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第11話 また明日

 その夜、美月も含めた三人で全国を巡る長期すごろくを始めた。


《タク:ハーレムプレイとか羨ましい》

《ユズ:ナオのくせに生意気》

「いや、たぶんおれが被害者になりそうなんだけど?」


 年数設定で美月が五年を選びかけ、シイコが止める。


『五年じゃ短い。二十年にしようよ!』

「お前、今日で終わらせる気ないだろ」

『長く遊ぶゲームなんだから、長くやらないともったいないでしょ』


 美月もすぐに同意した。


『私も二十年がいい!』


 三本の列車が同じ駅から走り出す。

 最初の目的地へ着いたのはおれで、遠くにいたシイコの列車へ貧乏神が取りついた。


『ちょっと!これナオが押しつけたんだからね!』

「勝負だから仕方ない」

『協力ゲームでは助けてあげたのに!もう絶対助けない!』


 美月は笑いながら、シイコから一番遠い進路を選ぶ。

 十分後、貧乏神が凶悪な姿へ変わると、シイコは移動カードを使っておれの列車へぴたりと重なった。


「待て。来るな!」

『遅い!返す!』


 巨大な貧乏神がおれの列車へ移り、たくさんのサイコロを振って資産をまとめて持っていく。

 さらにギフト音まで重なった。


《[100pt]シイコ:被害者支援》

「加害者はお前だろ!」

『先に押しつけた加害者はナオでしょ。ちゃんと反省して』

《タク:ナオが先で間違いない》


 結局、三時間遊んでも数年しか進まず、二十年より先に日付の変更が迫ってきた。


 配信を切って、またシイコとの雑談が始まる。

 そこに、今日は美月も加わっている。


『飲み物取ってくるねー』


 美月の足音が通話から遠ざかる。おれも手を止め、保存画面のまま机のコップへ手を伸ばした。


「シイコは眠くない?」

『まだ平気。ナオこそ明日起きられるの?』

「起きるよ。朝は弱いけど」

『説得力ない。寝坊しそう』


 目覚ましを三個置いてなんとか起きてるのが現状だ。

 だからといって、今通話を止めてすぐ眠れるわけでもないんだよな。


『電話で起こしてあげよっか?』

「電話のコールで起きれる気しないんだよな」

『イヤホン付けたまま通話繋いで寝る?』

「シイコの寝言とか聞こえそうだな」


 魅力的な話ではあるけど、流石に気まずい。

 朝、耳元でシイコに起こされるのを想像すると、恥ずかしさが込み上げてくる。


「ちなみに、どんな言葉で起こすつもりだ?」

『そうねぇ……』


 しばらく悩んだあと、ヘッドホンの先からシイコの声が流れてくる。


『朝も起きれないの?ほんっとざこ!悔しかったらさっさと起きて支度しなさい。それともざこって言われたくて寝たフリ?ざこすぎて笑える!いいからさっさと起きなさい!』


 ひっでえ、目覚ましボイスだった。


「まぁ、目は覚めそうだな。主に殺意で」

『ナオの好みの女になりたくて頑張った。アハハハハッ!』

『私もやる!』


 いつの間にか戻ってきた、美月が悪ノリに参加しようとする。


「美月いつから?」

『電話で起こしてあげよっか辺り、面白いから聞いてた』


 ほぼ、全部じゃねぇかよ!


『シイコちゃん、ナオのこと好きすぎでしょ!』

『からかって遊ぶおもちゃとしてなら大好き!』

「おもちゃにすんな!」

『はぁ、尊い』


 美月がよく分からないことを言い出したけど無視した方がいい気がする。


 翌日も、その翌日も同じデータを開いた。

 前夜に奪われたカードの話が、配信開始前から続く。

 だれかが席を外しても、通話はつながったままだ。


 その夜、美月が先に通話を抜けたあとも、シイコは残った。

 ゲームは保存を終え、タイトル画面の音楽だけが流れている。


『明日、授業あるの嫌だな』

「おれも。昼まで寝たい」

『学校サボったら怒るよ?』

「その前に親に機材取り上げられそ」


 シイコは声を上げて笑う。

 ゲームで勝っている時とも、おれが失敗した時とも違う、ただ楽しいだけの笑い声だった。


 画面の向こうでは、どんな顔で笑っているんだろう。

 実際に会って話しても、こんなふうに時間を忘れるんだろうか。


『なに?会ってみたいの?』

「やべ、声出てた?」

『うん、そんなこと考えてたんだ?』


 声が漏れてたらしく、おれの言葉がシイコに届いてしまったらしい。


「いや、会ってゲームしたら楽しそうだなって」

『えっち!』

「どういう飛躍だよ!」

『美月』


 配信に乗った美月とのゲームを思い出して、納得する。

 それにしても、美月以外であんなことにはならないだろ。


「あれは、美月が無防備すぎただけだ」

『ふーん、美月なら平然と抱きついたりしそうだけど、私にもして欲しいの?』


 美月に抱きつかれた時のことを思い出す。

 そして、その後の白石に抱きつかれたことまで、記憶が蘇る。


『何妄想してんの?ほんとこれだから男は』

「お前が言い出したんだろうが!」

『私に抱きつかれたら嬉しい?』


 シイコの顔も何も分からないのに、頭の中には隣にシイコがいて、ふとした時に抱きついてくる光景が浮かんでくる。


『抱きついて、耳元でざぁこって言ってあげんよ』

「からかうのもいい加減にしろよ!」

『あはは、嬉しいくせに強がってんの。まぁいいや、それじゃまた明日』

「そうだな、また明日」


 通話が切れても、明日はまたシイコと遊べる。

 授業しかなかった一日が、少し楽しみになった。



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