↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/8

第02話 シイコさんは何歳ですか

 翌朝、白石はいつもどおり隣の席で本を読んでいた。

 通路を歩いてきた女子が白石の机の前で立ち止まる。


「白石さん、今日のお昼、一緒に学食いかない?」


 白石は本から顔を上げ、相手を見る。


「無理」

「あ、うん。ごめん」


 女子が離れてからも、白石は一度だけその背中へ顔を向ける。

 やがて本へ戻るが、指は同じ行の上で止まっている。


 昨夜、画面越しの知らない相手とは散々しゃべったのに、隣の白石へ向ける一言の方が妙に出しづらい。鞄を机の横へ掛けてから、こちらを見ない横顔へ声をかけた。


「おはよう」


 声をかけると、白石の肩がわずかに跳ねる。

 ゆっくり顔を上げ、おれの方を向いた。


「おはよう」


 返事をした白石は、すぐ本へ視線を戻した。


*


 配信を始めると、昨夜も見た名前がコメント欄に並んだ。

 その中にシイコの文字を見つけて、嫌になる。


《シイコ:今日は何回落ちる予定?》

「もう死なねえよ。おれは成長する配信者だからな」

《タク:昨日は動く足場で何機使った?》

「お前まで覚えてなくていいんだよ」


 今夜選んだのは、暴れ出したロボットたちを倒していく、有名な古いアクションゲームだ。

 腕から弾を撃つ主人公が、不安定な足場を通りながらボスを目指す。


 ステージで何度も落ちて、バカにされながらも、なんとかボスにたどり着く。

 残機はもうない。

 ここで死んだらまた一からやり直しだ。


《シイコ:一応教えとくけど、弾に当たって》

「いや、ダメージ食らうだろ!」


 ボスの弾を避けながら、少しずつダメージを与えていく。


 そして、弾をかわしたところで、敵の本体とぶつかり、体力表示がまとめて減った。


「ちょっ、体当たりで三割くらい持ってかれたぞ!」


《シイコ:だから、弾に当たって無敵中にすり抜けて!》

「いや、わざと食らったらダメージ受けるだろ!」

《ユズ:シイコ先生の言うこと聞きなさい!》


 次の弾を後ろへ避けると、その分だけ敵本体との間が詰まる。

 逃げ場をなくし、また体力を削られた。


「食らう前提の攻略かよ」

《ゴッドF:無敵時間の有効利用も戦略ですよ》


 敵が次の弾を撃ち、狭い通路を進んでくる。


「じゃあ、シイコもそうやって抜けてんの?」

《シイコ:私は普通に全部避けるけどw》


 主人公の体力は、あと一撃分しか残っていない。


「じゃあおれにもノーダメの方教えろよ!」

《シイコ:ナオには百年早い》

「決めつけるな!」


 そんなやり取りの中で、呆気なくゲームオーバーの文字が表示された。


《シイコ:ざぁこ!》


*


 シイコは三日目も、四日目も来た。


 おれが足場へ飛び乗り損ねれば《シイコ:また落ちるの?w》、ボスに負けそうになると《シイコ:その武器じゃないけど?》そんな煽りを投げつけてきた。

 そんなシイコに便乗してミナトがゲームオーバーの回数を数え始めた。

 そして、本当に詰まって聞いた時だけシイコがちゃんと答えをくれる。


 画面が切り替わるより先にシイコの指摘が届き、おれが言い返すとタクやユズが横から乗ってくる。視聴者数は十人前後のままでも、コメント欄が止まる時間は初日より短くなっていた。


 ある夜、配信を始めてもシイコの名前がない。


「今日は口の悪いやつがいないから平和だな」

《ユズ:だれのこと?》

「いつも一番におれをざこって言うやつ」

《シイコ:遅れた!私の事話してた?》


 見慣れた名前が、コメント欄の下へ滑り込む。


「口が悪いって言われて、自分のことだって分かるのすごいな」


 止まっていた指で、主人公を先へ進める。


《タク:おれも分かるぞ?》

「お前には、リアルでも言ってるから話がちげーだろ」

《シイコ:ざこなんだから仕方なくない??》

「言い返せねぇ!」


 ゲームの主人公は、返事を待つ間も同じ場所で足踏みを続けている。


《シイコ:長湯しすぎた。ナオと違ってちゃんと入るから》

「おれもちゃんと入るわ!」

《シイコ:想像した?キモっ!》

「してねぇよ!」


 休憩中に飲み物を取りに行くと、コメント欄で飲み物の話になっていた。グラスを机へ置き、流れた文字を少しさかのぼる。


 ゲーム中には攻略と失敗の話ばかりだった名前が、それぞれ好きな飲み物を書いている。


「シイコさん何飲んでるんですか?」

《シイコ:紅茶飲んでる》

「あー、酒とかじゃないんだ」

《シイコ:え?私、いくつだと思ってるの?》


 間を置いて、短いコメントが流れる。


《シイコ:ちょっと正直に答えてみて》

「え……」

《ユズ:それ答えて大丈夫?》


 さっきまで飲み物の話で流れていたコメント欄が、ぴたりと止まる。


《シイコ:誤魔化さないでね》

「怒らない?」

《シイコ:内容によるけど、先に聞いてあげる》


 その答えでは何の保証にもならない。


「古いゲームめちゃくちゃ知ってるし……三十代?」

《ミナト:攻めたな》

「レトロゲー詳しいお姉さんかなって」

《シイコ:具体的には?》


 逃げ道を求めて画面の前で指を三本、次に四本立てる。

 自分でもろくな予想ではないと分かっていた。


「三十五くらい?」

《[300pt]シイコ:最悪!》

「金払って悪口言うなよ!」

《シイコ:高校生なんだけど!》


 赤いギフト表示の下にその言葉が続いた。


「嘘だろ!?」

《シイコ:本当!なんでそこまで驚くの?》


 同じ教室にいてもおかしくない年齢だ。

 止まっていたコメント欄が一気に流れる。


《タク:ナオ終了》

《ユズ:同年代だった》


「お前ら、知ってたのか?」

《タク:今知った》


 味方を探して視聴者一覧まで開いたが、助けてくれそうな人はいなかった。


「知らなかったんだから仕方ないだろ。だったら最初に言ってくれよ」

《シイコ:聞かれてないし、ゲームするのに年齢いらないでしょ》

「シイコさんとか呼んで損した」

《シイコ:年上かもしれないんだから敬意を払いなよ》


 口調だけは、年齢が分かっても相変わらず偉そうだ。


「そっちが年下かもしれないだろ」

《シイコ:かもしれないね。でも、ゲームでは私が上だから敬えば?》


 それを言われると弱い。

 この話を続けちゃダメだな。


「学校でも、そんなに人をざこって煽ってんの?」

《シイコ:ナオほど弱い人、学校でも見たことないからw》

「学校では猫かぶってたりしてな」

《シイコ:それはナオには教えなーい》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。