ってやっちゃいましょう!
「うげぇ」「ぎゃぁ」「うひぃ」
庭のそこかしこから悲鳴が上がるのは何故かしらん。
こんなに楽しいのに。
今日は仲の良い村娘総出で宿のシーツ類をお洗濯。ついでに歌と踊りの練習なのです。
通常、村での洗濯は、村の中央を流れる川の下流に設置された屋根付きの共同場を使います。
大量の洗い物が発生する宿は、宿の裏に流れる小さな川沿いに洗濯小屋を作ってあるので
「人目をはばからずに歌の練習ができる!」とせっかく集まったのに。もう終わりでしょうか。
「あんた達は普段からの鍛え方が足りないのよ。ミリエラをご覧なさいな。ちゃっかり自分の家の洗濯物も干してるわよ」
「うふふ。メリーが作る洗濯粉は前から気になってたのよ。汚れが落ちるし、いい匂いがするし、やっぱりいいわね」
えっと、レイラさん。ミリエラさんが顔をうずめているのは門番さんの制服ですが、
お花の香りが強いですが大丈夫なの、でしょうね。わざとでしょうそうでしょうよきっと。
深く考えないようにします。
「だってぇ、タイラーさん達みたいになりたかったんだもん~」
「祭りまでに少しでもと思ったのよ~」
「逆に足が太くなった気がする」
タイラーさんは、通いで宿のお仕事をしてくれているご家族です。
ジェイムズさんの奥さんを町へ馬車で送ってもらいがてら、宿の改修が終わるまでは休暇をとってもらっているのですが、はて。村娘との交流はあまりなかったような?
「だって、あのくびれと美肌は気になるじゃない?何か特別な事しているか聞いたら、特別な事はしていないけど、
宿の仕事をしていると自然と身体を動かすし、肌はお風呂が好きなだけだって」
「洗濯なんて身体を動かすうちに入るのか疑問だったけど、確かにこりゃ痩せるわぁ」
あぁそうか。
普通のお洗濯は、盥に水を入れて藁束で汚れをこすり、ゆるく絞ってから
川に打ち付けるんでしたっけ?
「アラナの実をすり潰した粉で泡立ててから、川の水で濯いで、絞った布を岩にぶつけて水気を切るのよ」
ついでに身体も川の水で洗うので、洗濯小屋の周囲は男子禁制なんですよね。
「半裸のおばさん達が人の噂話でゲラゲラ笑いながら布を岩にぶつけてる所を見たくないだけよ」
ミリエラさんは井戸派でしたね。
「うちは川に通うには少し遠いし、父娘の二人だからそんなに洗濯物はないからね。でも…あれは買おうかしら」
頬に手を当てて悩むミリエラさんは村娘と言うより、主婦のようですね。
うちも注文する!と何人かの手が挙がります。
うふ。便利でしょ?手動洗濯桶。
宿は洗濯物が多いので大型ですが、金物屋さんに注文すれば小型化もできますよ。うふふ。
元は酒樽なので桶と呼ぶのは多少無理がありますがね。
「一枚づつ泡立てるより、効率いいわよね!うちはチビ達がいつも泥だらけになるからあると助かるわ」
五人姉妹の長女サリーさん。口調は元気なものの、ぐったりと芝生に寝転んでます。
「足踏み型にしてもらおうかなぁ。大家族だし。痩せそうだし」
ふっくらとした足が悩みのマリエラさんは上に三人のお兄さんと、叔父夫妻、祖父母と同居。
「メリーの発明にしては役に立つわよねぇ」
三人姉妹の真ん中、カリラさんは今日集まった中では一番のお姉さん。
私とレイラさんとミリエラさん、合わせて六人がかりなので作業が早くて助かりますねぇ。
ちなみに発明じゃなくて発案です。
頑張ったのは鍛冶屋の皆さんです。
卍型の羽を桶の中に入れて水流を起こすまでは考えたのですが、カラクリの大部分はタイラーさんと鍛冶屋一家。
水流を起こす動力として車輪を改造した手動と、足踏み型の二種類。
洗濯桶で泡立てて洗ってから、小川で水にさらし、絞って庭に干す作業を手分けしたのでまだ昼にもなっていないのは素晴らしいですね。
次行きましょう!次!
歌は何にしますか?
『赤い帯の娘さん』の歌もう一回練習しましょう!
『木こりの尻尾』も二番までは覚えましたよ!
「そんなに歌うのが好きなら、祭りに出ればいいのに。宿は忙しくても抜け出すくらいできるでしょ?」
「マリエラ、上を見てもそれを言える?」
カリラさんの呆れた口調にも「別にいいんじゃない?」とのんきなマリエラさん。
いい、のですかねぇ。
「泣くね。うちの妹達はコレを見たらギャン泣きするわ」
慣れてる私達と一緒にしちゃいけないとサリーさん。
ミリエラさんとレイラさんも同意なのか頷いてらっしゃる。
上にあるコレ、とは。
…枝にとまった鳥。鳥。鳥。
洗濯物を干している娘たちを囲む木々の枝という枝には数百羽。色とりどりの小鳥達が並んでとまり、
じっとこちらを見つめている。
みっちり。たわんだ枝にひしめく鳥からの視線が、痛い。
いや、私もここまでの量?は初めてですよ。
昔から歌を口ずさむと鳥さんが一緒に歌うことはあったけれど、
挨拶程度にちょっと合わせるぐらいで。すぐに飛んでいってしまわれましたし。
普段歌を歌っても、ここまで集まることはなかったです。
「メリーが歌うっても、宿の客が酔っ払った時ばかりでしょ?夜だし、鳥も寝てるでしょう」
…そういえば?いやでも、あれれ?
レイラさんのおっしゃる通りかしらん?
「私は初めてよ。メリーと昼間に歌うのは」
「私も。高い声が羨ましいわ」
「ほんと上手よねぇ。鳥達が聴き惚れるのも無理ないわぁ。だから後は1人で歌うのはどうかしら。お洗濯の残りは私達がするし」
ちょいと皆さん、この状況で私を一人きりにするおつもりですか?
このぐるりと鳥に囲まれ無言で見つめられている緊張感に満ちた状況で?
ん?何ですか皆さんまで無言でこちらを見つめたりなんかしちゃったりして。
特にミリエラさんの目線が冷たく感じるのは、いつも通りといえばいつも通りですけどっ!
「ねぇメリー、私たちお友達よね?」
その冒頭からの文言は危険な香りがしますので、今日いまこの瞬間からは顔見知り程度の距離感を希望します。
「お友達でしょう?」
ミリエラさん、肩を掴まないで顔が近いっ。
わぉっ。意外と乾燥肌ですねクリームお貸ししましょうか?
「お友達なんだからね?」
鼻と鼻がくっつきそうですけどっ、
目が、目が寄っちゃうぅ
「お友達だからこそ、この異様な光景に悲鳴を上げずに貴女からの説明及び通訳を待っているんだからね?
あんたはびっくりした程度の事が、普通の村娘にとっちゃ悪夢レベルの出来事だといい加減わかりなさいよ?」
いや、私もちょっぴり怖いなと思わなくはないですけど
今確実に怖いのはまばたきをしないミリエラさんですぅ。
「ミリエラ、ミリエラ。落ちついて。
メリー、あんたはとっとと鳥の通訳しなさい」
レイラさん、いやでも。いいのですか?
「どうせメリーの歌声が珍しいから聴いていたいとかでしょ?」
えっと、えぇい、ままよっ。
……ピチュ?
「ギャスーギャギャガァー」
え、うわぁ、うん。
「で?鳥は何て?」
えっと、ミリエラさん、怒らないで聞いてくれます?
「怒ったとしても最後まで聞いてあげるわよ?」
うわぁ、響きだけが優しい。
えっと、あの、解説と通訳をするとですね、
こちらの鳥の方々はその、皆さんオスでして。
「へぇそうなんだ」
「ちょっとサリー、あんた狩人の娘でしょう」
「うちの親父は腕が悪過ぎて何年も前から山菜狩り専門よ。カリラの親父さんと一緒でしょ」
「うちの親父は腕どころか足も悪くて畑のモグラ狩りしかしてないわよ」
「うちの村の狩人って一体」
マリエラさんのお父様も狩人ですがどちらかと言えば釣りがお好きですしねぇ。
「そういえば、鳥って今の時期は忙しいはずでは?」
おっと話が逸れた。レイラさんのおっしゃる通り、ラブなシーズンにございます。本来は。本来ならば。
ただ何と言うか、今回のシーズンを残念な結果になりそうな、
努力に結果が結びつかなかった
溢れんばかりの向上心のある方々がですね、我々の歌をもっと聞きたいそうですっ!
「ギャスーギャギャッ」
いやぁ皆さん歌が上手いから鳥さん達聞き惚れちゃったらしくてっ!
「ギャガーガーッ」
あと1.2曲歌ったら鳥さん達も満足してくれるんじゃないかなぁって、なぁって!
「…で?本当は何て言ってるの?どのみち怒るんだから全部お言いなさい?」
…歌声に釣られて集まったのは今後のラブなアピールの参考にするためだそうですが、
よく見たら村娘の中でも独り身ばっかりなので、参考にはならないけど見守ろう派と反面教師にしようよ派の鳥さん達だそうです。
「ほぅ。ほぅ。ほぅ」
怒っちゃいやよ?ミリエラさん。
多分、悪気は無いんですよ?茶目っ気はあるかなって?
「え?じゃぁ何?この辺りにいるのって全部振られた男なわけ?」
カリラさんっ、現時点ではパートナーのいない鳥さんですっ
「上から目線がムカつくわね?」
サリーさん、枝。枝に捕まってるからどうしてもね?ね?
「要するに暇な野郎どもなわけだ」
マリエラさんってば。たまたま今年は責任の無い自由な位置にいる方々ですよぅ。
「はっはっはっ」
乾いてるっレイラさん笑い声が乾いてますよ。
「ねぇメリー?おバカな鳥さん達に聞いてくれないかしら?
…膝が前に曲がってもそうやって枝にとまれるのかしらって」
ピュチュー!鳥さん逃げてぇぇっ!
この人達は現役の狩人さんなのー!!




