第09話 ナオ弱いんだから
初通話の翌日、次に選んだのは、敵を吸い込んで能力を使うアクションゲームの、ボスと連戦するモードだった。
配信を始めると、二人分の操作表示を見たユズがすぐ反応した。
《ユズ:今日は協力?》
「そう。今日はおれがシイコを助ける」
『開始前から逆なんだけど』
「やってみないと分からないだろ」
おれが剣を取ったあとも、シイコが何かを取る気配はない。
「おい、早く選べよ」
『私は素でやるのが好きなの』
「ボス連戦で縛るの?」
『ナオ連れてく方が縛りでしょ?』
シイコの主人公は、能力を取らないまま扉の前へ立つ。
「おい、そんなこと言うと助けねえぞ!」
《タク:フラグだな》
《ユズ:フラグだね》
《ゴッドF:慣れると素は強いんですよ》
仕方なく進めると最初のボスが現れる。
おれが能力で正面から攻撃する横で、シイコは跳んでくる攻撃をすべてかわしていた。
シイコは攻撃後に残った星を吸い込み、吐き返す。
おれより手数は少ないのに多くダメージを与えてるし、体力は一度も減っていない。
「素の方が強くない?」
『ナオが当たりすぎなだけ』
言われた直後、ボスが吐いた弾へ正面から突っ込んだおれの体力がまた大きく減る。
《タク:証明完了》
《ミヅキ:ざぁこ!》
「今のは攻撃してたから」
『ちゃんと前見ないからでしょ。やる気ある?』
「見てたしあるよ!」
ボスを倒すと、回復のある部屋へ戻る。
おれの体力は半分も残っていない。
「回復、今使うか?」
『ナオが取っていいよ』
「まだ次もあるぞ」
『だから。ナオ弱いんだから早く取って』
シイコのキャラクターは回復の横から離れ、次の扉の前で待っている。
拾うと、おれの体力だけが最大まで戻った。
『そこからでいい。近づかないで』
「おれだけ安全地帯に置くなよ」
『出てきたらまた当たるでしょ』
死にかけるおれを安全地帯に下げて、シイコが一人でボスを削っていく。
あっという間にボスを倒すと、また待機部屋に移動した。
《ミヅキ:シイコ、対戦の時より優しい》
『死なれたら困るから』
「言い方は全然優しくねえけどな」
確かに助けてはくれてるんだけど、もう協力じゃなく介助になってる気がしてくる。
《ユズ:ちゃんと協力になってる》
《タク:介護じゃね?》
「最初から協力してたけど?」
『今の一回だけね』
そんなやり取りを繰り返しながらなんとか最終ステージまでたどり着いた。
おれの残機は既に0になっていて、シイコが一人でプレイを進めている。
「なぁ、リセットしない?」
『なんで?』
《タク:主不在ww》
手持ち無沙汰になって、一人でコメントを拾って返していく。
《ミヅキ:引率配信》
《ユズ:幼稚園児ナオ》
「園児じゃねぇよ!」
《ミナト:そうだぞ、そもそも引率すらされてないし》
くっそぅ、何も言い返せない。
『大丈夫、エンディングは見せてあげるから』
《タク:もうシイコ様が主でよくね?》
「よくねぇよ!!」
反論している間も、シイコは攻撃を避けながら敵の体力を削っていく。
そして、ついにボスが倒れてエンディングが流れ始める。
《ミヅキ:シイコちゃんお疲れ様ー》
《[100pt]シイコ:ナオおつかれさま》
《タク:シイコ様のレトロゲーム部屋爆誕!》
「おい!お前なんで投げた!」
通話しながら、コメントで投げ銭しているシイコに叫ぶ。
《[100pt]シイコ:引退記念?》
《[300pt]ゴッドF:練習あるのみです》
「ゴッドさんも悪ノリしないで!」
この二人の悪ノリのせいで、当初のおこづかい稼ぎという目的は達成できてはいるものの、未だにギフトを投げられることには慣れない。
「投げられんの慣れないな。いっそ投げ銭機能切ろうかな」
《[500pt]シイコ:それは困る》
《[500pt]ゴッドF:気にせず受け取るといいですよ》
言ってる側から、ギフトが飛んでくる。
ちょっと、本気で考えておこう。
エンディングが終わると同時に、配信を閉じる。
そうすると、通話で繋がったシイコと二人だけになった。
「やっぱり、シイコはうまいよな」
『お?今日はすぐ切らないで雑談する?寝るまでなら付き合うよ』
「まぁ、寝るまでじゃなくても少し話そうぜ」
シイコとなら寝るまでどころか朝まで話してられそうで怖いな。
三十分だけと決めて、会話にもどる。
『で?隣の子とは最近どう?』
「うーん、少しは話せるようになったけど、あんまり続かないな」
白石との会話を思い出して見ても、ようやく三往復くらいは繋がるようになったといったところだ。
まだ、きちんと会話できてるとは言い難い。
『ふーん、話したいの?』
「ゲーム好きそうだしな」
『それだけ?』
「あと、お前と違って声が可愛い」
か細い声で一言だけ返してくれる声を思い出しながら、今聞こえるシイコの声と比較する。
シイコの声も可愛いけど種類が違った。
『ひどくない?』
「そう思うならその煽り癖もう少しどうにかしない?」
『それは断る!ナオもこっちの方が好きでしょ?』
「まぁ、楽しいのだけは認める」
いきなりおしとやかになったシイコを想像して悪寒が走った。
それなら、こんな感じでバカやってるほうが楽しい。
『言質取ったからね!』
「なんの言質だよ!」
そんな会話を続けてるうちに気がつくと一時間がすぎていた。
やっぱ、楽しいんだよな。
「それじゃ、おやすみ」
『うん、ゆっくり寝てね』




