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第03話 気になる子とかいないの?

配信を始めて一週間が過ぎた。


 朝の教室で椅子を引くと、白石は本を読む手を止めるようになった。

 自然と挨拶を交わせるようにはなったものの、まだ挨拶より先へ進めたことはない。


「おはよう」

「おはよう」


 それだけで白石は本へ戻る。

 会話と呼ぶには短い。

 それでも、白石が挨拶を返してくれるだけで、前より少しだけ声をかけやすくなった。


*


「ちょっ!これムズい!あたらねぇ!」


 その夜は豚が弓矢を使って狼を撃ち落とすゲームをやっていた。

 矢は徐々に落ちていき、そのせいでオオカミに上手く当てることができない。


《ユズ:ざぁこ》

《タク:ざぁこ》

《ミナト:ざぁこ》

《シイコ:学習能力の死んだざぁこ》


 画面にゲームオーバーの文字が映し出されると、シイコが増殖したかのように、煽りが画面に現れる。


「おい!増えんな!それとシイコは具体的にすんな!」


 そんなやり取りを繰り返しながら、一人ずつ視聴者が抜けていった。


《ミナト:明日早いから先落ちる》

「おう、おやすみ。今日もありがとな」


 既に視聴者数は一人。

 その一人は今も元気にコメントで煽っていた。


《シイコ:今日もよく死んだねw最後のところ、何回やり直した?》

「最後まで見た感想がそれかよ」

《シイコ:もう少しやって、褒めるところ探す?》

「それしたら、終われなくなるだろ」


 配信画面にはオープニング画面が映されていて、既にゲームをやる気はなくなっていた。


《シイコ:私はまだ付き合えるよ》

「もう日付変わってんだぞ……」


 時計の短針はすでに頂点を過ぎ、長針が真下に届きそうな時間だった。


《シイコ:じゃあ今日は諦めるから、次までに褒めるところ作っておいて》


 そんな時間でも、シイコと話してるのが楽しくて、ゲームの話が途切れても、配信を閉じるには少し惜しくなっていた。


《シイコ:そういえば、ナオくんって気になる子とかいないの?》


 いきなり恋愛へ飛んだ。

 学校の顔ぶれを思い返すと、真っ先に浮かんだのは毎朝隣で本を開いている横顔だった。

 とりあえず、白石だからC子でいいか。


「隣の席のC子って子が、ちょっと可愛くてさ」

《シイコ:ん?告白?》


 返ってきた一行を読み、今口にした名前を改めて口に載せる。


「しーこ……あ。いや、お前じゃなくて!隣のC子な!」

《シイコ:紛らわしい!一瞬私のことかと思ったじゃん!》

「いやいや、んな訳ねーだろ!顔も知らないし。隣の子って呼ぶことにするわ」

《シイコ:最初からそうしてよ》


 自分で決めた仮名は、十秒も使わず廃止された。


《シイコ:その隣の子、どんな子?》

「めっちゃ可愛いんだけど、無口で何考えてるか分かんないんだよな。でも、最近は挨拶も返してくれる」

《シイコ:挨拶だけでそんなに嬉しいんだ?ナオちょろくない?》

「それだけって言うなよ。まじで話しかけづらいんだからな!」


 いつもなら矢継ぎ早に飛んでくるコメントが、質問するたび少しずつ遅くなる。


《シイコ:どこが可愛いの?》

「顔とか、雰囲気とかかな」

《シイコ:結局顔なんだ。ほかにも探しなよ》

「まだそんなに話してないんだから仕方ないだろ」


 返事が来ないまま、オープニングの音楽が一周する。


《シイコ:私とは毎晩話してるのにね》

「なんで隣の子と張り合ってんだよ」

《シイコ:張り合ってないけど?ナオが嬉しそうだから聞いただけ》


 質問したのはシイコなのに、返事をするほど言葉が増えていく。何が正解なんだ、これ。


「この話、リア友いる時には流すなよ。本人にバレたら死ぬ」

《シイコ:分かった。黙っててあげる》

「頼む。じゃ、おやすみ」

《シイコ:おやすみ、ナオ。明日はもっと話しかけてあげなよ》


 配信を閉じると、部屋が急に静かになったように感じる。

 シイコの最後の言葉が頭をよぎる。


 ——もっと話しかけてあげなよ


 白石に話しかける?

 それは、これまでやったゲームのどれよりも難しいことに思えた。


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