第04話 その男、天敵あり
「チャキーンッ! 我が太刀に断てぬものなし!」
「コカコカッ!」
ニワトリなのか、ヘビなのか。
どっちかにしろ、と言いたくなるコカトリスへ、俺は突撃した。
「喰らいやがれ!
超技! 竜帝咆哮・十二連断・対消滅剣・極上おおおおおっ!」
「コ、コカアアアアアッ!」
コカトリスは死んだ。
以上。
この程度の雑魚は、Sランク冒険者様の敵ではない。
「……蹴りだよね?」
「ああ、蹴ってたな」
「そもそも、持っているのは剣じゃなくて刀だろ」
しかし、冒険者ギルドは、俺のソロ活動を許さなかった。
年齢、十六歳以上。
身長、百四十センチ以上。
冒険者になるための最低条件である。
年齢は問題ない。
身長は問題だった。
「うるせーなー……。
銅箱が出たんだから、さっさと開けろ。雑魚の仕事だぞ」
「へいへい、姫様」
その結果、おまけが付いた。
俺が女になったあの日。
俺を最初に発見した三人組だ。
ダンジョンへ一緒に初めて潜る前、名前を紹介されたが、忘れた。
雑魚な上、男の名前なんて覚える価値がない。
「姫じゃねーつってんだろ!」
「ぶべらっ!」
「……酷え」
不満は、まだある。
パーティを組んでいる以上、報酬が均等分配されることだ。
なにせ、こいつらは弱っちい。
必然的に俺ばかり働いている。
今だって、コカトリスの石化ブレスから庇ってやったのは、俺だぞ。
もっと俺を労って褒め称えろよ。
報酬は俺が九割、こいつらが一割。
百歩譲っても、それが妥当だろうが。
「あれ、どこへ?」
「小便だ!」
「黙ってれば、可愛いのに……。」
「神崎さん、本当に神崎さんだな」
今度こそ、ギルド長に直談判してやる。
あのおっさん、絶対に逃げている。
俺が帰ると、いつも居ないし。
******
「わっはっはっ! 金箱から、若返り薬が出るとはな!」
俺は高々と薬瓶を掲げる。
まさか、人生最大級の当たりを引くとは思わなかった。
ようやく、運命が俺に味方し始めたらしい。
まあ、女になるなんてハードラックとダンスしちまったけどな。
「俺……。金箱なんて初めてみたよ」
「若返り薬って、億を余裕で超えるんだろ?」
「……憧れのマジックアイテムが買えるぜ」
三人組が、薬瓶を見つめながら目を輝かせている。
気持ちは分かる。
Sランク冒険者様の俺ですら、金箱なんて二度しか見たことがない。
一度目は愛刀『三千世界』だった。
俺は、売るよりも格好よさとロマンを取った。
ヒメノに三度目のプロポーズを断られた直後だった。
ヤケになって、ダンジョン深層へ潜り続けていた頃だ。
だから、愛刀は何より必要だった。
「小せえ! 小せえぞ!」
しかし、若返り薬なんて要らない。
人生、いかに燃えるかだ。
最後に笑って終われるなら、それで十分だ。
「俺に投資しろ! ラーメン屋、やるぞ!」
第一、今の俺は若返ってるしな。
女になったけどさ。
「豚骨醤油で勝負するんだ!」
俺の完璧な将来設計に、三人が顔を見合わせる。
「ラーメン屋か……」
「いや、悪くねえ。当たれば、デカいぞ」
「Sランク冒険者が始めた。
……ってのは、抜群のブランドになるな」
ここで即座に否定しない。
その判断力は評価してやろう。
「よーし! 明日、揃いの黒Tシャツを買いに行くぞ! ユニフォームだ!」
雑魚から子分に昇格だ。
最低時給でこき使ってやる。
「神崎さんの今の見た目だと、店主っていうより看板娘だね」
「いや、それが受けるんじゃねえか?」
「姫様ラーメン……。アリだな!」
だが、敬意が足りない。
「姫じゃねーつってんだろ!」
三人は腹を抱えて笑っている。
「だけど、今の俺は機嫌がいい! 寛大な心で許してやろう!」
ふん、と鼻を鳴らした。
「今日は俺の奢りで飲みにいくぞ! 朝まで、どんちゃん騒ぎだ!」
「姫様、お供します!」
「姫様、一生ついていきます!」
「えっ!? 本気でラーメン屋、やるの?」
冒険者稼業は辞めない。
俺は、日本に必要なSランク冒険者様だからな。
本業はラーメン屋。
冒険者は趣味だ。
そう思いながら、ギルドの扉を開けたその時だった。
「あっ、あの女の子が神崎さんですよ」
「あん?」
受付のほうから声がした。
馴染みの受付嬢が、誰かを案内するように俺を指さしている。
その人物が、ゆっくりとこちらを振り向く。
顔を見た瞬間。
俺は息を呑んだ。
「なっ!? ヒ、ヒメノっ!?」
四か月と二十一日ぶりの顔だった。
最後に会った時から、何も変わっていない。
いや、変わってしまったのは、俺のほうか。
「ほ、本当に……。し、士郎なの?」
ヒメノは信じられないものを見るように、俺を見つめる。
「そ、そんなことより、どうしてここに?」
思わず視線を逸らす。
女になった姿を、見られたくなかった。
親にも伝えていない。
伝えれば、隣に住むヒメノの耳に入る。
それだけは、避けたかった。
「士郎が、不治の病にかかったって聞いて……。」
その言葉に、口を固く結ぶ。
たぶん、ギルド長だ。
俺はSランク冒険者様だから、国への報告が必要だったらしい。
あのおっさん、『上手いこと言っとく』と笑ってたくせに。
どこが上手いんだ。
「まあ、不治の病だけどさ。俺は俺だぜ?」
いつもの調子で笑う。
身体が変わっても、俺は神崎士郎だ。
上手く笑えていただろうか。
「……てぇてぇ」
「へっ!?」
次の瞬間。
ヒメノの鼻から、つーっと鮮血が流れた。
目は怪しく輝き、息は荒い。
「ぎゅっとしていい? くんくんしていい? いいよね?」
「お、お前……。そ、そっち側だったのか」
思わず後ずさる。
俺、知ってる。
これ、女性向け風俗店で見た嬢と同じ目だ。
「ダメ! もう我慢できない! 士郎が悪いんだぞ!」
「うぎゃーーーっ!?」
その日、俺はモンスターでもない相手に、久しぶりに敗北した。
やっぱり、ヒメノには勝てなかったよ。




