↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

第05話 氷姫のおすすめ

 昼休み、弁当を食べ終えてスマートフォンを触っていると、隣から声がした。


「相沢くん」

「ん?」


 白石が小さな紙を両手で持ち、おれへ差し出している。

 受け取ろうと手を伸ばすと、白石は一瞬だけ指を引き、それからもう一度腕を差し出してくる。


「このゲーム、おすすめ」


 何度か折り直したらしく、中央に薄い筋が残る紙には、古いゲームの名前が書かれていた。


「白石のおすすめ?」

「うん」

「配信でやれってこと?」


 白石の指先に力が入る。


「おすすめしただけ」


 それだけ言うと、白石は逃げるように本を開いた。


*


 夜、白石に薦められたゲームを始めた。


 車に変形するロボットを操って進む、昔のアクションゲームらしい。かなり理不尽な作りで知られているようで、タイトル画面を映しただけでコメント欄がざわついた。


 ロボットと車を切り替えながら、横へスクロールする道を進んでいく。操作説明を確認している間にも、開始を急かすコメントが増えていった。


《ユズ:初めて見る》

「知り合いのおすすめ。たぶん面白いやつ」

《ゴッドF:いい趣味の知り合いですね》

「本人は普通に薦めてきたから大丈夫と信じたい」


 開始ボタンを押す。ロボットが画面に現れた。

 そして、その直後、背景に紛れるほど小さな敵弾が正面から飛んできて、機体が爆発した。


「待て待て待て!まだ動かしてない!」


《ミナト:一秒はあった》

「一秒で何しろってんだよ!」

《シイコ:避ける!》


 スタート地点へ戻ったロボットの正面から、また小さな弾が来る。


《シイコ:ざこ》

「これ薦めたやつ、おれに恨みあるだろ!」

《ユズ:おすすめした人見てる?》

「見てたら今すぐ説明してほしい」


 今度は開始と同時に弾を飛び越え、ようやく画面を右へ進めた。


《シイコ:さあ?ナオ、何か恨まれることしたんじゃない?w》

「薦めた本人はこれクリアしたのかな」

《シイコ:本人に聞いてみれば?感想もちゃんと言ってあげなよ》


 何度もやり直し、どうにか第一面を越えたところで切り上げた。



*


 翌朝、白石は教科書を開いていた。


「白石」

「何?」

「なんだよ、あのクソゲー!」


 白石の目が少し見開かれ、口元がほどける。


「クソゲーはレトロゲーの華だよ」


 小さいけれど、確かに笑っていた。

 前の席の匠と、その横へ来ていた水瀬が同時に振り返ったことに気づくと、口元を戻して教科書へ目を落とした。


「琴ちゃん、今笑った?」

「笑ってない」

「笑ってたよね、ナオ?」


 水瀬に振られ、もう一度白石の口元を確かめる。


「笑ってたな」

「二人ともうるさい」


 いつもと違う白石の返事に、水瀬と二人でまた笑っていた。


*


 その夜は、白石に薦められたゲームをもう一度触れ、切り上げたあとも少しだけ雑談を続けていた。

 オープニング画面の音楽が繰り返される中、残っていた視聴者が一人抜ける。


 コントローラーから手を離し、椅子へ深く座り直す。

 ゲームの動きが止まると、コメント欄の動きはゆっくりになっていく。


《ミナト:先落ちる。おやすみ》

「おやすみ。次は最後まで見ろよ」

《ミナト:死ぬ回数減ったら》

「じゃあ永遠に無理じゃねえか」


 コメントの流れが止まったところで、シイコが学校の話を振ってきた。


《シイコ:最近、隣の席の子どう?》

「どうって?」

《シイコ:仲良くなった?》

「ゲームを薦められた。あと、おれにだけ笑ってくれた」


 終了画面の主人公は、おれの返事とは関係なく同じ動きを繰り返している。


《シイコ:へえ。ナオにだけ笑ったんだ?ずいぶん嬉しそうだね》

「惚れられてるのかな?」


 冗談で言うと、シイコのコメントが途切れる。


 視聴者数は一のまま変わっていないのに、自分の声だけがヘッドホンへ返ってくる。


「自分で言ってて恥ずかしくなってきた。今のなし」

《シイコ:可能性はあるんじゃない?》

「ある?」

《シイコ:本人じゃないんだから知らないけどw》


 期待させた直後に突き放すコメントが投げられて、椅子の背を鳴らして座り直す。


「どっちだよ」

《シイコ:でも、私と話してた方が楽しくない?》

「なんで張り合ってんだよ」

《シイコ:煽られてるの好きでしょ?》


 さっきまで止まっていたコメントが、今度は返事を待たずに続きはじめる。


「好きじゃねえよ!」

《シイコ:毎晩嬉しそうだけど》

「お前が楽しそうだからつられてるだけだ」

《シイコ:じゃあ、私と話すのは楽しいんだ》


 うまく言質を取られた気がする。

 シイコはいつも最後まで残って話し相手になってくれる。

 それを楽しみにしている自分がいるのも確かだった。


「まあ、それはそうだな」

《シイコ:私もリアルじゃ友達いないから、ナオと話してるの楽しいよ》

「シイコは煽るのやめないと、友達できなそうだしな」


 またシイコのコメントが止まる。

 配信を閉じようとした指を止めると、短い問いが流れてきた。


《シイコ:流石に、これが素な訳じゃないよ?楽しくてテンション上がってるだけ》

「ふーん、じゃあ普段なら話しやすいのかもな」


 日常からこのテンションで煽りまくってる訳じゃないなら安心だ。

 そんな奴がクラスにいたら、おれなら近づかない。


《シイコ:会いたい?》

「急だな」

《シイコ:リアルの私》


 画面の向こうにいる女子高校生の顔は浮かばない。それでも、おれが失敗するたび笑っている姿なら簡単に想像できた。


「会って話したら楽しそうではある」

《シイコ:へえ、私と会ったら楽しそうなんだ?》

「なんか嬉しそうじゃない?」

《シイコ:気のせい。ナオのくせに生意気だなって思っただけ》


 なにか、いけない会話をしている気分になって配信を終わらせに入る。


「じゃあ、この辺で今日は終わるぞ」

《シイコ:ナオ、おやすみ》

「あぁ、おやすみ」


 配信終了へカーソルを合わせると、その直前にもう一行が届く。


《シイコ:会ったら、もっと楽しいかもよ?》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。