二章おまけ ヒマリ教授の鉄道講座~駅弁編~
「『YouTuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女』の読者のみなさん! ヒマリ教授の鉄道講座のコーナーへようこそ」
カメラの赤いランプが点灯したのを確認し、白衣姿のヒマリがビシッとポーズを決める。
「ようこそだぜ~!」
その横から、いつもの元気な声と共にアサが元気よくフレームインしてきた。
「このコーナーを担当しているヒマリと」
「アサだぜ!」
息の合った挨拶で、すっかりお馴染みとなったおまけコーナーの幕が開く。
「というわけで、本編の方では、ようやく、2章が完結しましたね」
ヒマリが手元の台本に目を落としながら言うと、アサはわざとらしく大きなため息を吐いた。
「全く……。途中で作者が失踪してしまうものだから、どうしたものかと思ったわ」
「まあまあ。一旦それは置いておいて。今回は、第二章の裏話を一つ、しようと思います」
カメラの向こう側にいるであろう創造主へ向けてジト目を送るアサをよそに、ヒマリは華麗にスルーして話を本筋に戻した。
「よっ! 待ってました! ……とは言っても、今後のネタバレにならない範囲で、第二章の裏話なんてできるのかしら?」
「はい。なので、私もずいぶん悩みました。……ところで、アサ。私達は第二章で、宇都宮に行きましたよね?」
「ええ。宇都宮に行って、餃子屋さんを活性化させるという依頼をこなしたわね」
「でも残念ながら、宇都宮駅では現在、餃子の駅弁は販売されていないようです」
「そうなの!? 折角有名なのだから、駅弁で販売すればかなり売れそうなのに……」
「まあ、餃子なので、匂いとかの問題があるのかもしれませんね……」
アサがガッカリしたように肩を落とすのを見て、ヒマリはフリップを取り出した。
「ということで、今日のコーナーは、ハルト君を含め、私達3人が食べたい駅弁が、実際に存在するのか、調査してきました! パチパチパチ〜」
「……なんか、怪しいインタビューがつい最近あったと思ったら、あんたこんなことしてたのね……」
「まあまあ。さて、ではまず、ハルト君の食べたい駅弁から」
「ハルト君の食べたい駅弁……何かしら……?」
いつもマニアックな鉄道知識を披露する彼のことだ。
さぞ渋くて歴史のある、例えば真っ黒な海苔弁や、昭和から続くかしわめしなどを想像し、アサはゴクリと息を呑んだ。
期待と不安が入り混じる中、ヒマリはフリップのシールをペラリと剥がし、淡々と読み上げる。
「新幹線容器に入ったお子様弁当だそうです」
「へぇ……お子様べん……は?」
アサの思考が一瞬停止した。聞き間違いかと思い、もう一度ヒマリの顔を見る。
「新幹線容器に入ったお子様弁当だそうです」
ヒマリは一切の感情を交えず、録音音声のごとく全く同じトーンで繰り返した。
「ちょっと待って。繰り返さなくていいから。……なるほど、ハルト君はお子様ランチに愛着を持ってる人間……いわゆる子供おじさんなのね……」
「それ多分意味違うと思いますよ」
アサの偏見に満ちた呟きに冷静にツッコミを入れつつ、ヒマリもアサも心の底では密かにこう誓っていた。
ヒマリもアサも、ハルト君へのお弁当は、タコさんウインナーや卵焼きを入れようと思ったのだった。
「さて、それでは、次は私、ヒマリですね」
「ここで、カレー弁当が好きとか言い出したら、怒られるわよ」
「またサイレントビーム喰らいますか?」
「わ、悪かったわね! ……それで、何がいいのよ」
過去のトラウマを掘り起こされて少し身構えるアサに対し、ヒマリは少しだけ視線を泳がせて、照れくさそうに口を開いた。
「そうですね……フルーツサンドの駅弁があったら、食べてみたいですね」
「今時の女子〜。……でも、フルーツサンドの駅弁なんて、本当に存在するのかしら?」
「一応、東京駅や新大阪駅の駅ナカで、フルーツサンドの駅弁が売ってるらしいですよ。カンペ曰く、駅弁って言っていいのか、微妙なラインらしいですけど……」
「まあ、駅で売ってる弁当なんだから、駅弁と呼んでいいんじゃないかしら?」
「それもそうですね。それじゃあ、最後に、我らがメインヒロイン、アサの食べてみたい駅弁を紹介します」
「……ああ、私のやつは趣旨から少し外れてるわ」
「そうですね……。浅野さんが食べたい駅弁は、仙台の牛タン弁当だそうです。……一応、理由を聞いてもいいですか?」
ヒマリに話を振られ、アサは待ってましたとばかりに胸を張り、ドヤ顔を決めた。
「フフン。よく聞きなさい、ヒマリ。なんと、仙台の牛タン弁当は、フタを開けた瞬間に、モクモクと煙が出るらしいのよ! 面白そうだと思わない!?」
アサは子供のように目をキラキラさせ、両手を広げてその未知の弁当に対する感動を身振り手振りで表現した。
しかし、対するヒマリはスッとメガネの位置を直し、微塵も共感を示さずにバッサリと斬り捨てる。
「ハイハイ。酸化カルシウムと水が急速に化学反応して、その反応熱で、水蒸気が発生するんですよね」
「ちょっとヒマリ。なんでそんな淡々とした感情のない反応なのかしら? あと、どうしてその原理を知ってるのか説明してくれない?」
せっかくのワクワクを科学の力で一瞬にして粉砕され、アサは不満げに唇を尖らせた。
「えーっと……子供だなぁって……」
「誰が子供よ! ぶっ飛ばすわよ!」
「まあまあ。この間、理学部の授業で、先生がポロっと言っていたんですよ」
「はぁ。で、満足かしら?」
「はい。今日の講座で、読者の皆さんに、我々メインキャラクターの食べてみたい駅弁をわかってもらえたのではないかなと思います」
アサの怒りがこれ以上沸点に達する前に、ヒマリは綺麗にまとめに入った。
アサも「しょうがないわね」とばかりに肩をすくめる。
「そうね。なかなか悪くない内容だったわ」
「というわけだ、本日のヒマリ教授の鉄道講座はここまで。また本編でお会いしましょう」
「バイバイだぜ!」
カメラに向けて元気よく手を振る二人。
こうして、ドタバタな裏話コーナーの収録は、無事に幕を閉じたのであった。
次回から、第3章始まります。
執筆中のため、しばらく休載します。
ごめんなさい。




