回答者メリー・ウィービー
「…テオバルト・クラッセンさんね」
「…テオバルト・クラッセン。か」
お庭のガーデンテーブルで、お父さんとお母さんが並んで資料に目を通しています。
はい。どこからともなく現れたお母さんに資料を取り上げられてしまったのです。
そして今度はダニエル君が私の膝の上に座ってしまっているので、
逃げられません。
弟君たちは、スコーンにたっぷりハチミツを乗せてご満悦のご様子。
スライスしたクフコの実はハチミツをつけなくても甘いですからね、
口に含んだままお茶を飲むとまた絶品ですよ?
「カルロ、とても字が上手になってるわ。母さん嬉しい」
「綴り間違いも減ってる。偉いな」
「ありがとうございます」
ちょっと照れるカルロ君。
可愛らしいです。ただ、その、内容には触れないのでしょうか。
いえ、音読されたいわけではなくてですね、ちらっと、ちらっとメリーも見たいなぁって。
「大丈夫だよお姉ちゃん。内容はテオさんとお姉ちゃんの会話を抜粋しただけだし、テオさん本人の個人情報も
僕とお兄ちゃんで直接聞いたものだけだから、対した事は書かれてないよ」
会話を抜粋!?
個人情報!?
「お父さんが落ち着いて読んでいられる程度の会話しかしてないでしょ。
むしろ僕らはフルネームすら聞いてなかった事に驚きだよ」
いや、そこはその、
メリーだって、メリージェーンかもしれないですよっ
「悔し紛れに改名しないでよ姉さん。
それで、父さん。テオさんのこと思い出した?」
カルロ君だって、実はロカルロ君かもしれないですよっ
「そりゃな。レプス商会の若い集はメリーと年も近いし、何人かのうちの誰かだとは見当をつけてはいたが。
…いや、確かに二人きりで話していたし、並んで歩いてるのも見たがなぁ」
ダニエル君だって、ダニエル君だって、タコエル君かもっ
「メリー、落ち着いて。ねぇメリー。
確かにこれだけ読むと、挨拶事例集のようだけど、メリーはテオさんを好きになったきっかけがあるのよね?
教えてくれない?」
「そうだ。命を救ったとか救われたとか、劇的な展開はないのか?お父さんは適切すぎる距離感を数年間も続けてた事に困惑中だぞ」
きっかけ。うぅん。きっかけ。
・
・
・
きっかけ。かどうかは分かりませんが、
不思議な人だなって思いました。
あの時は、初めてお会いしたお若い行商人さん達は、とても驚いておいででした。
「お?昨日は顔を合わせてなかったか?この娘が村の名物、『宿屋のメリー』だ」
代表さんに皆さんを紹介していただき、皆さんは村長に挨拶をした後で
これから宿に戻るところだそうで、
では一緒に戻りがてら村を案内しますと申し出たのです。
すると。
ひょいっと。肩の上に担いでいたイノシシを取り上げたのが、テオさんでした。
「あぁ、テオが持つってさ。あいつは元肉屋の息子に解体を習ってるから、やらせてやんな。嬢ちゃんはいつものスープを頼むよ。昨夜遅くに着いたから、俺たち腹空かしたままなんだ」
その時は無言で前を歩くテオさんを見ながら、身長は同じくらいなのに軽々と持つんだなぁとだけ思いました。
次の年の春にお会いした時は、
ちょうど私は木の上で跨っていて。
子猫のカカオ&バニラさんが高い枝に登ってしまって
降りれなくなっていてですね。
救出した二匹を胸に抱えながら、はてどうやって降りようかと考えていると、
「宿屋のメリーさん?」
下から声がかかりました。
「予定より早く着いてしまったけど、空き部屋あるかな?」
えっと、両手を広げていらっしゃるのは何故?
「8人で4泊。食事は朝昼晩をお願いしたい」
猫だけ手渡すには距離があるし、二匹とも全力で私にしがみつき中なので離れません。
えっと?
私が首を傾げると、同じように首を傾げる行商人、テオさん。
大丈夫なのかな?あれ?大丈夫な気がする。
跨いでいた足を外し、枝に腰かける体制にしてから、すとんっと。
行商人さんに抱きとめてもらいました。
「えっと、空き部屋大丈夫です。ご飯も、沢山ご用意できます」
「そうか。安心した」
テオさんはそのまま、猫2+私ごと歩き出してしまい、道端で待っていたお馬さんの上に私を乗せ、出発。
馬から降りる時も手を差し出されて、
何か違和感。
あ、身長が抜かれたんだ!
とその時は思いました。
だけど、不思議な事をする方で。
例えば厨房からテーブルに大皿を運ぶ時も、井戸から水を汲んで薬草園へ行こうとした時も、
全部取り上げられてしまうのです。
私は、もしかしてと。レイラさんに相談しました。
「宿の仕事を取り上げられる?何よそれ。あとなんで私の袖をまくる?」
いや、とにかく重い物を取り上げられるので。私の腕はそんなに頼りないのかと…同じ太さですね。
痛いです。こめかみ拳でグリグリ痛いです。
「そいつは何か言うの?お持ちしますよとか、重い物を女性が持ってはいけませんとか」
具はキノコ?薬草園にある珍しい花はシャグナ?などの質問に答える形です。
「…はぁ?…うーん、レプス商会の人なら、妹扱いってことかしらね。もしくは実際に妹がいるか。でもねメリー。世の中の女は、持てる物でも重くて無理って言って男に持たせる場合が多いの。知らないわよそれがマナーなんだと。女扱いをやりたい奴にはやらせればいいんじゃない?」
妹。女扱い。なるほど都会からいらっしゃいますからね。田舎娘がたくましいのをご存知無いと。
よし、わかりました。
よしよし。
大丈夫です!飼葉ぐらい持てます!力持ちですよ私!
「確かに。イノシシ持ってたね。あれは弓だけで?罠を仕掛けずに?」
弓も使いますが、罠は二種類ありまして、こう細い木枠を地面にあらかじめ埋めて、
おや?いつの間にか両手が空いてしまってる。
「バネも使わず?そりゃすごい」
多分きっと、普通のお話しなのです。
テオさんと並んで歩きながら、ちょっとだけ見上げた横顔は微笑んでいて。
普通のお話しだけど、楽しんでくれているのかな?と思うと、
私も楽しいなって。
嬉しいなって。
不思議な気持ちでした。




