メリーの新メニュー
解・放・感!
両手両足が伸ばせるって素晴らしい!
今日は流石に宿の仕事をしないといけないので、解放してもらいました。
手紙は結局、蜂の報告書案でゴリ押しをしてウィレスさんに託し、町の手紙屋さんに送ってもらいましたので。
やること無くなった!
気になる事は山盛りです。
辺境伯と両親が今日町で対面しているだろうし、
行商人のテオさんに何があったのか、
ご本人も含めレプス商会の皆さんにそれとなくお伺いする手紙を書くのに二夜がかりだったし、
王子様の頭皮も心配なのですが、
手紙を書いたらすっきりした!
何も解決してないけれど!
てなわけで、通常の日々に戻ろうと思います。
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おっはようございます!ボブさん!
「おぅ、一週間ぶりだな」
あれ?一週間ですか?もっと長いような?
「今日は何の用だ?お前んとこの工事はまだ終わってないだろう」
内装があと少しです。厨房はもう終わっているので、今日は新メニューの相談に来ました!
「まともだな」
味見のお願いです!
「普通じゃねぇか」
肉パイの味見をお願いします!
「帰れ」
どーしてですかっ!美味しいはずですよっ!ほらっよい香り!
「なんだ、ケニスの野郎が作ったやつじゃねぇのか?」
はいな。私が作ってみました。肉は肉でも川魚の肉です。お魚の形に焼いてみました。
アツアツですので、ふーしてから食べてみて下さいね?
「…あー。まぁわかったよ。フォークよこせ」
…いかがでしょうか。
「うむ。うん。教えた通りに、パイ生地が上手く作れている。何十にも重ねた層の間に空気が均等に入って、サクサクの食感。バターの風味も丁度いい香ばしさだ。
具材も、川魚と、タマネギ、キノコか。魚の肉厚と、野菜の甘みがバランスが合っている。うん。下のパイ生地にまでソースが染み込んで美味い。
めちゃくちゃ美味いぞメリー!
宿では絶対出すなよ!」
…やっぱり。
「なんだ。どーしてですかと聞かんのか」
うー。ボブさんに聞くべきではないのかも知れないけど、うー。
どーして、ケニスさんのパイ生地があの個性的な味になるのかな、と。
同じ粉を使っているのに不思議でして。
「確かに、うちで挽いた麦粉だろうが、奴は後で色々混ぜてるからな」
小麦粉7に対して残り3は混ぜ物だと思います。あ、そちらはチーズと鳥肉のパイです。熱いうちにどうぞ。
「うむ。はふっ。おっ。胡椒が効いて、うむ。ヤギチーズの癖が、香草に絡んで、鳥肉も柔らかく…美味いじゃねぇか。これも宿では出すなよ」
ですよねぇ。うーむ。
「なんだなんだ。ちっとは物事を深く考えるようになったか」
少々訳ありで、肉パイを三食連続で食べたのです。うちはケニスさんのお姑さんに昔から嫌われているので、あまり食べる機会がなかったのですよ。
…食べてみたら、不思議で。
同じ粉と、バターを使って作ればパイ生地は充分美味しいのですよ。混ぜ物をして、原価を下げるにしてもやりすぎです。
「そうだな。肉も内臓を多く使ってる割には下処理が杜撰で、何日煮込んでも臭みが残ってるな。
お前が思いつきで作ったパイより、ケニスん所の肉パイは不味いよなぁ。
いや、昔はもう少しマシだったんだが。
宿が新装開店して、新しいメニューを出したいのは分かるが、パイ、茹で芋、酢漬け野菜は手を出すなよ」
うーん。出すつもりは無いですよ?
魚とキノコのパイの「具」だけで出すつもりなのですが、その場合、ケニスさんの所の肉パイと同じお値段になってしまうのは不味いかなと。両親は大丈夫だと言うのですが…。
「まずいな。ケニスん所の姑が暴れるぞ。いやその前に、魚とキノコはどこからだ?」
川魚はこの時期限定で山の上流に産卵に来るのを私が獲って燻製に。
キノコはうちのカルロ君が栽培に成功したものです。
香草はダニエル君と一緒に薬草園で育てたもので。
「お前んとこのバカ親なら、子ども達が作ったメニューだ。皆に食べてもらいたいと値段を安くして提供したいわなぁ」
はい。私も、川魚とキノコはうちの地方でだけ獲れるものなので、遠方からのお客様に是非食べて頂きたいと思っていたのです。けど。
「うちの地方の山奥でお前らしか獲れんがな。あのクソデカイ魚は網を破るし、釣り竿を折るだろ?キノコも、オドリタケは崖でしか生えないはずだが」
魚は素手でいけますよ?腹を弾いて河原に飛ばせば楽ですし。
オドリタケは乾燥をさせると薬になるのでたまに崖で獲ってましたが、
カルロ君が庭で朽ち木に栽培して大きく肉厚のあるキノコに品種改良をば。
「お前ら…いやまぁ、色々突っ込みたいが後にしよう。肉パイよりも安い物を売っちゃいかんと気づいたお前を俺は褒めるよ。複雑だろうがな」
教えてくれたのは、鍛冶屋のおかさんなのです。宿屋が美味しい食事を出すのを、どうして村のおかみさん達に反対されたのか。
農家のおかみさん達にとって「売り物」の野菜をうちは使います。
外からのお客様に美味しく食べて頂きたいから、調理にも手間隙を加えて美味しい料理をお出しします。
でもそれは、村の人からは贅沢な料理。
村の食事って茹で芋、豆、焼いた肉が三食続くのが普通なんですよね。
ケニスさんの食堂は、「村向け」なのですよね。外に出せない野菜を買い取って、加工に適さない肉を使って作る料理は、贅沢ではないから毎日食べてもよい料理。
小さい頃はよく分からなくて。
美味しいのが一番で何がいけないのって。
「この村は前村長が開拓した村だから、最初は貧しかった。その名残りだ。
畑も増えて、働き手も三世代、四世代目だ。行商人が通い、町との交流も増えたんだがな、頭の硬い奴は残ってる。家を建て替え、家具や服を揃えても、飯だけは贅沢したくない奴はいるのさ」
…うちの宿が安くて美味しい物を出すのは、ずっとダメなのでしょうか。
「ダメなのはケニスの野郎だ。常連が離れてるのに気づきもしねぇし、姑の言いなりだからなぁ。
うん。お前の想像は間違えちゃいねぇ。新装開店に合わせて新メニューを出す度に奴の客は減るな。んで婆ぁは宿に八つ当たりするな」
むーむーむひゅうっ!
ボブさん!考え中にほっぺツンツンは駄目です!
むー美味しいんだけどなぁ、むー。
「むしろイノシシやウサギは農家にとっちゃ害獣だから、農家の連中は宿に礼金払ってもいいはずだがな」
あまり獲りすぎると猟師さんが食いっぱぐれるからって、カルロ君に規制されてます。
ボブさーん、美味しかったでしょう?
一番美味しい食べ方はパイだと思うのですが、パスタも合うと思いませんか?
どんなパスタがいーかなー。
一緒に考えましょうよぅ。
「ったく、自分の親父に相談しろよ、俺は粉屋で飯屋じゃねぇぞ」
ん〜?
お父さんとも相談しましたけど、パスタを教えてくれたのはボブさんですから!
「…ふっ。粉屋はパスタ屋じゃねぇんだけどな。片手間に始めた乾麺作りが本業にとって代わりそうだがな。
メリーよ。じゃぁこんなのはどうだ?
パイではなく、パン生地で包んで油で揚げるってのは」
パン生地?揚げる?
「油も、ミランダの倅の所から買ってやればいい。あそこの植物油はサラッとしてるからな。
大きさは丸でも長方形でもいい。
想像してみろよ。カラッと揚げたパン生地を割った中から、とろみのある
熱々の魚とキノコの具が溢れて」
ボブさん!ボブさん!
「小麦粉一袋だな。ほらよ」
ボブさんはっ、今日はっ、
「何も予定入っちゃいねぇよ。うちの嫁と試食に行けばいいんだな?
油は俺がミランダの所に寄って持って行くからまず具材山ほど用意して、パン種を作っとけ」
あとね、あとはですね。
「キャリーと鍛冶屋も誘えばいいんだろ?どうせお前のこった。他にも試食案あるなら作っとけ作っとけ」
ん〜!ボブさんほっぺ出して下さいっ!
「はいはい」
ん〜ちゅばっ!
お酒は出しませんからねっ!持参ですよぉぉぉ!
「はいはいっと。まったく。いつになっても騒がしい奴だよまったく」
「あらあなた、もうお店閉めるの?まだ昼よ」
「宿屋で試食会だとよ。まったくジジィをこき使いやがって。母さん、キャリー誘ってやんな」
「息子達はどうしましょうかね?行商人さんに食べて欲しい新メニューでしょ?」
「奴らにゃ毒だな。芋でも食わしとけ。…なんだ?」
「…別に。顔がにやけてるなぁって」
「俺は年中しかめっ面だ!早く用意しろ!」
「はいはいっと〜ほんとうちは息子だけでよかったわぁ〜」




