↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Youtuberの旅行オタクと方向音痴の魔法少女  作者: エアポート快特
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/130

二章閑話2

魔界。

常に赤黒い月が浮かび、地表からは瘴気が立ち上るこの世界の一角に、悪魔たちが集う酒場『プルガトリオ』があった。

重厚な扉の向こうでは、下級悪魔たちの下品な笑い声と、グラスがぶつかる音が絶え間なく響いている。


「んだよ、マモン。どんだけ俺を待たせるつもりだ。ぶち殺すぞ」


薄暗い店内の奥の席。

ボロボロのコートを纏った『嫉妬』の悪魔・エンヴィーが、ジョッキをドンとテーブルに叩きつけて凄んだ。


「おやおやエンヴィーさん、先に飲んでいらしたとは。お待たせして申し訳ないです」


悪びれる様子もなく現れたのは、細身のスーツを着崩した『強欲』の悪魔、マモン・クロードだった。


「お前の謝罪には、とてもじゃないが誠意を感じられない。……まあ、それもいつものことか」

「フフ、わかっていただけて何よりです。ワタクシ、非常に忙しい身でして」


慇懃無礼な態度で対面の席に腰を下ろすマモンに対し、エンヴィーは不機嫌そうに顎をしゃくった。


「で、今日は何の用だ?」


エンヴィーは不機嫌そうに顎をしゃくった。

先日、人間界の土樽駅で、あの忌々しい旅行系YouTuberコンビに精神世界ごと叩き潰されて以来、エンヴィーは酒浸りの日々を送っていた。

高きプライドはずたずたに引き裂かれ、鬱憤を強い酒で流し込むしかなかったのだ。

そんなエンヴィーの腐ったオーラなど気にも留めず、マモンは楽しげに目を細めた。


「単刀直入に申し上げましょう。エンヴィーさん、ワタクシと一緒に旅行系YouTuberをやりませんか?」

「はぁ!?」


予想外の言葉に、エンヴィーは素っ頓狂な声を上げた。


「そうですかそうですか、一緒にやってくれるんですねありがとうございます」

「まだなんも言ってねぇよ! 大体人間界でYouTuberだぁ!? お前、あれから本当にやってたのかよ」


エンヴィーが呆れたように言うと、マモンは胸を張ってニヤリと笑った。

その姿は、敏腕プロデューサーそのものだったことが、エンヴィーにとって余計に腹立たしいことである。


「ええ。ワタクシはこの魔界で一番のエンターテイナーですからね。人間の『強欲』や『承認欲求』を集めるのに、YouTuberほど効率のいいビジネスはありません。再生数、高評価、そしてアンチコメントすらも極上のエネルギーになります」

「お前が頭おかしい奴なのは昔から知ってたけどよ……」

「それで、やってくれますよね?」

「ハン! お断りだぜ」


エンヴィーはそっぽを向いて、再びジョッキをあおった。


「俺はもう、人間界のあいつらに関わる気はねぇ。お前一人で勝手に動画でも何でも撮ってろ」

「おや、そうですか。それは残念です」


マモンはやれやれと肩をすくめ、わざとらしく、芝居がかったため息をついた。

そして、グラスの縁を指でなぞりながら、ふと独り言のように呟いた。


「そういえば、ラストさん、亡くなってしまったらしいですよ」


その言葉が耳に届いた瞬間。

エンヴィーは、一瞬だけグワッと目を開き、動きを止めた。

ジョッキを握る手にギリッと力がこもる。

しかし、すぐにその動揺を隠すように、ひねくれた視線を机の上のジョッキに向けた。


「……へッ。この魔界にはラストなんて名前の奴は腐るほどいる。色欲の悪魔か何か知らねぇが、どのラストか知らねぇなぁ」

「彼女は、最期まで私達のことを心配していましたね」


ピクリ、とエンヴィーの肩が揺れた。


「……チッ。あのクソババァ……。俺には、何もなしかよ」


誰にも聞こえないほどの小さな声で毒づくと、エンヴィーは残っていた酒を一気に飲み干し、ドンッとジョッキを叩き置いた。

そして、グワッと顔をあげて、真っ直ぐにマモンの細められた目を見た。

その瞳には、先ほどまでの自堕落な濁りは消え、凶悪でギラついた光が戻っている。


「気が変わった。いいぜ。お前と一緒にYoutubeやってやる。せいぜい俺を楽しませてくれよ」

「ええもちろん」


マモンは満足そうに微笑み、スッと立ち上がった。


「それじゃあ早速、移動しましょうか」

「は? ちょっとおい、マモン。どこへ行くんだよ」

「人間界ですよ。早速ですが、撮影に行きましょう」

「撮影って、そんな急にやるもんなのかよ!」


有無を言わさず腕を掴まれ、強引に引っ張られる。


「ほら、文句を言わないで。機材も既に用意してありますから」

「あっちょっとおい! こら! 自分で歩くから腕を引っ張るんじゃねー!」


薄暗い魔界の酒場に、エンヴィーの情けない抗議の声が響き渡る。

こうして、悪魔二人組による異色のYouTuberコンビが、唐突に結成されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。