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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第四章

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66話 弱者

「さて、わが主は行ってしまわれましたし、少しお話でもしましょうか、秋津ハルト君」


そらの声は、先ほどまでと変わらない、あの穏やかな響きのままだった。

だが、もうその声のどこにも、ハルトが知っていた「そら」の温もりは残っていなかった。

皮膚の下を這う黒い紋様が、まるで血管のように顔から首筋にかけて浮き上がり、彼の輪郭を人間ではない何かへと変えつつある。


「て、てめぇ!」


床に崩れ落ちたヒマリの体を抱きかかえたまま、ハルトは震える声を絞り出した。


「おっと、口のきき方には気を付けてくださいね。大好きな先輩のようにはなりたくないでしょ?」


そらは口の端をわずかに吊り上げ、静かに一歩、二歩とハルトへ歩み寄る。

その足取りには、緊張も焦りも、微塵も感じられなかった。獲物を前にした余裕そのものだった。


「僕達を騙してたのか!」


ハルトの声が、怒りと悲しみで裏返る。

喉の奥から、熱いものが込み上げてくるのを、必死に抑え込んでいた。


「騙す? そうですね。この場合は、だまされる方が悪いですが」


そらの声には、微塵の悪びれもなかった。

むしろ、退屈な問いに答える教師のような、突き放した口調だった。


「秋津ハルト君、まず君は、アサが攫われた当日に、僕が現れた時点で、自分の違和感に従うべきでした。ですが、それをあなたがしなかった理由は単純です」


そらは、そこで言葉を区切った。


「あなたが馬鹿だからです」


その言葉は、刃物よりも鋭く、ハルトの胸の奥深くを貫いた。


反論しようとした。

何か、言い返したかった。

だが、開いた口からは、掠れた息だけが漏れ、言葉にはならなかった。

指輪の光も、これまで積み重ねてきた特訓も、信じてきた絆も――全てが、目の前の現実の前では、あまりにも無力だった。


「続きの話をしたければ、もっと賢くなってから、出直してきてください。……もっとも、そんな日は永遠に来ないと思いますが」


そらの姿が、闇に溶けるようにして遠ざかっていく。

ハルトはそれを止めることもできず、ただ、両腕の中にある、既に温もりを失いつつある体を、強く抱きしめることしかできなかった。


どうしてこうなってしまったのか。

何がいけなかったのか。


指輪の宝石は、もう青くも黄色くも光っていない。

ただ、鈍く濁った色のまま、静かに沈黙していた。


ハルトの中には、決して消えることのない後悔が、腐った鍋のように、いつまでも重く回り続けていた。


「……ると君! ハルト君!」


遠くから、聞き覚えのある声がした。

だが、その声すら、今のハルトには水の中で聞くように、ひどく歪んで届いた。


肩を強く揺さぶられ、ハルトが次に気づくと、目の前に、マモン、エンヴィー、そして、ミニラストがいた。


「……あれ? ミニラスト……? どうして? どうしてそんなにボロボロなの?」


ハルトの声は、自分でも驚くほど平坦だった。

目の前の光景と、今しがた起きたこととの区別すら、うまくつかなくなっている。


三人の姿は、あの別れ際とは似ても似つかないほど傷だらけだった。

マモンの整えられたスーツは所々が黒く焦げ、エンヴィーの片角はさらに深く折れている。

ミニラストの纏う黒いドレスも、裾が無残に裂けていた。


「そんなことは今はいいの! とにかく、今すぐ何があったのか、教えて!」


ミニラストの叫びに近い声が、ようやくハルトの意識を、目の前の現実へと引き戻した。

視線を落とすと、腕の中のヒマリの顔が見える。

安らかとも言える、静かな表情だった。

まるで、少しだけ眠っているかのように。


だが、その体からはもう、何の温もりも、鼓動も、返ってこなかった。

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