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Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第三章

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52話 明日、二人に話そう

「さて、話はこんなところかしら」


ミニラストは流木から降りると、ドレスの裾についた砂を軽く払った。夕闇はすっかり濃くなり、波の音だけが辺りを支配している。


「今日はもう遅いし、私達はこれで失礼するわ。……あ、そうそう」


思い出したように、ミニラストは振り返った。


「契約の詳細は追々連絡するから。マモン、ID交換しておいて」

「かしこまりました」


マモンが懐から、見慣れたスマートフォンを取り出す。

ハルトが呆然としている間に、画面には見慣れた緑色のアイコンのアプリが立ち上がっていた。


「では、失礼して。……はい、これでワタクシたちのグループに追加完了です」

「ちょっと待って。お前ら、普通にLINE使うの……?」


ハルトは思わず声を上げた。

悪魔という存在に対して抱いていた、どこか神秘的で人間離れしたイメージが、音を立てて崩れていく。


「あら、何かおかしい?」


ラストが心底不思議そうに首を傾げる。


「おかしいっていうか……。もっとこう、水晶玉とか、契約の紋章みたいなのでやり取りするものなんじゃ……」

「今どき水晶玉とか、逆に不便すぎるでしょう。既読機能もないし」

「既読機能で悪魔と契約の連絡を取り合うなよ……」

「何かあれば、それで連絡してください。……ああ、YouTubeのコラボの件も、そのうちまた改めてご相談させてください」

「こんな状況で、それ言う?」


ハルトが呆れて聞き返すと、マモンはにっこりと笑うだけだった。


「じゃあね、坊や。……メイドちゃんも」


ミニラストがアオイに向けて一言だけ添えると、アオイは無言のまま、小さく頭を下げた。

三人の悪魔は夕闇に溶けるようにして姿を消した。あとには、ハルトとアオイ、そして波の音だけが残された。


「……帰ろうか」


ハルトが声をかけると、アオイは黙って頷いた。二人は無言のまま、来た道を戻り、鎌倉高校前駅への階段を上った。



江ノ電の車内は、行きに見たあの賑やかさが嘘のように静かだった。

この時間になると観光客も減り、地元の乗客がぽつぽつと座っているだけだ。

窓の外には、もう真っ暗になった海の代わりに、ぽつぽつと灯る民家の明かりが流れていく。

ハルトはロングシートに腰掛けたまま、スマホの画面に表示された「トライアングルデビル」という名前のグループトークを見つめていた。


(僕は、いったい何を背負ったんだろう)


契約という言葉の重みが、今更になってじわじわと肩にのしかかってくる。

悪魔のボスを倒す――自分一人の力では到底無理な話だ。

アサやヒマリを巻き込むことになるのは避けられない。二人に、なんて説明すればいいのだろう。

いや、それだけじゃない。


(アオイのことも、巻き込んじゃったな)


隣に座るアオイをちらりと見る。

彼女は窓の外に視線を向けたまま、いつも通りの静かな横顔をしていた。

今日一日の出来事――旅行、襲撃、悪魔との対話――そのどれもが、彼女にとっても穏やかならざる体験だったはずだ。

なのに、その顔には疲労の色すら見えない。


(アオイは、本当に何も知らなかったのかな)


先ほどのアオイの発言が、頭の中で何度も反芻される。


『それ、後付けの理由ですよね』


あの場で誰よりも早く違和感に気づいたのは、他でもないアオイだった。


「……アオイ」

「なんでしょうか」

「さっき、その、ミニラストたちの話が『後付けだ』って、よくすぐに分かったね」


アオイの睫毛が、ほんの一瞬だけ揺れた。


「……勘です」

「勘、か」

「はい。勘です」


同じ言葉を、まるで自分に言い聞かせるように繰り返すアオイ。

ハルトはそれ以上、踏み込む気にはなれなかった。

彼女がそう言うなら、そういうことにしておこう。そう思う一方で、胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚が残った。

電車は終点の藤沢駅に着き、二人は無言のままJRへの乗り換え口へと歩いた。



秋津家に着く頃には、時刻はすっかり夜の二十二時を回っていた。


「お風呂、先にどうぞ。すぐにご用意します」


玄関に入るなり、アオイはいつもの調子でそう言った。

あの海辺での出来事など、まるでなかったかのような、いつも通りの声だった。


「アオイこそ、先に休んでいいんだよ。今日、色々あったし」

「いえ。……私は、ハルト様のお世話をするのが仕事ですから」


そう言い切るアオイの表情に、ハルトはそれ以上何も言えなくなってしまった。


風呂から上がり、自室のベッドに横になったハルトは、天井を見上げたまま、しばらく動けずにいた。

肩の傷は、ミニラストの治癒魔法できれいさっぱり消えている。

だが、そこにあったはずの痛みの記憶は、まだ体の奥に残っているような気がした。


(浅野の……先代、か)


ラストが最後まで明かさなかった「もう一人」の存在。

そして、契約に伴う漠然とした条件。

「必要な方向に力を使うこと」――その意味を、ハルトはまだ理解できていない。


枕元のスマホを取り、先ほどのグループトークをもう一度開いてみる。


(アサとヒマリ先輩には、なんて説明しよう)


正直に話せば、二人は間違いなく巻き込まれる。

かといって、隠し通せる自信もない。

何より、隠し事をすることに、ハルトはあまり慣れていなかった。

スマホの画面を点けると、時刻は二十三時を回っていた。

アサからもヒマリからも、特に連絡は来ていない。ごく普通の、いつも通りの夜だ。

その「普通」が、今はやけに貴重なものに感じられた。


(明日、二人に話そう)


そう決めて、ハルトはスマホを閉じ、目を閉じた。

だが、なかなか寝付けない。

瞼の裏に浮かぶのは、夕日を背にしたミニラストの笑み、そして――一瞬だけ見せた、アオイの強張った指先だった。


ハルトのスマホが、小刻みな振動と共に軽快な音楽を流し始めたのは、ちょうどその時だった。


「アサ?」


着信欄には、ハルトの一番の相棒の名前が記されていた。

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