籠の中のメリー
チュンチュン。チュンチュン。
チュ、おはようございます。
鳥籠の中のメリーです。朝日直撃で眩しいです。
昨日のお昼ご飯以降、ずっと手紙の文面で悩み続けましてですね。えぇずっと。
胃もたれで苦しみながら。
お手洗いとお風呂の時だけ出してもらって、レイラさん監修の元に文面を考え続けたのですが、それがその、難しくて。
…いつの間にか寝てしまったようです。
相談者の私が、遅くまで付き合ってくれたレイラさんに断りもなく寝落ちしちゃ駄目なのはわかります。
お布団を掛けてくれたのも隣人でしょう。
肩には犬のチャロさんが頭を乗せて眠っており、
お布団の中、お腹の上の二匹分の重みはネコのカカオ&バニラさん達でしょう。
もふもふさん達のおかげで身体は冷えてはいません。いませんがね。
まさか鳥籠に入れられたまま、庭に朝まで放置されるとは思わなかった。
野ざらしにも関わらず、朝まで熟睡した自分にもびっくりです。
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テオバルト様
お久しぶりです。お元気でいらっしゃいますか。
私は、村でいつも通りの平和な日々を過ごしております。宿の改築も予定通り進み、秋を前に皆様をお迎えする準備が整いそうです。
テオバルト様は、いかがお過ごしですか?
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この続きが、書けないっ。
いや、書いたのですが、レイラさんにビリビリに破られてしまったのです。
例えば、
『テオバルト様は、いかがお過ごしですか?村特産品のハチミツはお楽しみいただけましたでしょうか?
村といっても、あのハチミツを作る蜂は、北の山間にある草原の地面に巣を作る珍しい種類で…』
蜂の生態についての報告文になってしまい、破られました。
次に書いたのは、
『テオバルト様は、いかがお過ごしですか?思えば最後にお会いした日から一年が経ってしまいました。私はこの間に狩りの腕を磨き、最近では解体の手順や毛皮の処理に工夫を加え…』
私の近況としては正しい情報なのですが、駄目だそうです。ビリビリに破いた後で丸めて投げつけられました。
『テオバルト様は、いかがお過ごしですか?以前褒めていただいた薬草園はあれからまた種類が増えました。
村にお立ち寄りの際に、ゆっくりと見ていただきたいです。特に、タガレノ草の根を乾燥させた物は、解熱作用に優れているだけでなく、水溶性の成分の中に虫を寄せ付けない効果が有り…」
なかなかの長文で紙を4枚も使ったのですが、こちらはエメリヒさんが没収されました。
レイラさんに、
『あんたまさか、いつもこんな報告書じゃないでしょうね』
などと言われてしまいました。
…だって。くすん。
「ナァー」「ウナァー」
素直に最初から言えばよかった?
いえ隠していたつもりはないのですよ。
離れた場所の方との手紙のやり取りには違いないですから。
「ナァウ~?」「ナァ」
発注書と納品書は、手紙と言えない?
発注ではなく、注文というか、リクエスト!そうリクエストです。
各地を巡るテオさんに、新しいメニューの材料になりそうなものがあれば、予算これぐらいでご紹介していただきたいなぁー、など個人的なお願いを手紙に託してましたよ?
「ウニ?」
テオさんからのお返事は、それはもう丁寧で。
産地の紹介から、保存方法、地元の調理方法までそれはもう詳しく!
ほらほら、カカオさんの大好きな干物の美味しい食べ方は、テオさんからのお手紙にあったアドバイスを忠実に再現したのですから!
「ノゥ」「ノー」
納品書じゃありません!ちゃんと最後に、こ、個人的な一筆が加えられていましたから!
『メリーさんの新作料理がとても楽しみです』
ここ!ほらここに!バニラさん文字は読めなくても形から優しさを読み取れるでしょう?
「わふ」「ナゥ」「ナゥ」
とりあえず撫でて落ち着け?
撫でますよ、そりゃ撫でますけど。
うーむ。
…お元気ですか?
それだけなのです。
テオさん、お元気ですか。
お手紙だけじゃ書けないような、楽しい出来事がこの一年で沢山ありましたって。
テオさんに聞いて欲しいなぁ。
なんだかね、不思議なんですけどね。
小さい頃から何かを見つける度に、あのねってお話しするのは最初は両親で。
こんなことがあったよ。
あんなのを見つけたよ。
教会で話すことを禁じられていたせいか、言葉をいくら覚えても自分から話しかけるのが苦手だったけど。いつの間にか弟君達や、お友達、村の人やお客さんとお話しするのは普通に出来るようになったけれど。
どうしてかなぁ。一番最初に報告したい相手が、テオさんになっちゃった。
でも実際に会えると、自分の事はどうでもよくて、テオさんのお話を聞きたくなっちゃって。おかしいですよね。
王都でお会いしたかったのは…
うふふ。「待ち合わせ」に憧れていたのですよ。
うちは宿で、テオさんはお客様ですから、「いらっしゃいませ」がどうしても最初の言葉になってしまうでしょう?
「ようこそ」って言ってもらえるかなって。ふふっ。それだけで王都まで行っちゃいましたよ。バカですねぇ。
あぁでも…私を産んだ人に会うとは思わなかったなぁ。
内緒ですけどね、サロンに彼女が突撃した後で…私かなり泣いてしまって。
それも王妃さまの目の前で。
私の娘だ。瞳も髪の色も、美しい顔立ちや声まで同じだから、お前は私の娘なのだから帰っておいで。
…謝ってはくれないんだ。
ごめんねって。赤ん坊の貴女を一人にしてごめんねって。謝ってくれないんだ。
悔しくて、なんだかもうぐちゃぐちゃで、王妃さまのお部屋で泣き崩れちゃって。
謝って欲しくて。赤ん坊だった私に。
私を育てることで、肩身の狭い思いをした両親に、それでも育ててくれた両親に、彼女に謝って欲しかった。
王妃さまはこうして、頭と背中をずっと撫でて下さって…そして、
『…どうせ男どもは、貴女には教えたがらないでしょう。人の噂は止められるものではありません。貴女を産んだ女がどのような人間か今ここで聞きなさい』
社交界での噂をそりゃもう、たんまりと。私は貴族の娘になるつもりはないからと耳を塞いでも、ひっぺがされて。途中から明らかに侍女ではない方からの報告書の読み上げが始まり、
家系図を頭に叩き込まれ、それから貴族が使う裏の手やなんやかんやを一晩中教え込まれました。
ふふっ。15で出産したらしいですよ…弟妹かもしれない人も沢山…親戚どんだけ…貴族怖い…。
同じ血が流れているのかと落ち込む私に、王妃さまは『そうね』と。
『貴女ならもっと上手くやれるでしょう。あんな中途半端な小物ではなく。
幸い頭も良いし、人にはない才能も若さもある。出自の悲劇と美貌をエサにすれば、身分や財産など釣れまくりじゃないかしら。
試しにうちの息子に泣きついて御覧なさいな。ちょろいわよ?』
王妃さまったら、ご冗談が上手でしょう?
お腹を抱えて笑っちゃいました。
でね、行商人さんに、テオさんに後を全部任せなさいって。
まだ頭の中がぐちゃぐちゃで、でも、私を産んだ人とテオさんは関係無いでしょう?お伝えしたけれど、任せなさい。
その代わり、貴女は村で毎日楽しく、笑顔で過ごしなさいって。
ね、チャロさん。
私、この一年笑顔だったでしょう?
怖かった時もあるのですよ?誰かが私を連れ去りに来るんじゃないかって。
そんな時には、必ずレプス商会から荷物とお手紙が届きました。
テオさんはお仕事の関係で村には寄れないけれど、一行、二行、
『大丈夫です。心配をしないで下さい。貴女は笑顔でいて下さい』って書いて下さるのですよ。
…会いたいなぁ。
テオさんに、お会いしたいです。
毎日楽しいし、笑顔にだってなれるのに。なんだか最近ね、テオさんのことを想うだけで泣きたくなっちゃうのです。
手紙に、会いたいなんて書けないのに。書きたくなっちゃって、他の言葉が思い浮かばないです。
テオさん、お元気ですか、お会いしたいです。
とてもとても、お会いしたいです。
…たくさんご迷惑をおかけしてしまったのに、巻き込んでしまったのに、会いたいだなんてわがまま…書けるわけないですよね。
…きゃぁ。顔を舐めるのはやめて下さいっ!
三匹がかりは卑怯ですよっ!あははっ!ザリザリ痛いっ!まぶたは痛い!
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「…書けたわよ、兄さん」
「うちの妹は走るのも速いけど、書くのも速いねぇ。物陰に隠れて何を盗み聞きしてるのかと思ったよ」
「だって焦れったい文章なんて今更でしょう?ありのままのメリーの言葉を私が代筆してあげただけよ」
「それ、本当に送るの?」
「テオさんに送らないわよ。私の文通相手に村の何気無い一場面をお知らせするだけ」
「レイラ、文通なんてしてたっけ?」
「レプス商会のえーと、甘味好き?」
「これからするんだね…」
あははっ、ダメですよ押さないでっ鳥籠が落ちてしまいますってば!
あはははっ!




