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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第三章

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53話 電話

「もしもし、ハルト君? まだ起きてたんだね」


スピーカーの向こうから、いつもと変わらない、少し弾んだようなアサの声が聞こえてきた。


「うん。今寝ようとしてたところだよ」


ハルトは、声が弾んでしまいそうになるのを悟られないよう、わざと少し不機嫌そうな、ぶっきらぼうな声を出した。

ただの照れ隠しだ。


「そうなの? 悪いことをしたわね」


アサはそう言いつつも、ケラケラ笑う。

全く反省してないみたいだ。

だが、今のハルトにとって、その無邪気な笑い声がひどく心地よく、ささくれた心をじんわりと温めてくれるように感じられた。


「でもいいわね。深夜の通話って。恋人ごっこしてるみたいで」


不意に投げ込まれたアサの甘い言葉に、ハルトは心臓が跳ね上がるのを感じた。


「なんだよそれ。僕達は、相棒であり、友達だろ? 恋人だなんて、そんな……」


アサにはもっといい相手がいる。自分には無理だ。

そんな言葉は、ハルトの口から飛び出すことはなかった。

以前のハルトなら、なんでもないことのように言っていたであろうセリフが出てこない。


「あれ……?」


電話越しの沈黙を敏感に察知したのか、アサの声にからかうような色が混じる。


「どうしたの? ハルト君? もしかして、ドキドキしてる?」

「んなわけあるか」


ハルトは慌てて声を荒らげた。

嘘だ。

実際今、ハルトの心臓の鼓動は高鳴っている。

アサが電話をかけてきてくれたことが嬉しかったのだ。


「でもざんねーん。私は、ハルト君の恋人ではありませーん」

「……知ってるよ。なんだ? 夜中にわざわざ僕をからかうために電話してきたのか?」


ハルトは拗ねたように唇を尖らせた。


「そうだよ?」

「……この女!」


悪びれもせず即答するアサに、ハルトは暗闇の中でスマホを強く握りしめた。

どうやら完全に彼女のペースに乗せられているらしい。


「でも、良かったよ。ハルト君が元気そうで」


笑い転げていたアサの声が、ふと、優しく柔らかなものに変わった。


「なんだよ。僕はいつでも元気だからね」

「うんうん。それでこそハルト君だ」


電話越しに、小さく息を吐くような、アサの静かな笑い声が聞こえてくる。

心地の良い笑い声だ。

ずっとこのまま、他愛のない会話を続けていたい。そう思った矢先だった。

ふと、アサが笑うのをやめた。


「ねぇ、ハルト君。もし、私がいなくなっても、YouTube続ける? 鉄道好きでいる?」


それは、なんでもない世間話の延長のような、いつもの明るいトーンで紡がれた言葉だった。


「……なんだよ。いきなり」

「ちょっとね。聞いてみたかったんだ」


ハルトはこの時、深くは考えなかった。


「うーん……まあ、鉄道好きではいるんじゃないかな? YouTubeはどっかで辞めてるかもしれないけど」


少し考えて、ハルトは正直に答えた。

アサという相棒がいなければ、あのハチャメチャで楽しい動画は作れない。


「……そっか!」


アサは一呼吸おき、パッと花が咲いたような明るい声を出した。


「やっぱりハルト君は純粋な鉄オタなんだね! 安心したわ!」

「あのなぁ、僕は生まれた時から鉄オタやってるんだ。鉄オタ魂をなめるんじゃないぞ」

「うん、わかってる。……あっ、私そろそろ眠くなってきたから、寝るね」

「そうか。おやすみ」

「うん。おやすみ、ハルト君」


プツッ。

唐突に、通話が切れた。

スマホを耳から離すと、画面はすでに通話終了の表示に戻り、部屋には再び重い静寂が降りてきた。


『もし、私がいなくなっても、YouTube続ける? 鉄道好きでいる?』


電話を切った今になって、その唐突すぎる質問が、ハルトの頭の中で何度も何度も反芻し始めていた。


(なんで、あんなこと聞いたんだ……?)


『守るべきもの、捨てるべきもの。何を大事にし、何を諦めるか、判断を間違えてはいけないよ』


ふと、暁の電車の中でラストが残した言葉が、脳裏を掠める。

ハルトは、真っ暗な天井を見つめた。

自分はあの時、何か正しい答えを返せなかったのではないか。

何か、取り返しのつかないほど「だいじなもの」を見落としているのではないか。

そんな正体のない不吉な予感が、胸の奥でふと頭をよぎっては消えるのを、ハルトは朝まで幾度も繰り返していた。

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