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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第五章

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79話 基礎攻撃魔法の特訓

地下訓練施設。

ひんやりとした空気と、床に描かれた幾何学模様の魔法陣は、あの日から変わっていない。

違うのは、ハルトの右手首に、もうあの腕時計がないことだけだった。


「時計、なくなっちゃったから……なんか、変な感じがするよ。手首が軽いっていうか」

「その代わりに、これから鍛えるものがあります」


訓練着姿のヒマリが、迷いのない声で言った。

そらと戦ったあの夜以来、彼女の目には、これまでにない張り詰めた色が宿っている。


「今日から、攻撃魔法の基礎訓練に入ります」

「攻撃……魔法」

「はい。石を浮かせること。時間を遅らせること。ハルト君はこれまで、間接的な魔法しか使ってきませんでした。ですが」


ヒマリは一度言葉を切り、まっすぐにハルトを見据えた。


「そらとの戦いで、あなたは何もできなかった。……いえ、これは責めているわけではありません。単純な事実として、です」


図星を突かれ、ハルトは奥歯を噛んだ。あの夜、電柱の陰で拳を握りしめることしかできなかった自分の姿が、まだ鮮明に焼き付いている。


「攻撃は、最大の防御です。守るための力を持たない者は、結局、誰かの後ろに隠れることしかできません」

「……うん。わかってる」

「ただし」


ヒマリは、ホワイトボード代わりの黒板に、簡単な図を描き始めた。


「あなたが魔法を始めてから、まだ二か月です。いきなり複雑な攻撃魔法を求めるつもりはありません。まずは、誰もが最初に習得する、基礎中の基礎――ただ一直線に、力をぶつけるだけの魔法を覚えてもらいます」

「一直線に……力を、ぶつける」

「そうです。応用も装飾もいらない。ただ、まっすぐに。それができて初めて、次の段階に進めます」


ヒマリは黒板に、一本の直線を描いた。


「イメージの根本原理は、石を浮かせた時と同じです。明確に、迷いなく思い描いたものだけが、力になる」


ハルトは、右手のひらを見つめた。

何もない、ただの手のひら。

時計も、頼れる道具も、もうそこにはない。


(一直線に……力を、ぶつける……)


脳裏に浮かんだのは、駅のホームから見た、まっすぐに伸びていく線路だった。

分岐も、迂回もない。ただ、始発駅から終着駅まで、一切の寄り道なく突き進む、1本の列車。

遅れも、逸れもしない。

定刻通りに、まっすぐに、目的地まで。

まるで特急列車のようだと、ハルトは感じた。


「……直通特急に……乗せる感じ」


無意識に、そう呟いていた。

ハルトは小さく息を吐く。

ヒマリは、首を横に傾けた。


「いや、なんでもない。……先輩、やってみます」


ハルトは大きく息を吸い、掌を魔法陣の中心――設置された的の方へと向けた。

目を閉じ、思い描く。

線路の上をひた走る、一本の光。迷いなく、まっすぐに、目的地だけを見据えて進む力。

パチン、と何かが弾ける感触が、掌に走った。


「――!」


目を開けると、掌の中心に、小さな青白い光の粒が生まれていた。

それは頼りなく揺らめきながら、糸のように細い光条となって、的に向かってわずか数十センチ、力なく飛んで、地面に落ちた。


「……これだけ?」


思わず、拍子抜けした声が漏れる。


「上出来です」


だが、ヒマリの声には、皮肉の色は一切なかった。


「初めての攻撃魔法で、明確な形を保ったまま発現させられただけでも、十分すぎるほどの成果です。石を浮かせるまでに、あなたは二週間かかった。今のは、一度で成功しています」

「……そう、なのかな」

「はい。……ただし」


ヒマリの表情が、すっと引き締まる。


「今の威力では、蟻一匹倒せません。ここから先は、繰り返しの積み重ねです。イメージの精度を上げ、込める魔力の量を上げ、発動までの速度を上げる。地道な作業ですが――」


ヒマリは、ハルトの目をまっすぐに見た。


「あなたなら、できます。時計に頼らず、二週間で石を浮かせてみせた、あなたなら」


その言葉に、ハルトは小さく笑った。


「先輩がそこまで言うなら、やるしかないよね」

「ええ。付き合いますよ、いつまでも」


前にも聞いた言葉だった。

だが、その響きは、今のハルトには、以前よりもずっと重く、そして温かく感じられた。


もう一度、掌を的へと向ける。

線路は、まだ短い。

それでも、まっすぐに、確かに、その先へと伸び始めていた。

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