33.5話
とりあえず第二章までは作り終わったので、投稿を一時再開します。
お待たせして、すいません。
廊下に再び響く足音は、どこか優雅な響きがした。
つい先ほど、3人の大学生が通った扉を、誰かが開ける気配がする。
先程のコラボ撮影の片付けを一人で行っていたマモンは、1ミリも顔の角度を変えることなく、この部屋の来訪者にトゲを刺す。
「帰ったのではなかったのですか?」
彼の無機質な言葉に、来訪者はニコリと笑った。
「いえ、忘れ物をしてしまって。悪魔に取られては大変ですから取りに来たんです」
来訪者はどうやら女のようだった。
マモンは、はぁと今日一番の大きなため息を吐いた。
鬱陶しい客人である。
「よく言いますよね……」
マモンはようやく片付けの手を止め、この部屋の来訪者の顔を見た。
知的なメガネをかけた、紫髪の女性が一人。
彼女の身体は、先程までこの部屋にいた人物と同一のものだった。
ただし、中身が違う。
彼女達がこの部屋から出ていって、10分もしないうちに一人で戻ってきたと思ったら、その中身は別人そのものだったのである。
「久しぶりですね、ラスト。いえ、あの時みたいにクソババァとお呼びした方がいいでしょうか?」
ラスト。
彼女もまた、悪魔の一人だった。
「20年経ってもクソガキはクソガキのまま変わらないのね」
女は腰に左手を当てて、首を傾げた。
「いつから気づいていたの?」
「気配自体はその身体の持ち主が、ここに来た時から感じていました」
マモンの声は素っ気なかった。
「ハルト君と魔法少女はどうしましたか?」
「ああ、あの二人ね。忘れ物があると言って、先に帰ってもらったわ。魔法少女の方は私の存在に気付いたようだけど」
「なるほど。それで、20年近く姿を見せてないと思ったら、この女の身体の中に潜んでいたんですね」
「ええ。この身体は使いやすいわ。動きやすいし、好きな感情もいっぱい食べることができる。おかげでほら、こんなに力を持つことができた」
女はそう言って、腕をぶんと一振りをした。
女の右手には、いつの間にか禍々しい剣が顕在している。
「……その身体をどうするつもりなのですか?」
「どうする? 何言ってるの? この身体はもう私のものよ? 私が何をしようと勝手じゃない」
「……それもそうですね。で、それだけを言いにここまで来たのですか?」
女は、うーんと自分の人差し指の先を、自らの顎に当てた。
「それもあるけど……今日は、あなたとエンヴィーに餞別を渡しに来たの」
「クソババアからの餞別ですか? 碌なものじゃなさそうですね」
「まあまあ。そう言わず、ハイ」
「これは……紙切れ? メモか何かですか?」
「ええ。マモンが人間界でYouTubeやると聞いたからね。これは何かヒントになると思って。詳細はメモのとおりだから、後でしっかり読んでおいてね」
「わかりました。ありがたく受け取っておきます」
「エンヴィーのクソガキは元気? 仲良くしてる?」
「今でもちょくちょく飲み歩くくらいには元気ですよ。……一体どうしたんですか? 急に」
「言ったでしょ? 餞別に来たって。最後に成長したクソガキの顔を拝めて良かったわ。随分と人間の世界に染まったのね?」
そう言って、女は再び扉を開けた。
もうここに彼女が戻ってくることはないだろう。
「ラストさん」
最後にマモンは、女を呼び止めた。
「何かしら?」
女はゆっくりと振り返る。
マモンはその姿を見て、自らが青かった時の光景を思い出した。
「お世話になりました」
マモンは女に向かって深々と頭を下げた。
その動作は、無限に続くんじゃないかってくらい、マモンにとってゆっくりだった。
再びマモンは顔を上げた。
女はニコリと笑う。
「お礼を言えるようになるなんて偉いわね」
女は、再びドアノブに手をかける。
「こちらこそ、クソガキ共の世話ができて楽しかったわ。また会いましょう」
そう言って女は部屋を出ていった。
その姿を見て、マモンは部屋の片付けを再開した。




