第06話 三万円はダメ
配信サイトでランキングのイベントが始まり、配信画面の端に小さな順位表が表示されていた。
参加者の名前が縦に並び、おれの配信は一番下に近い。
普段は十人前後が集まるだけの枠だし、順位を競うつもりも特になかった。
《[100pt]タク:最下位脱出。明日ジュース奢れよ》
「手数料半分取られるから!」
《[200pt]ユズ:私もジュースで》
「ランキングなんて気にしてないって!」
二つのギフトで順位が一段だけ上がり、最下位からは脱出していた。
冗談で投げられる程度なら、いつものコメントの延長で笑っていられた。
《シイコ:目標は何位?》
「参加者一覧の最後じゃなければいい」
《シイコ:ちょっと目標低すぎない?》
「うちは勝ちに行く規模じゃねえよ」
順位表の最下段で、おれの名前が小さく点滅している。
《シイコ:じゃあ、私が少し上げてあげる!》
《[10000pt]シイコ:応援》
「おい!ちょっと待て!」
画面の中では、派手なエフェクトとともに城が生え、空に虹がかかっている。
そのエフェクトが終わると次は花火が上がり、続けて大量の猫が画面内を駆け回る。
その後も画面の端へギフト表示が重なり続ける。
「待てって!」
話を聞かないシイコに思わずキレ気味に叫ぶ。
敵の攻撃に当たっても、もうコントローラーへ力が入らない。画面内で主人公が倒れる横から、新しい通知がせり上がってくる。
「お前いくら投げた?」
《シイコ:いちいち数えてないよ。応援してるだけ》
「履歴見ろ」
《ミナト:シイコだけ桁が違う》
ゲーム画面へ重なったギフトの履歴を開くと、同じ名前が縦に並んだ。
見たことの無い額のギフトの履歴が並んでいる。
合計欄の桁はもう笑える範囲を越えている。
視聴者のコメントも、さっきまでの順位いじりから制止へ変わっていた。
「分かってる。だから止めてんだよ」
《シイコ:ゲーム止まってるよ?せっかく順位上がったのに》
「今はゲームよりそっちだ」
シイコの名前の横には、三万という数字が並んでいる。
月間順位は大きく上がって一桁に届いている。
それでも嬉しいより先に、どこから出した金なのかが頭に浮かぶ。
同年代だと知ったばかりの相手だ。軽く受け取っていい額じゃない。
「お前、高校生だろ!三万はダメだって!」
《[5000pt]シイコ:応援が足りなかった?》
「違う。多すぎるって言ってんの!」
制止する声を無視するかのようにさらに金額が重なっていく。
まじで話聞かねぇ!
どうすりゃいいんだよ。
おれはゲームを止め、コントローラーを机へ置いた。順位表より、増え続ける数字の方がよほど気になる。
ゲーム音が消えた部屋へ、配信の通知音だけが残る。マイクへ近づき、画面の向こうにいるシイコへ届くよう、一語ずつ区切って話した。
「シイコ、もう一円も投げるな。家の金を勝手に使ってるとかじゃないよな?」
《シイコ:ちゃんと自分のお金だよ。勝手に使ってない。》
「それでも高校生の三万は大金だろ」
《シイコ:普段使わないし。まだお小遣いの範疇だよ?》
小遣いいくら貰ってんだよ……
《シイコ:ごめん、ナオが喜ぶと思った》
短い一文が履歴の下へ残り、次のコメントはすぐには流れてこない。
閉じたゲーム画面の代わりに、シイコのコメントだけがモニターの中央に残っている。
「応援は嬉しい。でも、毎晩来てコメントしてくれるだけで十分だから」
《シイコ:本当に?》
「本当。おれ、換金したら半分くらいしかもらえないし」
《シイコ:それはもったいない。》
ヘッドホンへ自分の短い笑いが返り、止めていた息が抜けた。
「そこに今気づくなよ!」
「残りは自分のために使え。分かった?」
《シイコ:分かった。もうこんな額は投げない》
「素直だと逆に怖いな」
安心したのも一瞬、見慣れたギフト音がまた鳴る。
《[100pt]シイコ:返事》
「投げるなっつっただろ!」
《シイコ:今のは返事!これで最後!》
「次またあんな額を投げたら本気で怒るからな」
ギフトの通知は鳴らず、代わりに短いコメントだけが流れた。
《シイコ:百ポイントまで怒るの横暴じゃない?》
「お前を止めるためだよ。そもそも何でそんなに投げたんだ?」
コメント欄ではタクたちも黙り、ゲームの停止画面だけが音もなく動いている。問いを流してしまわないよう、おれも次の言葉を挟まずに待った。
《シイコ:ナオの配信、もっと見つかってほしいから》
「……ありがとな」
《シイコ:急に素直になるのやめて。ちょっと怖い》
「お前が言わせたんだろ!」
順位表を閉じ、その夜はゲームへ戻らずコメントだけで配信を続けた。シイコも最後まで残ったが、ギフト音はもう鳴らなかった。
《シイコ:次は、ほしい物リスト公開して。そっちなら手数料かからない》
「そういう意味じゃねえよ!」
まじで買いそうでこいつ怖えよ……
《[10000pt]ゴッドF:では、大人が投げましょうか》
「あんたファザーだろ!自分の子供に使え!」
なんで、投げてもらって怒んなきゃいけないんだよ……




