メリーのお昼ご飯
よっせ、ほいせっ、よっせ、ほいせ。
私はメリー。逃げることを許されぬ籠の鳥…。
よっせ、ほいせっ。
じゃなくて、鳥籠!どーしてですかレイラさん!どーして私は鳥籠で運ばれているのですか!
わたくし、ただいま大きな鳥籠に押し込められ、天秤棒の前にエメリヒさん、後ろにレイラさんが棒を肩に乗せて下山中であります。
「面白いからと、逃亡の阻止?」
後半はついでなのですか?
「とりあえず今日は、一日中あんたは鳥籠だから。私から逃げた罰で食事は三食、ケニス食堂の肉パイね。もちろんあんただけ。私と兄さん、弟達は鍛冶屋のおかみさんのご飯食べるから」
……肉パイ。……肉パイ。…脂。
「そう、肉の細切れと野菜を煮込んでパイ生地で包んだ肉パイ。豚の脂たっぷり。塩胡椒のみの味付け」
…あの、テカテカの脂は、わたくし少々、胃との相性が。
いや、あの味が好きな方がいらっしゃるのは存じてますが。
あらかじめ長方形の箱型に焼いたパイに、牛と豚の細切れ肉を煮て、煮て、煮尽くしたものを詰めてから、パイ生地を乗せてまた焼いた、肉パイ。
二度焼きによってパイ生地の器がガッチガチに硬化するので、お持ち帰りもできるらしい、肉パイ。
「僕はあの味が大嫌いだけどね。今朝、ケニス食堂の婆さんが、薬代の代わりに肉パイを置いて逃げたんだ。食べ物を粗末にしたくないけど、あれはうちの猫も鼻をしかめるし」
エメリヒさん、猫ちゃんが嫌がるものを私に食べさせるのですか?おかしくないですか?
「だって君、山で怪しげな木の実食べても平気じゃないか」
「罰なんだから、味わって苦しみなさい」
えっさほいさっと呼吸ぴったりな兄妹は、鳥籠の中でめそめそと泣く私をを無視です。
村人達も巨大な鳥籠で運ばれる私を見ても、よくある光景なので目で追いすらしませんね。朝に兄兄に背負われての帰り道とは真逆から運ばれているのですが。
弟のカルロ君曰く、うちの村は誰かが道を走っているよりも、止まっている時に「どうした何事だ」と人が心配をして集まる変な村なのだと。
変ですかねぇ。
宿に戻って、「変」の意味を体感することになろうとは。
どーしてですかレイラさん!
どーして私は鳥籠ごと庭に置かれてしまうのですか!
「だって面白いし。食事ぐらいゆっくり食べたいし。貴女も部屋で監禁されるより鳥籠なら周りの景色が見られて落ち着くでしょう?」
質問に対する回答は、動機を冒頭に述べる必要あるのでしょうか。
あとそれと、皆さんで私を囲んで昼食を取る必要もあるのでしょうか。
大工さん方、鍛冶屋一家、エメリヒ&レイラ兄妹、カルロ&ダニエル君までがぐるりと鳥籠を囲んで仲良く庭に座り、鍛冶屋のおかさん手製のお昼ご飯を食べ、
私だけ肉パイ!のみ!
「すみませんね、おかみさん。俺らまでご馳走になって」
「簡単なものだけど、量はたくさんありますから」
「うまいっ!」
干しぶどうとクルミぎっしりのパン、
ヤギのチーズ、玉ねぎとカブのスープ、
ハム、じゃなくて、肉パテ!おかさんの肉パテは舌触りなめらかで、お口の中でお肉が溶けるのです。
薄切りトマトと一緒に食べてみて下さい!
「お姉ちゃん、あんまり凝視すると大工さん達が食べ辛そうだよ」
そうでしょうか。ダニエル君、私の目には皆さん見せびらかしていらっしゃるようにうつってますが。
「いやぁ、メリーこそ俺らに遠慮せず食えよ」
「メリーの昼飯はケニスの肉パイだけか…食後は昼寝しろよ?胃がもたれるからな。その味が好きな奴もいるんだがなぁ」
目が笑ってますよ大工の兄さん方!
そもそも、鳥籠を置くほどの台座はうちになかったですよね?
神様への供物ですか私。
即席で作るにしたって、少々場所がね?裏庭とはいえ、村の人からはバレバレの場所なわけで。
「なんだい、またメリーがやらかしたのかい?」
「変わった鳥籠だからまたメリーが変な獣でも取ってきたかと思ったら、中身メリーかよ」
「お母さん~やっぱりメリーだった」
通りかかった村の皆さんが、わざわざ庭へ近づいては笑っていらっしゃいます。
いつの間にか近所のおばぁちゃんやチビさん達も増え、持ち寄ったオカズを広げながら和気藹々。
あはは、うふふのピクニック会場。
「ダニエル君、メリーちゃんにリンゴあげていい?」
「肉パイを全部食べ終わってからならいいよ」
皆さん、弟君達に餌付けの許可を求めてらっしゃいます。リンゴ…さっぱりした味と食感…。
「あはは!全部は無理だよ!じゃぁチャロ~お食べ~」
「わふ」
チャ、チャロさん!?
「姉さん、チャロにオヤツを全部取られたく無ければ早く肉パイ食べちゃいなよ。ほら、口元が脂でぎとぎとじゃないか」
カルロ君、だってね、チャロさんは先ほど『お腹いっぱいだから』って肉パイを断ったのにっ
「それは僕が事前に、姉さんが泣きついても代わりに食べたりしないでねってお願いしたからだよ。あ、近在の犬にもお願いしたから。遠吠えをして呼んでも無駄だからね」
……もそもそ。
「それにしても。食べ物に好き嫌いが無いメリーにしては珍しいわよねぇ」
「いやいや、鍛冶屋のおかみ。そこは違うぜ。俺らも独身の奴や金が無い時はケニスの食堂で飯を食うが、
ありゃ肉の脂で腹持ちがいいと錯覚するだけで、舌や胃袋が繊細だと無理だぞ」
「うちのカミさんも付き合いでたまに買って帰るがね。下のパイ生地は水に漬けて家畜のエサだぜ」
家畜のエサ?家畜のエサですと?
「いや、ゴホンッ。だからなぁレイラ、メリーがまた何かしでかしてお仕置きなんだろうけど、三食肉パイは勘弁してやれや」
大工のお兄さま達が優しい!
「ん?嫌」
「そ、そうか、ならしょーがねぇなぁ」
「よーし仕事に戻るか!ご馳走さん!」
大工のお兄さま方、あきらめ早い!
「じゃぁね、ダニエル君また遊ぼうね~」
「さて農作業に戻らんと」
「お買い物の続きしなきゃ」
そして何事もなかったように解散する村民たち!
「あ、鍛冶屋さん、うちの大鍋見てもらえるかしら?」
「うちの鍬も治してもらわんとな」
「…」「…」「…」
そしてそして、無言のまま食事を済ませお仕事へ戻る鍛冶屋のおとさん、兄兄達!
「鍛冶屋のおかさん、お昼ご飯美味しかった~オヤツも作って欲しいなぁ」
「もちろん僕らがお手伝いするよ」
「あらあら、何が食べたい?」
弟君達、お片づけのお手伝いをしながらオヤツの催促…
メリーの、メリーの味方はどちらにいらっしゃるのでしょう?
「嫌だなメリー、僕らがいるじゃないか」
ペンを持ったエメリヒさん…と、紙束を持ったレイラ。
「お腹いっぱいになって落ち着いたでしょ?はい、お手紙書くのでしょ?」
はっ、そそそうでした!お手紙ですよね!ありがとうございます。
鳥籠の中で書きますよ、書きますとも。
「文字や綴り間違いがないか僕が添削してあげるよ」
「歪曲な表現や、勘違いされない文章がないかは私が見てあげる」
えっと、ありがとうございます?
「そうそう、手紙ってのは冒頭の挨拶文が難しいから最初だけ書いてあげたから、質問事項だけ埋めればすぐ出せるようにしたから」
冒頭?時候の挨拶でしょうか。
ふむふむ。
『親愛なるテオバルト・クラッセン様』
ビリッ
『レプス商会 我が愛しのテオバルト・クラッセン様』
ビリッ
『麗しの君、テオバルト様』
ビリッ!
『テオバルト様
突然の手紙失礼します。先日、知人よりテオバルト様がお元気ではない様子だと伺い
とても心配しております。
宜しければ近況をお聞かせ下さい。
取り急ぎ要件のみで失礼します。
貴女のメリー・ウィービー』
ビリビリッ!
レイラさんっ、エメリヒさん。お話しがありますっ
「何よ。文句でもあるの?」
歪曲な表現の許可を!
「却下」




