カルロ君の鬱憤
「カルロ、カルロ。気持ちはわかるが収穫が終わったなら、そろそろ話しかけたいんだが、いいか?」
「僕はこれから愛してやまないカボチャに大きくなれよと語りかける日課が残っているので」
「ぁあ、うん。もう充分大きいと思うけどな」
双子兄、犬、双子弟の右側に座った
三男、金物屋のウィレス・ウォルトがのんびりとカルロに語りかける。
双子兄は、ウィダム。
双子弟は、ウィガム。
通称・兄兄。
ウィレスだけはメリーが幼い頃に「レス」の発音が出来ず、「うぃっ~す」と妙な挨拶になってしまうので、苗字呼びだ。
彼らの両親はウィービー家の子どもは「おとさん」「おかさん」と呼ぶ決まり?になっているので問題ないらしい。
「…姉さんに関わる事以外ならお伺いしますが」
「そこは俺もさっぱりだ。散歩の最中にチャロが突然走り出してここまで連れて来られた。双子は途中合流だ。
収穫した野菜は俺が宿まで運ぶから、
悪いがうちのに付き合ってやってくれ」
うむうむと同時に頷く双子+犬。
鍛冶屋の作業着は白いので、白い犬と並ぶとセットに見える。
双子は、剃り上げた頭と垂れ目がちの緑の瞳、それと中背厚肉。逆三角形の上半身と盛り上がった尻が村娘に大人気。
「兄兄とチャロ…うちの姉がまたおかしな場所で行き倒れましたか…」
鍛冶屋は、鉱山での採掘も自分達で行うのでよく山にこもる。また大量の薪が必要な為に、森にも足を運ぶ。
そして、よく姉を回収して帰る。
「サルスベリの枝で居眠り、崖にへばりついて立ち往生、増水した川の中洲で昼寝…村娘の行動範囲って!」
堪らず叫ぶカルロ。
「感謝してますけどね!姉を立派に育てて頂いたいて!鉈、鎌、斧を使いこなす姉を持てて僕は幸せなんですか?」
「疑問系にしてやるなよ」
「まだ武器は良し、弓でも槍でも使おうが見慣れましたからね僕は、でも、最近うちの姉は狩りに弓すら使わん!
何故か、あんたらだ!」
ビシッと指をさされて顔を背ける三兄弟。
「指弾って何ですか!元は武器屋だから新しい物を試したいのかもしれませんがね!
うちの村には猟師がいるでしょう?彼らを廃業させるつもりですか!」
去年から姉が珍しくブレスレットをつけ出したので、ようやく娘らしくなったかと、弟ながらに感動していたのだが、昨夜ふと、王都から脱出の際に単騎で逃亡をした話に違和感を感じて聞いてしまったのだ。
姉は多芸だが、剣は使えなかったはず。鎌や斧でも振り回したのだろうかと。
誇らしげに見せてくれたのは、ブレスレット。
『あの木の幹を見て下さいね』
ビシッ、ビシッ、ビシッ。
ブレスレット…鉄の玉を親指で弾くメリー。
『回収にほじくるのが大変ですけどね~武器を構えていると相手に悟られないので、猟で重宝するのですよ~』
鉄の玉は、かなりの深さまでめりこんでいた。人に当てれば、悶絶どころではないだろう。
「石つぶてより重みがあって、球が良く飛ぶそうですよ!流石ですね!」
「カルロ、悪かった、すまん、怖い顔で無理矢理褒めなくていいから、悪かった。ほら、チャロを撫でて落ち着け」
「撫でてますけどね!」
ぷりぷりと怒りながらも、チャロの全身を撫で回すカルロ。メリー譲りの絶妙な撫で技に、腹を見せて「もっと!」とせがみたいのを、ウォルト家の一員としてぐっと耐える、チャロ。
「わかった。悪かった。話は兄兄が聞くから、ほら籠をこっちにな。ウィガムの背に乗って、うん、道すがら聞くそうだから、ほらチャロ、案内をして」
「姉の簪が武器だってこともバレてるんですからね!」
「ありゃ親父と爺の作だ。じゃぁな、カルロ、行ってらっしゃーい」
野菜籠を小脇に抱えたウィレス・ウォルトは、カルロを背負うた兄達がとんでもない速さで走り去るのをゆったり手を降り見送った。
簪ならまだ可愛いもので。さ。
去年、王都へ村長と向うメリーを心配したウォルト家の母親が、息子達に「村長は信用ならん」と仕込み武器の製作を命じたのは記憶に新しい。
斧、鉈、鎌は折り畳みできるように改造。
ブーツには仕込み刀、ブレスレットは指弾、マント用の花柄のブローチは花びらを抜くと全て針。鞄にも細工有り。
そして鍛冶屋の主である親父が製作した腕輪。
一見、細い輪を何重にも重ねただけの模様に見えてその実、細工部にひねりを与えると…手錠になる。
母親が絶賛した力作。
どこで使ったとは言わなかったが、メリーも絶賛して親父はとても照れていたっけなぁ。
「カルロは間違えてない。うん」
宿屋の娘が、そこいらの傭兵よりも武装するのは、俺もやり過ぎだと思った。止めなかったけど。
だがカルロ、気をつけろ。
普段は冷静なお前がぷりぷりと怒る姿にウォルト家は皆、デレッデレだ。
両親はお前を孫扱いで甘やかしたくてうずうずしてるぞ。
だって三兄弟いまだに未婚だしな!
お前が愛用してくれているこの野菜籠も親父作だ。もう金属関係無くなってるよな!
ま、俺は。男を甘やかす趣味はないがな。
などと傍観者を気取るウィレスもまた、野菜籠と一緒に預かった採取用のハサミをピカピカに磨き上げるのであった。




