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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第4.5章

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70話 浅野家の子供達

「まずは、そらの話からしましょうか」


おとはの声色が、僅かに低くなった。

先ほどまでの、どこか楽しげな響きが薄れ、代わりに、覚悟を決めたような静けさが滲む。


「……そらくん、ですか?」

「ええ。あの子……見ない間にあんなに不良になっちゃって! 次あったら、説教しないと!」


おとはは、わざとらしいくらい明るく笑ってみせた。

けれどその笑い方は、どこか無理に作られたもののように、ハルトの目には映った。


ハルトは、乾いた笑い声をあげた。

なんと返せばいいのか、わからなかった。


「……でも、私はそらに酷いことをしてしまった」


おとはの声から、笑いの気配が消えた。

テーブルの上の紅茶が、ゆっくりと湯気を細くしていく。


「そうなんですか?」

「うん。あの子が学校のことで悩んでるの、私は気づいてあげられなかった」


その言葉と同時に、白く霞んだ空間の輪郭が、ふわりと揺らいだ。

まるで水面に映る景色が波紋で歪むように、目の前の光景が塗り替えられていく。


ふと、ハルトの目の前には見知らぬ誰かの映像が流れてきた。

小さくて内気な男の子と、それを蹴ったり暴言を浴びせて遊んでいる背の高い男子たち。

それを、庇う一人の少女。


そして、母親の前で、笑顔を見せる、二人の子供たち。


「……私を封印したのは、そらよ。私が悩みに気づいてあげられなかったあの子は、ファーベルという悪魔に目をつけられた」


一人の好青年が内気な少年に差し伸べた優しい手。

それを優しく、そして力強く握り返すまだ小さな子供。


映像は、そこで途切れた。


おとはの声は、どこまでも静かだった。

怒りも、憎しみも、そこにはない。あるのは、ただ、深い悔いの色だけだった。


「だからね、もし今度会えたら、いっぱいあの子とお話しないとね……」


その言葉の軽さと、目の奥の暗さの落差に、ハルトは何も言えなかった。

慰めの言葉も、相槌さえも、この場にはふさわしくない気がした。


沈黙が、白い空間に、しばらく漂う。


やがて、おとはは小さく息を吐き、両手でぱんと膝を叩いた。

その仕草だけは、妙に軽やかだった。


「少し暗い話が続くわ。娘についても、話しておかないとね」

「……アサの話?」

「うん。……ねぇ、ハルト君。あなたは、娘の本当の名前を知ってる?」

「もちろん知ってますよ。アサの本当の名前って……あれ?」


アサって、名前、何て言うんだっけ?


そう言えばハルトは、彼女から名前を聞いたことがないことを思い出した。

周りの人間も、彼女のことは、浅野さんだとか、アサだとか、苗字で呼んでいた。

今まで当たり前だと思っていた事実を思い返して、強烈な違和感がハルトを襲う。


まるで、記憶の中にぽっかりと穴が空いているような感覚だった。

思い出そうとすればするほど、その穴の縁が、するりと逃げていく。


「落ち着いて、ハルト君。彼女は、名前を封印されているの」

「……え?」


おとはは、静かにハルトを見た。

その目には、隠し事をする者特有の、どこか申し訳なさそうな色が滲んでいた。


「あの子の本当の名前は――今、この世界の誰も、呼ぶことができない」


ハルトは、すぐには言葉の意味を飲み込めなかった。


「誰が、そんなことを……」

「それは、今はまだ、話せない」


おとはは、そう言って、優しく、けれどきっぱりと首を振った。


「ごめんなさい。焦らしているわけじゃないの。ただ、順番があるんだ、こういう話には」

「……」

「一つだけ言えるのは――その封印は、悪意でかけられたものじゃない、ということ。むしろ、あの子を守るためにかけられたもの。それだけは、覚えておいてちょうだい」


ハルトは、しばらく黙り込んだ。

知らなかった真実が、また一つ増えた。それも、今まで隣にいた友人の、根幹に関わるような真実が。


「……そうだったんですね」


それだけ言うのが、精一杯だった。


「……そんな顔しないで。まだ、話したいことは、山ほどあるんだから」


おとはは、そう言って、また新しく紅茶を注いだ。

湯気が、白い空間の中に、静かに立ち上っていく。

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