少女メリーとレプス商会2
「__宿屋の、メリーさん?」
「?はい。私はメリーです」
初めてお会いした行商人さんは、
ちょうど私と目線が同じくらいの身長でした。
・
・
・
・
「……で?」
で?初めてお会いした瞬間のお話しですよ。
「いやいや、メリー、会話はそれで終わらないだろう。挨拶がてらに頬にちゅうされたとか、握手と見せかけて腰を持たれたとかは無かったのか?」
その年に交わした直接の会話はそれで終わりですね。
ちゅうだなんてそんなっ、握手だなんてっ、いやですよお父さん。
まぁ目元以外は布で覆ってましたし、両手も塞がっていたので無理でしたけどね。
「イノシシ担いでたなそういえば。
しかし何年前だ?」
レプス商会の兄さん達が王都からの勧誘で、騎士団に転職された頃ですね。
それまで近距離のみだった若い人達を
遠方方面に慣れさせていると代表さんが挨拶周りに来て下さって。
お泊まりになられず、お食事のみでしたね。
「3.4年前か?あぁ、粘り負けてごっそり抜かれたって代表が悔しがってたっけな。前任者達に負けず劣らずの大食い揃いだから大丈夫だろうって話をしたのを覚えてるぞ」
はい。熟成する間もなく丸一頭が皆さんのお腹に消えました。
なので、私もお父さんも、あの日は厨房から一歩も出れませんでしたよ。
「…山を越えて来た時の奴らはなぁ。保存食以外は自分で現地調達らしいから、兄貴たちがいなくなって肉に飢えるわなぁ」
__メリーがお兄ちゃんと呼んでいた世代は、ある時は他国の戦に巻き込まれ、またある時は海で遭難し、続いて山で遭難をしたとしても、食材と客を
見つけて帰るたくましい集団。
食材と客の他にも、"卵が落ちてた"と言い張りながら行商人の卵、身寄りの無い子どもを拾っては育てていたのは有名だ。
「…困った。これは困るな。いやしかし。うむぅ」
それでですね!
次にお会いしたのが翌年の春でして。
「泊まりの受け付けに来たのがそいつだと」
はい!予定よりも早い到着で、空き部屋があるか心配されてましたが、大丈夫ですよとお答えしました。
「カルロ、ダニエル。お昼寝中のところ悪いがな、お父さんを助けちゃくれんか」
「う~んムニャムニャ。若鶏の丸焼き皮パリパリ~」
「う~んムニャムニャ。リンゴのパイ、シナモン多めでムニャムニャ」
「わかったから。晩飯は鳥、パイはレイラに頼むから」
どうしたのですかお父さん。弟君たちのは寝言ですよ?
「お姉ちゃん、いつまでもその態勢じゃお父さんがしびれてしまうよ!
続きはお菓子を食べながらお話ししよう?」
あら起きた。
もうおやつの時間ですかね。
「お茶は僕が入れるよ。ダニエルはお菓子を持っておいで。父さんの部屋の
クローゼット右下にハチミツの瓶があるからね。スコーンにかけて食べよう」
「はぁい!」
あぶっ、お父さん、メリーの頭はアゴ置き場じゃないです。痛いです。
ところでカルロ君。スコーンはどこから?
「レイラさんから。薬の配達があるからって、うちの馬を借りにきてたよ」
うちで朝ごはんを作った後、畑へ行って、スコーン作って、馬で町へ?
「畑に寄る前に村長さんの様子を見に行ったらまだ寝込んでたらしくて。腹から笑ってきたってさ」
ジェームズさんの畑と村長宅は、村の反対側のはずですが。
同じ年頃の女の子達が「レイラとメリーにはついていけない」と言う理由の半分以上は彼女の足の速さに
ついて行けないからじゃないかしらん。
「違うよ姉さん。例えば山奥の森で、手の届かない高い枝に果実があったとして、レイラさんはまず木を蹴って落ちないか試し、姉さんは躊躇無く木に登るだろ?」
クフコの実のことですかねぇ。
「普通の村娘は山奥に行かないんだよ!そこが二人と皆の違いだよ!さぁ父さんは顔を洗って、着替えて来て。
僕はお茶の準備をするから、ダニエル!姉さんの部屋に寄って瓶棚を見て!クフコの実があるはずだ!」
カルロ君の勢いがちょっと怖いです。
クフコの実ぐらい、いくらでも差し出しますとも、えぇ。
「まったく、山奥どころか、山一つ超えてないか?ったく。姉さんはここに座って、これをじっくり読んで待つこと。いいね」
「クフコの実あったよ~!」
カルロ君の勢いも怖いですが、ダニエル君の探索能力も怖いです。
乾燥させたクフコの実を、ずらりと並べた瓶棚から一瞬で見つけてしまうだなんて。
私の弟君たちは有能ですね。うん。
そして、この紙束は何でしょう?
今朝エメリヒさんと解いていた宿題っぽいですが。ちらり。
一行目
【行商人 テオバルト・クラッセン】
二行目
【出身 ライサナ島 所属 レプス商会】
…うっきゃぁー!あっきゃぁ!
テオバルト!テオバルト!
皆さんが「テオ」と呼んでいたから
てっきりお名前はテオさんかと!
本名はテオバルトさんなのですねって
違う!顔笑っちゃうけどそうじゃなくて、
カルロ君、これは何ですか、何の資料なのですか!
…いやでも、これを知らずに「テオさん」って呼びかけちゃってたら、
愛称で呼んでしまっ、
違う!あーもう、うきゃぁ!
カルロ君!
お茶の葉を蒸らすために真剣な顔で砂時計を見ているところお邪魔しますよ!
何ですかこれは、カルロ君
「…姉さんが知りたがっていた、肩幅や腕の長さ等のセーターを編むのに必要な数値類は三枚目」
…お邪魔しましたよ!
行商人さんの個人名、発表。




