第04話 転校生はレトロゲーがお好き
週明けの朝、担任が一人の少女を連れてきた。
小柄な体と、制服越しでも分かるスタイルの良さに目が奪われる。
その転校生は、明るい茶髪のショートヘアを揺らしながら自己紹介を始める。
「水瀬美月です。レトロゲームが好きなので、やってる人いたら話したいです。よろしく!」
自己紹介が終わるより先に、前の席の匠がおれを指さした。
「先生、ここにいます」
「授業じゃねえんだぞ」
笑いが起きる中、水瀬は案内された席へ向かう途中でおれの方に視線を向け、そのまま席へと向かっていった。
*
一時間目の授業が終わると、話しかけたそうなクラスメイトを尻目に、水瀬がおれの席に寄ってくる。
「レトロゲーム好きなの?」
「まあ。最近、配信も始めた」
「え、見たい!名前は?」
「『ナオのレトロゲーム部屋』。あと近い」
机の上に乗せないでくれ、目のやり場に困る……
肝心の美月は気にしたそぶりもなく話を続けている。
「これ?」
「それ。夜九時から」
「ナオ何見てんの?」
柚葉が近づいてきて、おれの視線に気づくと頭を叩いてくる。
「しゃーないだろ!」
「まぁ、これはね……」
柚葉も机の上に乗せられたものを見ながら同意する。
「ねぇ、水瀬さんのそれ何カップ?」
「おまえ!おれのいるとこでそんなこと聞くなよ!」
水瀬は柚葉に耳打ちして知らせてるけど、指折り数えた手がグーの形で止まっているのが目に留まる。
「凶器ね……」
「別に減るもんじゃないし、アピールしないと!」
水瀬は楽しそうに柚葉と連絡先を交換し、自分の席へ戻っていく。隣では白石が閉じた本の表紙へ指を置いたまま、その背中を追っていた。
*
昼休み、水瀬は弁当を持っておれの机まで来た。
「今日、何やるの?」
「まだ決めてない。古いアクションかな」
「最初から見ても分かるやつ?」
「おれも初見だから、一緒に分からなくなれるぞ」
水瀬はスマートフォンを握ったまま、眉を上げた。
「それ配信者として大丈夫?」
水瀬は笑いながら空いている机を引き寄せ、隣の白石へ顔を向ける。
「琴ちゃんだよね?朝、挨拶できなかったから。よろしく」
いきなり下の名前で呼ばれ、白石が本から顔を上げた。
「よろしく」
白石はそれだけ返して本へ戻る。水瀬も無理に続けず、「またね」と手を振った。
*
夜の配信を始めると、見慣れない名前がすぐコメント欄へ飛び込んできた。
《ミヅキ:きた!》
「お、分かりやすいな。いらっしゃい」
《タク:転校初日から常連候補》
視聴者一覧へ、ミヅキの名前が加わる。
《ユズ:ミヅキちゃんよろしく》
《シイコ:ミヅキちゃん、いらっしゃい!一緒にナオを見守ろうね》
挨拶の直後、おれの操作する主人公が敵弾へ正面から突っ込んだ。
《ミヅキ:死んだ!》
「見れば分かることを元気に言うな!」
《シイコ:初見さんの前でも安定してざこw》
「お前は先輩ぶるな!」
《[300pt]シイコ:最古参だけど?》
コメント欄へ笑いが流れる。
転校初日からだれにでも近づける水瀬は、配信でもそのコミュ力を遺憾なく発揮していた。
頼むから、シイコの真似するのやめてくんね?
*
翌朝、水瀬は自分の席へ行く前に白石の机へ寄った。
「琴ちゃん、おはよー。今日、購買行く?」
「行かない」
「じゃあ何食べるの?」
「お弁当」
水瀬は白石の机へ片手をついたまま、さらに問いを重ねる。
「自分で作った?」
「違う」
そこまで短く切られても、水瀬は「そっか」と笑って次の話題へ移る。
「琴ちゃんって、ゲームやる?」
「別に」
「あ、やるんだ」
「なんで?」
水瀬は白石の短い返事を、否定とは受け取らなかったらしい。
「やらないって言わなかったから」
黙り込む白石を気にする様子もなく、水瀬は笑ったまま次の話題へ移る。
「昨日、ナオくんの配信見たんだけど、開始してすぐ死んでた」
「下手」
返事が早すぎて、椅子を引く手が止まった。
「なんで即答なんだよ」
「相沢くんだから」
「それ、どういう評価だよ!」
水瀬は声を上げて笑い、白石もほんの少し口元を緩めた。
それから数日、水瀬は短く返されても毎朝白石へ話しかけた。
白石も「知らない」「行かない」と答えながら、声をかけられる前に本へ隠れることはなくなった。
「琴ちゃん、連絡先も交換しよ」
「なんで?」
「ゲームの話したいから」
白石は短く息を吐いたものの、机の中からスマートフォンを出した。




